出張から帰って俺を迎えたものは
二ヶ月の予定だった出張も課題の解決に時間がかかり、三ヶ月弱の出張になった。明日は帰国する。
今回渡米した目的は全てではないがほぼ九十パーセント以上達成された。
一般インフラを利用しての運用に三重のセキュリティや万一のコンテンジェンシープラン、BCPポイントを何処に置くか等、日本国内のメンバともWEBを利用して検討が行われた。俺は日本からのカウンタパーソンという所だ。
初回は日本国内がターゲットだが、将来USやEU展開も想定した技術調査や検討は朝九時から夜十八時まで毎日行われた。その代わり土日は絶対に休みという感じだ。
武石さんや企画室内へのお土産も昨日までに買ってある。
そう言えば、途中御手洗さんから土日は空いているんでしょ、遊びに行ってあげるとか言われたけど、週末は疲れを癒したりしたいので、三度の依頼も断った。
帰国してから何か言われると思うから、彼女個人にもお土産を買っておいた。
帰りの便もビジネスだ。役員じゃないのでファーストクラスとはいかないが、俺の立場では充分過ぎる待遇だ。
ただ、三ヶ月近くも居たので帰国してのジェットラグには悩まされそうだけど。
帰国して土日を挟んだ月曜日に出社した。季節はもう六月を過ぎようとしている。日本は物凄い蒸し暑さだ。向こうは梅雨もなく毎日カラッとしていたので、そのギャップがきつい。
月曜日、俺は自席に荷物を置いた後、AI企画開発室長に挨拶に行った。
「室長、USでの仕事を終わらせて先週金曜日帰国しました」
「神崎、ご苦労だったな。随分向こうで活躍してくれたおかげで、日本独自の事情も充分に取り入れて貰った。今後は、今回の人材のネットワークも生かした仕事に取り組んでくれ。
後、いい知らせがある。お前は来月七月一日付でAI企画開発室副室長になる。急な話だが今週にも人事から通達が行く。
これからは、開発だけでなく、俺と一緒に対外的な仕事も行ってくれ。期待しているぞ」
「えっ、俺が副室長ですか?」
「何か不満か?」
「いえ、俺はまだ前社からの通算経歴でも五年しか経っていないので」
「何くだらない事言っている。今時、年功序列なんて会社は、この時代に生きていけると思うか。
神崎は移籍して三年だが、商用AIの研究開発では五年、それに前社はうちの技術以上の物が有ったから部門吸収したんだ。お前がAI企画開発室副室長になる事になんのおかしな事はない」
そういう事か。
「分かりました。喜んで拝命します」
「では早速だが、今回まとまった結果を皆に説明する準備をしてくれ。御手洗さん、明日からの会議室の抑えは問題ないだろうな?」
「はい、大会議室を三日間押さえています」
「神崎、帰って来たばかりだが宜しく頼むぞ」
「はい」
俺は自席に戻って、副室長の事は頭の隅に追いやり、明日からの説明資料の確認を始めた所にメールが届いた。御手洗さんからだ。
『りゅう、お帰り。早速だけどお昼どうかな』
『いいけど』
早速か。でも多分駄目になるだろうな。
案の定。昼休みなる少し前、室長から
「神崎、昼飯行こう。向こうの話を聞かせてくれ」
「分かりました」
俺はチラッと御手洗さんを見たけど、仕方ないと言う顔をしていた。
翌日から三日間、企画開発室のメンバに、今回まとまった一般インフラにおける三重セキュリティ対策とその実現方法、ステージ毎のコンテンジェンシーポイントと実行プラン、BCP拠点とその方式について説明した。質問はセクション毎に聞いた。
一通り終わると室長が
「お疲れだったな。素晴らしい内容だ。これを後方の実行部隊に展開する。本体の営業部隊も動き始める。まだまだ大変だが、宜しく頼む。
後、人事から通達が来ているだろう。そっちの仕事についても打合せしたいから、明日時間作っておいてくれ」
「分かりました」
帰国早々だが、休める気配はないな。仕方ない。
今日は定時で帰れそうなので、説明会が終わって自席に戻り帰り支度をしていると
「りゅう、月曜日のお昼も食べれなかったし、USへも行けなかったし、明日夕方、私の為に空けてよ」
「もし空いていたらね。まだ帰国後報告も落ち着いていないし、休みも取れなさそうだから休みたいのが本音」
「じゃあ、土曜か日曜会って」
「そう言われても休みたいのが本音なんだけど」
「もう、どこか空けてよ」
「あっ、そうだ。これお土産」
そう言って、USの免税店で買ったディオールの香水をあげた。
「使ってくれると良いんだけど」
「えっ、これって!」
日本じゃ数万円はする香水だ。
「ありがとう、じゃあ、これ付けるからデートしよう」
「いやいや、だから俺疲れているから」
「じゃあ、私はりゅうのアパートで癒してあげてもいいよ」
もっと疲れそうだ。仕方ない。
「じゃあ、来週の土曜日でどうかな。今週は本当に駄目」
「そこまで言うなら」
本当は、今週別の用事をしたい。
翌金曜日は室長から副室長の仕事について説明を受けた。今まで室長が行っていた仕事の半分を徐々に俺に移行させるという訳だ。
俺の仕事も後任に移行させていきながらだからとても大変になるが、立ち上がり時期だから仕方ない。
夕方は、室長から誘われた。高そうな個室の料理屋だ。
「神崎。今回は本当にご苦労様だったな。今回の件が成功すればAI企画開発室は、独自の部隊を設ける事が出来る。まだ役員と検討中だが、社内にAI本部を設ける。正式名称はこれからだが、営業部と開発部の一元構成だ。
俺はその本部長になる。そして神崎、お前は開発部長だ。だから今回の副室長というポジションも途中の階段だと思ってくれればいい。
このAI本部は、○○通本体としても期待の組織だ。神崎、活躍を期待しているぞ」
「はい、期待に添えるよう頑張ります」
「とにかく、今はクローズドの商用AIを一般インフラを利用したクラウドバージョンにする事だ。その為に、機能改善した商品を順次リリースする。お前の手腕にかかっているからな。頼むぞ神崎」
「はい」
それからは普通に食事をして飲んで別れた。室長は二次会とかいう飲み方を嫌うと本人が言っていた。見習うべきところだな。
だが、まだ金曜日にして午後八時半だ。流石にこの時間アパートで寝る気にはならない。遅くならない様にと地元のスナックに行く事にした。武石優香が居ればいいんだけど。
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