裏切りの代償
りゅう、どうしたんだろう。あまり元気のない、どちらかと言うと悩んでいる様な声だった。そんな声で大事な話があると言われた。嫌な予感がするけど彼は何も知らないはず。
私は、彼のアパートに着くと直ぐにインターフォンを押した。合鍵は持っているけどこういう時は、インターフォンを押すのが礼儀だ。直ぐに彼はドアを開けてくれた。
「まどか、入って」
「うん」
私は、彼の部屋に入ってから、テーブルの上に乗っている写真を見て声が出なかった。私と渡辺がラブホに入って行く写真や出て来た写真、それにキスをしている所まで撮られている。
「まどか、どういう事なんだ。一年以上も前から渡辺と体の関係が有ったなんて。俺と初めてする前からじゃないか」
「違う、違うの」
「何が違うんだ。この写真のどこが違うんだ。去年の四月辺り、いくら俺が誘っても断っていたよな。それからしばらくして会って、急に俺と体の関係を持とうとしたよな。つまり社内での渡辺との関係を隠すために俺を使ったって事なんだ」
「違うの、りゅう違うの」
「違うしか言えないのか。もう出て行ってくれ。もうすべて終わりだ。出て行け!」
私は座っても居ない状態で腕を掴まれてドアの側まで連れて行かれた。
「待って、お願い。聞いて」
「いい訳でもするのか。これだけの証拠が有りながら」
「お願い聞いて」
それから私は、渡辺との関係を話した。
最初は騙されて初めてを奪われた事。
それから何回か、あいつの言われるままにしてしまった事。
りゅうが居ない間にまた関係を持ってしまった事。
りゅうとの結婚を心の中で決めた時、今までの間にしている時に撮られた動画をネットに上げると脅されていた事。でもそれが結婚まで続くなんて言えなかった。
「はははっ、何て事だ。それって充分浮気じゃないか。いや俺が浮気相手だったのか。最低だな俺。そんな事に気付かずにお前の様な女に夢中になるなんてな。もう十分だよ。もう全部終わりだよ。帰ってくれ。もう二度と会わない。連絡もするな。合鍵は置いて行けよ」
「待って、待って。誤解だから」
私は、りゅうからハンドバッグに入った合鍵を取られた後、腕を掴まれてドアの外に追い出された。そして彼がドアロックを掛ける音を聞いた。
不思議に涙が出なかった。あまりにショック過ぎて出ないんだろう。それともあまりにも自分に非があるからだろうか。結婚という目の前に有った幸せを自分の愚かさで潰してしまった。
それからどうやって家に戻ったかあまり記憶にない。家に着いてお母さんから声を掛けられたけど、耳に入らなかった。
土曜も日曜も自分の部屋にいた。今の現実が全然受け止められなくて、ただ実感がわかなかった。そして段々現実が頭の中で理解してくると、もう自分でも分からない位、泣き叫んだ。
お母さんが来てずっと私を抱きしめてくれるうちに、段々落着いて来て、
「まどか、何が有ったの?」
私は、お母さんの胸の中で思い切り泣きながら、四月からの事を話した。お母さんは、ただ私を抱きしめながら
「気付いてあげれなくてごめんね」
それだけ言うと思い切り抱きしめてくれた。
次の月曜日、お母さんに会社に連絡して貰った。体調不良で当分休むって。私なんかのレベルでは、少し位いなくても何も問題ない。
それでも水曜日位になって連絡してくれる同僚もいた。但し、
「西島さん、大丈夫?営業の渡辺さんも心配しているって気にしていたわよ」
その言葉を聞いて吐き気をもよおした。同僚が悪いんじゃないあの気持ち悪さを思い出したからだ。それから一週間、私は会社を休んだ。
俺は、頭の中で整理出来るレベルでは無かった。結婚まで思い込んだ人が、俺よりも前に別の男と体の関係を持っていた。それも一年以上前から。じゃあ俺は彼女にとって何だったんだ。
アパート中で一人で飲んでいても全然消化しきれない気持ちをどうにかしたいとと思って外に出た。
行先なんて決まっている、武石さんの居るスナックだ。
「あら、めずらしい。神崎さん来てくれたんだ」
俺はそれに答えずにカウンタの隅に座った。何も言わずにいるとこの前キープしたボトルが出て来た。カウンタの中には、武石さんが居る。
「どうしたんですか。そんな顔見るの初めてですよ」
「そうか。悪かったな」
「冗談で言ったのに」
俺は、何も話さずに一人でウィスキーのロックを飲み始めた。
珍しいな。神崎さんがこんな事になっているなんて。この人は前のスナックで、竹内さんが連れて来た人。
