りゅうのはじめて
四月に○○通ストラテジーラボで始まった作業も半年を過ぎて落ち着きを見せていた。もうすぐ○○通の営業本体が販社を通した販売を開始すると発表する時期だ。
俺は金曜日の夕方にアパートに帰るとまどかに連絡した。
『まどか、俺だ』
『あっ、りゅう』
『明日会えるか?』
『えっ、仕事の方は?』
『一応目途が着いた。だから会う時間を作る事が出来た』
『じゃあ、朝から会いたい。ずっと会っていなかったから』
『了解。じゃあ、渋谷のいつもの所で午前十時でいいかな』
『わかった。りゅう楽しみにしている』
『俺もだ』
明日は午前十時と言っても三十分位遅れるのかな。それとも…半年くらい前は少し早くなっていたような。どっちにしろジャスト位でいいだろう。
この時間では、アパートに置いてある洗濯機は使えない。仕方なく俺は、洗濯物の袋をコインランドリに持って行くとドラム型の洗濯槽に突っ込んだ。ドラム式の洗剤は縦型と違う。仕方なしに洗剤の一回分を買って、洗剤容器に入れて回した。
隣にあるコンビニから缶ジュースを買って来るとスマホを見ながらジュースを飲んだ。その時だった。
スマホから着信音が鳴った。相手先を見ると…なんて事だ。アドレスを消していなかった元カノからだ。
そのまま切っても良かったが、もう仕事でつながりがある。仕方なしにランドリの表に出て画面をタップすると
『もしもし、神崎です』
『りゅう、番号変っていなかったんだ。良かった』
『御手洗さん、用件は何でしょう?』
他人行儀に言うと
『冷たいなぁ。プロジェクトが一段落着いたから会いたいなと思って連絡したのに』
『そういう事でしたら、また今度。失礼します』
切ろうとすると
『ちょ、ちょっと待って。切らないで』
切る前に言われてしまった。仕方なくもう一度出ると
『お願いりゅう。時間あるんでしょ。明日でも明後日でもいいから会って。お願い』
『あしたは無理です』
『じゃあ、明後日』
仕方ないか。
『分かった。明後日にしましょう』
『じゃあ、渋谷のハチ公前交番でどうかな?前はいつもあそこだったし。午前十一時でどう。お昼一緒に食べよ』
あんまり会いたくないけど。その位なら良いか。
『分かった。じゃあ、明後日午前十一時で』
『うん、待ってる』
しかし、今更何だって言うんだ。大学に入ってから会うのを断って来たのはあいつからじゃないか。それも一回や二回じゃない。だから振られたと思ったのに。勝手に自然消滅の様な言い方して。
ブツブツ言いながらランドリの中に入って洗濯物が仕上がるのを待った。洗濯物が終わると一度アパートに戻ってから、夕食を食べに外に出かけた。
この辺は、いくらでも食べ物屋が有るけど、昔と違って大分お洒落なレストランが多い。適当にかつ丼でも食べて帰ろうと思ったけど、久々に地元で食べるからとちょっと洒落たピザレストランに入った。少し暗めな店内でビールとミックスを頼むとガラスの外を見ながらビールを飲んでいた。
えっ、なんで?
まさかの顔見知りの女性が入って来た。竹内先輩に連れられて行ったスナックのバイトの子、武石優香さんだ。
何故か、入口に入った途端俺を見つけて
「あっ、神崎さんだ」
そそくさと俺の傍に来ると
「一人ですか?」
「えっ、まあ」
「じゃあ、一緒で良いですか?」
断る理由も無い。
「いいですよ」
彼女は注文を言うと
「神崎さん、何でここに?」
こっちが聞きたい。
「何でここにって言われても。俺、大学生になった時からずっとこの街だし」
「えーっ、うそー!私もずっとここなんですよ」
「でも優香ちゃん、今日は仕事の日じゃ?」
「うん、あそこのスナック辞めて、地元の知合いのスナックに勤める事にした。だって神崎さん全然来てくれなくなったし」
「いや、俺は関係ないでしょ」
「関係大ありだよ。だって私神崎さんの事気に入っていたし」
「優香ちゃん、目悪かったっけ?」
「もう、直ぐそういう事言う」
何故か騒いでいる内に頼んだピザを店員が持って来た。良く見ると彼女はアルコールを注文していない。
「私ねぇ、これ食べた後、出勤なの。あっそうだ。来ない。時間有ったら」
「俺もう飲んでるし」
「いやいや、ビールグラス一杯で足りる神崎さんじゃないでしょう。ね、ね、ね」
「わ、分かりました」
押せないくせに押されるのに弱いのか俺は。
結局、ピザを食べた後、優香ちゃんの勤めているスナックに行き、ボトルをキープさせられた。参った。
翌日は久々にまどかと会える。午前十時約束だから、ちょうどいい時間でも早いだろうと渋谷の待合せ場所に行くと、えっ?もう彼女は来ていた。
「まどか、おはよ」
「おはよ、りゅう、遅い。もう十五分前からいたんだから。お巡りさんいなかったらナンパされてたよ」
前は遅かったのに十五分前からいるってどういう事?
