スナックの夏休み
俺は、翌日出社すると御手洗さんのご機嫌が良かった。いつもの様に挨拶をすると
「今日のお昼もどうかな。昨日の件で」
「いいよ」
午前中の作業が終わり、昼休み御手洗さんと一緒に七階のカフェテリアに行った。今日はカレーを選んだ。ご飯の大盛りは自由だ。
「りゅう、カレーなんて珍しいね」
「そうでもないよ。結構休みとかは、レトルトだけど食べる」
「へーっ、今度作りに行ってあげようか?」
「悪いからいい」
「悪くないけど。出来れば行きたい」
「今度ね。ところで今日は何かな?」
「休みを取る時期なんだけど、いつ位が取れそう。休む直前で出す訳には行かないし」
「今からだと、仕事の進捗を考えると八月の終りの週が良いかな?」
「分かったわ。じゃあ、その予定で行こう。ところで宿泊先なんだけど西伊豆辺りどうかな?」
「場所は任せるよ」
「分かった。任せられた」
ふふっ、あの辺なら結構、素敵な所がある。でも移動は車しかない。レンタカー予約しないといけない。
「ねえ、西伊豆だとレンタカー予約しないといけない。りゅうして貰える?」
「それくらいなら」
実際、実家に置いてある自分の車で行っても良いけど。
「楽しみだよ。りゅう」
「そ、そうか」
それからは、御手洗さんは、特に俺に何か言って来る事も無く、週末になった。午後七時までのミーティングが終わり、その後は、アパートのある町に戻って駅前のとんかつ屋で食事をした後、午後九時位に優香の居るスナックに行った。
ドアを開けると
「あっ、いらっしゃい。神崎さん」
「来たよ」
そのまま、カウンタの隅に座ると、他のお客様の相手をしていた優香が、俺の所にやって来た。そしてキープしているボトルを棚から出すと
「龍之介、夏休み有るんでしょ?」
「有るけど?」
「ママがね。八月十一日から十六日までお店、夏休みにするって言われたの。それでね、龍之介、何も決めていないなら一緒に旅行いけないかなと思って」
そういう事か、でも会社の夏休みは、八月末の週にしたしなぁ。
龍之介が考えている。忙しいから取りにくいのかな?
「ねえ、もし忙しいなら十二日の土曜と次の日曜でもいいよ。ねっ、一緒に行こう」
「そうだな。それなら無理しなくても取れるし」
「じゃあ、決まりね。何処にする?」
「急に言われても。それにまだ日にちあるし」
「龍之介、その辺はお盆ウィークだから結構取るの大変なの。だから早く決めないと」
「そう言われても」
「じゃあ、今日から日曜まで一緒に考えよ」
「へっ?!」
「ふふっ、そういう事」
いつの間にか、土曜日に優香が俺のアパートに泊って行く習慣が付いて来ている。このまま既成事実に持っていかれるのは嫌だけど、この関係は居心地がいい。でもどこかではっきりさせるんだろうな。
「龍之介、何考えているの?」
「えっ、どこ行こうかなって」
「本当?なんか別の事考えていなかった?」
「そんな事ないよ」
そんな会話をしている内に午後十時半になってしまった。お店が閉まるまでは後一時間有る。
「優香、先に帰っている。シャワーとか浴びたいから」
「分かった」
それから、俺はアパートに戻って、エアコンを先に入れてからシャワーを浴びた。偶には湯船につかりたいけど、この時期、洗うのがめんどうだから仕方ない。
しっかりと髪の毛を洗い、体も洗った後、シャワーを浴びて出た。エアコンが部屋全体を冷やしてくれている。
タオルで体を拭いた後、短パンにTシャツとラフな格好で冷蔵庫からビールを取出してテレビをつけた。付けてはみたものの見るものも無く結局消してしまった。
仕事柄こんな時間にテレビを見る習慣はないが、後で優香が来ると分かっていてから寝る訳にもいかない。
チラッと時計を見るともうすぐ午後十一時半だ。そろそろ来るだろうと思ってビールを飲みながら新聞を読んでいると少しして彼女がやって来た。
ピンポーン。
一応のぞき窓で確認してからドアを開けると大きなバッグを持っている。
「ちょっとアパートに寄って来たから遅れちゃった。シャワー浴びていいかな?」
「全然構わないよ」
風呂場、洗面所とリビングダイニングの仕切りにドアがついている。彼女はドアを閉めてからシャワーを浴びる様だ。
この辺はお嬢様というか育ちだなと思う。少し慣れたからといってシャワー浴びるのに彼氏の前で裸になる様な女性はちょっと苦手だ。
三十分程して出て来た。髪の毛はタオルに包んでアップしている。とてもいい匂いが漂って来る。
「髪の毛直ぐに乾かないから」
「ビール飲むか?」
「うん」
この感覚に慣れるのが怖いけど居心地がいいのも事実だ。
「旅行どこ行こうか?山、海、高原、温泉?」
「随分選択肢が広いな。そうだな温泉付きの海かな」
「じゃあ、西伊豆かな」
そこは御手洗さんと行く予定だ。
「西伊豆はちょっと。他の所にしない?」
「えーっ、じゃあ下田とか?」
「やっぱり山にしようか」
「もう、龍之介はっきりして」
「だって日曜日までに考えるんだろう」
「そうだけど」
「それより…」
「ふふっ、龍之介から誘うなんて珍しいね。でも髪の毛乾かすからちょっと待って」
「うん」
朝、午前九時過ぎに目が覚めた。エアコンはタイマーにしているので午前八時には付いたようだ。
俺の横で一糸まとわない優香がいる。真っ白な肌、大きな胸、しっかりと括れた腰、少し大きめのお尻。背中の途中まで伸びた髪の毛が顔を半分覆っている。
それを掻き揚げると軽く唇にキスをした。とても綺麗な顔をしている。ゆっくりと体のラインを触っていると、優香が目を閉じながら
「くすぐったい」
そう言った後、
「元気になっているね。する?」
彼女は体力が有るな。
それから午前十二時までしっかりとした。
ふふっ、龍之介は本当に優しくしてくれる。私の一番感じる所も最初優しく段々激しくして、やがて私が意識が遠のく寸前まで行くと一度止まってくれて、また激しくしてくれる。
嬉しい。相性が合うんだろうな。龍之介を離したくない。でも今のままでは、スナックで会っただけの男と女。どうすれば彼の心をしっかりと掴むことが出来るんだろう。
彼は、優しくて、それでいてちょっと強引な所も有る。それがいい。頭も良くて一流の会社に勤めていて、出世も早い。竹内さんから聞いた限りでは、実家は相当に裕福らしい。
顔も始めはなんとも思わなかったけど、こういう関係になって見るとかっこよく見える。
競争厳しいそうだけど、競争相手も見えない。モテるんだろうな。どうすればいいんだろう。
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