同じ会社の人と言っていたけど、私の様な仕事をしていると、持って生まれた育ちと言うのが分かる。
竹内さんが一人で来た時にそれとなく聞いたら、とんでもないお金持ちの息子だと分かった。
でも私には常連になってくれればいい位に思っていたけど、半年以上来なくなった時が有った。
丁度その時、しつこいお客様から言い寄られていた事やこのお店に勤めている顔見知りから誘われていた事も有って前の店を止めてここに来た。
そしてこの人神崎さんと偶然再会した。でもその時限りだと思ったら、なんといきなり一人で来た。それもとても辛そうな顔をして。
「神崎さん、もう私帰りますよ。もうすぐお店閉めますから」
「うん?」
俺は勝手に一人で酔っていたようだ。
「一人で帰れますか?」
「うん?」
頭の中が回らない。
「もう仕方ないな。近所のよしみで送ります、いいですか?」
「うん?」
相当、この人酔っている。このままでは道路にでも寝てしまいそうだ。家を確かめるにも丁度いい。
「神崎さん、帰りますよ。ママ先、帰ります」
「大丈夫?」
「大丈夫です」
彼の家は思ったより近かった。でも足は千鳥足。何とか腕を抱えながらアパートに着くと
「寄って行かないか?」
「えっ?!」
「嫌ならいい」
これは棚から牡丹餅か、それとも単なる酔っ払いの一夜の相手か。どう考えればいいのかな。
でもいいか。最近してないし。今日は大丈夫そうだから。
「いやなら、帰ってくれ」
「いいよ」
彼のアパートの部屋に入ったとたん、直ぐにキスをして洋服の上から胸を揉み始めた。私は顔を逸らして
「神崎さん、分かったから。せめて上がらせて」
「そうだな」
それから何とか彼を寝室に行かせて後は任せた。もうこんなに遅い時間でお風呂にも入っていないのに、彼は積極的だった。
強引に服を脱がされ、下着もむしり取る様に脱がされると後は激しかった。私はまだ一人しか経験していない。こんなに凄い事なんてされていない。
最後は思い切り出されて終わったと思ったら、それから何回かいかされて、二人で酔いと一緒に寝てしまった。
うーっ、頭が痛い。どうしてだ。体に掛かっていない毛布を取ろうとして
えっ?俺の横にとても柔らかくて暖かいものがある。まさかまどかが。そう思って眠い目を擦りながら開けると
えっ、えっ、えーっ。な、何で、何で!
俺の横に何も纏わずに寝ていたのは、武石優香さんだった。
なんで、彼女がここにいるんだ。昨日の記憶が完全に飛んでいる。全く覚えがない。まどかを追い出した事までは覚えているんだけど。
真っ白くて綺麗で大きな胸。可愛いと言うか美人というか素敵な顔立ち。括れた腰と大きなお尻。少し見惚れていると
「うーん、あっ!」
彼女は毛布を探したがベッドの下に落ちている。急いで手で胸を隠して足を曲げると
「あ、あの。お、おはようございます」
「あ、ああ、おはようございます」
それから、彼女はさっとベッドの下に落ちている毛布を取ると直ぐに体を隠して
「起きたんですか?」
「まぁ」
言葉が続かない。
「昨日の事覚えてます?」
「ごめん」
「えっ、全然覚えていないんですか?」
「ごめん」
「はぁ、どうしてくれるんですか。いきなり私を部屋に誘って、いきなり襲って来たんですよ」
「…ごめんなさい。本当にごめんなさい。全然覚えていなくて」
これって都合いいかも。
「じゃあ、昨日言った事も?」
「俺何か言ったの?」
「うん、抱かせてくれ。俺の彼女になってくれって」
「えっ、本当にそんな事言ったの?」
「じゃあ、今のこの状況どう説明してくれるんですか?」
「それは…」
「ふふふっ、いいですよ。それよりシャワー浴びたい、昨日いきなりだったから」
「すみません」
彼女がシャワーを浴びた。新しいタオルを貸してあげた後、俺もシャワーを浴びて寝室に戻ると
「ねえ、責任取って」
「えっ、責任?」
「うん、昨日強引すぎ。もっと優しくして。そしたら許してあげるから」
「…分かった」
それから、夕方までと言っても昼を過ぎてからだったのだが、思い切り優しくしてあげた。夕食を摂ってそれからもした。彼女は結構体力があるみたいだ。
そして次の日曜日、
「一度家に帰る。洋服とか下着とか取り替えたいし。そしたらまた来ていい?」
「いいよ」
彼女は家が近いらしい。三十分もしない内に戻って来た。そしてまた夕方まで一緒にベッドの中にいた。
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