「りゅう、さっ、早く行こう」
「ああ」
チラッと交番の警察官を見ると我関せずの顔をしていた。まあそうだよね。
「なあ、行くって何処に」
「今日は映画見るのが先」
二人で前に行ったビルごと映画館になっている所に行くと彼女が
「あれ見たかったんだ」
指さしたのは、恋愛映画だ。まあいいかと思って入ると、結構濃いめの内容だった。上映中、まどかが俺の手をずっと捕まえている。
私が、この映画を選んだのは。内容の濃さから。この映画見て、りゅうをその気にさせるんだ。初めてはなくしちゃったけど早く彼ともっと親密になりたい。それであんな奴の付け入る隙を無くすんだ。
一時間十分と短かったけど、大分濃かった。映像が目の前に浮かぶくらいだ。上映室の外に出ると
「りゅう、ちょっと行って来る」
「俺も行くから待ち合わせはここで」
「うん」
彼女の顔が上気していた感じがする。
私はコンパオートメントに入ると直ぐに下着を脱いだ。あーっ、やっぱり。どうしよう。何とかしないと、もしこれ見られたら恥ずかしい。とにかく拭かないと。
何とかして綺麗にすると廊下にでた。もうりゅうが待っている。
「りゅう、ちょっと早いけどお昼にしよう」
「うん、いいよ」
なぜか今日は積極的だ。
映画館の近くの少し上がった所にある中華屋に入った。そこで食べながら
「りゅう、私の事好き?」
「何言っているんだ。こんな所で。勿論好きだけど」
「分かった。半年も会っていないから心配になって」
そういう事か。
二人で食べ終わると、まどかがそのまま坂を登って行く。どこ行くのかなと思うと大きな十字路で
「ねえ、りゅう。私の事愛している?」
「どうしたんだ。愛しているよ」
「じゃあ、じゃあさ」
下を向いてしまった。どうしたんだ。十字路をキョロキョロ見ていると左側に行った所に…。そういう事。でも彼女から言うなんて。初めて会った時からすれば確かに今はお互いに好いているから付き合い始めたんだけど。
「なあ、まどか。もしかして…。いいのか?」
「うん」
もうここまでくれば間違いないか。
俺は彼女の手を引いて、そう言えば初めてじゃないか、手をつなぐのも。そうしているうちにドアの前に着いた。自動ドアが開いて入ると
まあ、仕組み的には分かるけど、どれを選べばいいんだ。
「まどか、どれがいい」
「りゅうが好きな所」
適当に押して出て来たカードキーを持ってエレベータに乗った。こういうのって他の人と一緒にならないのかな?
俺は初めてでドキドキだ。あっちも当然初めてだし、こういう所も初めてだし。ええい、何とかなるだろう。
部屋の中に入ると、まあ、なんとも綺麗というか、驚いたというか、想像超えている。まどかを見ると俺をジッと見ていた。
「まどか、俺初めてで何にも分からないんだけど」
「私も初めて。でもこういうのはりゅうが、初めてがいい」
「分かった」
彼女の洋服を脱がせて下着だけになった彼女をベッドに横にして、後は夢中だった。何も分からない。女性の体も初めて、するのも初めて。彼女も大きな声を出していただけ。
りゅうが来ている。もっともっと強く。
りゅう。忘れさせて。あいつを忘れさせて。
とにかく一回目が終わって少し彼女の横になった時気付いた。あれ、彼女って初めてじゃない?確かに入れた時、痛そうな顔をしていたけど。でも彼女初めてだって言ったし。
初めて女性を抱いた。もうそれだけで良かった。彼女の体を見ていると、また元気になってしまった。
結局途中シャワーを浴びたけど、四回位した様な気がする。今は息絶え絶えで彼女の横にいる。
「りゅう、嬉しかった。怒らないで聞いて。本当はね、初めてはりゅうに上げたかった。でも高校時代に強引にされちゃって。でも一回きりだから。だから本当の初めてはりゅうだよ」
「そうなのか」
りゅう、ごめんね。本当の事言えない。だから嘘ついちゃった。
りゅうの強引さは良かったけど。でも…。
結局、俺達は午後五時位までそこにいて、その後、夕飯を一緒に食べて午後八時に渋谷の駅でまどかと別れた。別れる途中、
「りゅう、もっと会ってくれるよね」
「当たり前だよ。もっと一杯会うよ」
「毎週会えるよね」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、行くね」
何故かまどかの言葉と後姿が寂しそうに見えたのは気のせいか?
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書き始めのエネルギーはやはり★★★★★さんです。ぜひ頂けると投稿意欲が沸きます。
それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。