雪山の記憶
険しい雪山の中腹にテントを張り中で寝ていた旅人は、突然テントの中に差し込んで来た眩い光と轟音で覚醒した、。
旅人は何事かとテントの入口から外を見る。
山を下りたあと向かう方角に、巨大なキノコ雲が立ち上がって行くのが見える。
な、何だあれは?
更に良く見ようと巨大なキノコ雲を見つめていると、その巨大なキノコ雲の更に後方にも次々とキノコ雲が立ち上がって行く。
禍々しく立ち上がって行く巨大なキノコ雲を見つめていた旅人は、ハッと我に返った。
見つめていた巨大なキノコ雲が突然パっと消失したのだ。
星明かりの下、雪山の彼方に見えるのはこの雪山より小さな雪山の連なる山々が黒々と見えるだけで、巨大なキノコ雲は何処にも見当たらない。
そのとき雪山の中腹から見える山の裾野から、多数の獣の鳴き声のような叫び声が聞こえて来た。
中腹から見える広い雪原を見下ろすと何かの毛皮らしい襤褸を纏った数百体程いる獣の群れが2つ、棒切れや石を振り回しながら睨み合っている。
互いに罵声らしい叫び声を浴びせあっていた2つの群れは雄叫びらしい叫び声を上げ、手に持つ棒切れや石を振り上げて相手に襲いかかった。
薄暗く良く見えないが、雪が獣の体液で染まって行く。
一方の群れが勝ったようだ。
勝った方の群れの生き残りが襤褸い毛皮や棒切れなどの戦利品を集め、敵味方の死体を1箇所に纏めると死体を焼き焼けた肉に齧り付く。
身を震わせながら焼いた死体を食っている奴らを見ていたら、またパっと死体を食っていた奴らの姿が消える。
奴らが消えると同時に雪原に現れたのは2つの鋼鉄の塊り、片方の横腹には黒い鉤十字が描かれもう片方には赤い星が描かれていた。
鋼鉄の塊は互いの隙を伺うように動く。
突然2つの鋼鉄の塊から雷鳴が轟くと相打ちになったのか、2つの鋼鉄の塊は同時に火達磨になり動きを止めまたパっと消えた。
遠く東の方角の地平線が朱く染まり始める。
それを見てテントから外に出た旅人は、旅に出る前に村の長老に聞かされた事を思い起こしていた。
雪山の東側に広がる雪原が見える中腹で野営すると、雪山が記憶している数千万年前に高度な文明を築きながら争う事を止められずに滅亡したものたちの、滅びの過程の一部分を見せられると聞かされていたのだ。
今さっき見ていた3つの光景がそれなのだろう。
滅び去ったものたちとは似ても似つかない風体の旅人は、争う事の愚かしさを胸に刻み出発の準備を始めるのだった。