りゅうがいない一週間
りゅうがUSに出張に行った。彼の移籍した○○通ストラテジーラボの中でも商用AIの企画開発室というのは、私からは想像も出来ない優秀な人の集まりだと商用AIが世の中に公表されてから社内の人からの話で聞いた。
うちの会社が商用AIの先駆けをやっていたので、りゅうもセットで移籍したみたいだ。私なんか、AIってなに?英語なんて何?って人間だからりゅうが私の彼というのは、とても自慢できるし嬉しいけど、怖い気もする。いつの間にか私なんか捨てられ置き去りにされるんじゃないかと思ってしまう。
初めて会った時の印象からは想像も出来ない。こんなに凄い人だと最初から分かっていれば、あんな横柄な態度取らなくてもよかった。もしかしたら初めては彼に上げられたかもしないのに。でももう遅い。
だから必死で彼を捕まえておきたい。もし、万が一、彼のお嫁さんになれたらどんなに嬉しいのかな。そんな妄想も彼が居ないとしてしまう。
彼が渡米してから、まだ二日。金曜日まで後三日もある。毎日第一営業課だけの仕事じゃなくて第二営業部の仕事も回って来る。
当然、あいつの担当している仕事の作業も来るけど、なるべく他の事務の子に振る様にしていた。でも全部が全部そういう風に行く訳でもないので、どうしてもあいつと話さないといけない時がある。
そういう時は、なるべく周りに人がいる様にして自分の席で話す様にしている。はっきり言って鬱陶しい。
口先では『妻とは別居中だ。離婚する』とか言っていたけど、全然そんな気配もない。事務仲間にそれとなしに聞くと仲のいい夫婦だと言っていた。
これではっきりとあいつが私の体だけを目当てにあんな事して来たと分かった。今からでは訴える事なんか出来ないんだろうけど。
やっぱり初めてをあいつに奪われたのは悔しい。何とかして恨みを晴らしたいけど。今の私にはこんな事相談する人なんかいない。りゅうはもちろん無理だし。
今日も午前中、打合せしたいから会議室に入ろうと言うのを断って、私の席で話をした。とても会議室に入ってする程の内容じゃ無かったけど。
明日、りゅうが帰国する。今日の夜は眠れるかな。本当は午後休とっても成田に向かいに行きたいけど、成田で連絡くれると言うから、待つことにした。土曜日に会うけど、本当は明日の夜でも会いたい。彼疲れているんだろうけど。
今日も午後五時を過ぎた。残業する程の仕事はないので机の上を綺麗にして、洗面所で少しお化粧直ししてからオフィスを出た。
私が、エレベータホールで下りのエレベータを待っていると
「西島さん、話があるんだけど」
振り向くとあいつだった。
「今日は急いでいるので」
「いや、本当に急いでいるんだ」
「明日にして下さい」
丁度エレベータが来たので、それに乗ってあいつと離れた。良かった。全くしつこい。連絡先もブロックして通話記録も全て消したからあいつはスマホで連絡出来ない。だからああして声を掛けて来るんだろうけど、無視をすればいい。
西島にスマホの連絡先をブロックされて連絡が取れなくなった。仕方なしに声を掛けたが拒絶された。
西島を初めて抱いた時、まさか初めてだとは知らなかった。それにとてもあの子の体は敏感であそこもとても気持ちいい。
遊び相手としては離してはいけない子だと思ったから、妻と別居中だ。離婚するという上っ面な話で釣った。最初は信じたようだ。俺のテクが上手いのか、ベッドの上のあの子の姿態は魅力的だ。いくらでもしたくなる。
ブロックされる前は二、三週間に一度出来ていたのに。急に出来なくなった。彼氏でも出来たのかも知れない。相手が分かれば打つ手もあるんだが。
りゅう、今日の午後二時五十五分成田に着くって言っていた。飛行機が着いても色々あるだろうから午後三時半位には、連絡有るかな。
もう午後三時半を過ぎた。どうしたんだろう。
「どうしたの西島さん。そわそわして」
「えっ、あはは。なんでもないです」
「彼の事?」
「い、いえ」
「顔に書いてあるわよ」
「えっ?!」
顔を擦ってしまった。
「西島さん、本当に可愛いわねえ」
二営のお局さんみたいな事務の人だ。その時だった。スマホが震えた。
あっ、りゅうだ。周りを気にせず急いで出ると
『りゅう、着いたの?』
『ああ、便が少し遅れたけど、今手続き終わってこれから成田エクスプレスに乗る所』
『本当、連絡ないから心配したんだから』
『悪い、悪い』
『じゃあ、明日朝一で行くね』
『ああ、待っている』
良かったぁ。
「あら、彼氏さんから。その様子だと彼氏さんどこかに行って居たの?」
「い、いえ。プライベートな事なので」
「あははっ、そうね。りゅうに宜しくね」
「あっ!」
しまった。つい名前呼んでしまった。ここではりゅうが誰だかみんな知っている。不味い。
そうか、西島の彼氏は、突然いなくなった神崎龍之介か。確かあいつストラテジーラボに行ったって聞いていたけど。ふふっ、これであれが使えるな。まあ、今日はかんべんしてやるか。精々週末は楽しむんだな。
「りゅう、今の相手誰?」
「えっ、御手洗さんはバスじゃなかったんですか?」
「ううん、君と同じこれで帰る。渋谷からは別だけどね。ところでさっきの話だけど」
「すみません。プライベートな事なので」
りゅうは今付き合っている彼女は居ないと言っていた。でも今聞いた限りでは明らかに親しい人がいるようだ。計画変えないとと不味いかな。りゅうを他の人に取られる訳にはいかない。
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