書籍発売記念番外編/これから始まる物語
「私たち二人の絵本……ですか?」
マダムリグレットの宣伝を担った後日の事。
絵師の伝を辿り、一人の作家がランゲ伯爵家を訪れた。
「はい。お姫様と悲しい騎士の絵本をご存知でしょうか?」
「ええ。幼少の頃に乳母によく読んでもらいました。子どもの頃はあまり気にしなかったのですが、成長してから……その、騎士が悲しい運命を辿ってしまうので、何だか切なくなったのを覚えていますわ」
応対したカトリーナが目を伏せがちに言うと、作家は苦笑した。
「ええ、前回は悲劇が好まれると言われて書いたものですから、まあ、子どもたちからは悲しみの声が殺到いたしました。それで私も暫く筆を置いていたのですが、先日絵師からランゲ伯爵夫妻の話を聞いて、今度は騎士も幸せになれるようなお話を書きたいと思い参った次第でございます」
「ま、まあ! そ、そうなのですか?」
幼い頃に読んだ絵本の作家が、自分たちをモデルに……さらに騎士も幸せになれるような話を、と聞いて、カトリーナの鼓動が一気に速くなった。
「先日マダムリグレットで宣伝の絵を描いてもらいましたよね?」
「え、ええ」
「挿絵はその絵師で、話を私が書かせていただきたいと思っています」
宣伝の絵はマダムリグレットに大々的に飾られ、入店した者の目を引いている。
カトリーナも訪れるたび、自分と愛する夫がどのような表情でいるのか突き付けられ、内心恥ずかしさを堪えているのだ。
「わ、私は構いませんが、旦那様が何と言うか……」
「そこを何とかお願いいたします! お二人を見ていたらこう、ぐわあああっと創作意欲が沸いてきまして! 久しぶりに筆を執りたいと思いました! 幸せにしますので、ぜひ、書かせてください!」
この通りです! と言われ、カトリーナはその熱意にたじろいだ。
結局、今すぐの決断は出せず、夫と話し合ってから改めて、という事で今日のところは引き取ってもらった。
「いいんじゃないか?」
「そうですか?」
事の顛末を話せば、ディートリヒは乗り気であった。
「俺もあの絵本はもの悲しくなったからな。騎士となった今ではやはり同じ立場の彼にも幸せになってほしいと思うよ」
「だんなさまが騎士になるきっかけのお話ですものね。……それだけでは無いとも聞きましたが」
カトリーナがぽそりと呟けば、ディートリヒは目を見開いて唇を引き結んだ。
「……カトリーナ、さては姉上から何か聞いたな?」
「知りませんわ。ディートリヒ様の過去なんて、なーんにも、知りません」
頬を膨らませてぷい、と顔を逸らす妻にディートリヒは苦笑する。
己の過去にやましい事など一つも無いが、何も知らないと言いつつ面白くないと表情に出る辺り、カトリーナに諜報は難しそうだと思った。
似た者夫婦である。
「お姫様、私は貴女に夢中なのです。どうかお許しいただけませんか?」
跪き、愛する妻の手を取り指先に口付ける。
上目遣いに見つめれば、カトリーナも顔を赤らめた。
「ゆ、許すとか、許さないとか、知りませんわ! ……過去がどうあれ、ディートリヒ様が今愛しているのが私ならば、それで構わないのです」
夫の手を取り、自身の頬に当てる。
カトリーナはディートリヒの大きな背中、そして優しく触れる手が好きだ。
安心感と安らぎをくれる包容力を信頼している。
「後にも先にも、きみ以外にいないよ。自慢ではないが、俺の初恋はきみなのだから」
そのまま両手で頬を包み、軽く口付ける。
こんなにも惹かれ、愛する存在が己の腕の中にいる奇跡を実感する。
「私も……ディートリヒ様だけですからね」
広い胸板に顔を押し付け、消え入りそうな声で愛を伝える。
第一子を授かったのに、いつまでも胸が高鳴り恥ずかしさに見舞われる。
だが、愛し愛される奇跡を実感しながら、カトリーナは笑みを向けた。
後日、作家に絵本作成の返事をした。
「執筆させていただけるとの事、感謝いたします! 早速なのですが、お二人の馴れ初めからよろしいでしょうか?」
メモを片手に食い気味で話す作家に、二人は始まりを語り出す。
改めて話せば恥ずかしさが勝り、終始顔を赤らめっぱなしのカトリーナと、そんな妻を優しく穏やかで、かつ熱のこもった眼差しで見つめるディートリヒの姿を見て、作家の創作意欲にも火がついた。
二人の馴れ初めは、「きしとおひめさま」と題名がつけられ、それは読んだ人が幸せのお裾分けを受けられるような話になったという。
作家から見本が届けられ、早速読んだカトリーナは、自分がどれだけ夫を愛しているかを突き付けられ、更に顔を赤くした。
「こ、これは恥ずかしすぎますわ……!」
人様に読ませられるものではないと思ったが、見本以外に数十冊購入し、自室に読む用、飾る用、保管用と置き、残りは孤児院などにも寄付をしたのだった。
皆様こんにちは、凛蓮月です。
「記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜」の発売日が、ついに決定いたしました!
タイトルを「記憶をなくした孤独な妻は、英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる」に改めましての発売となります。
レーベル→BKブックスf様
発売日→2026/7/3予定
イラストレーター→針野シロ様
定価:1,540円 (本体1,400円+税10%)
ISBN:9784821147052
今回ご案内が遅れましたのは、店舗特典のご案内をしたかったからです。
以下の店舗で特典SSペーパーが付きます。
とらのあな
メロンブックス
アニメイト
書店共通
電子書籍
以上、5本のSSを書かせていただきました。
それぞれ二人の日常を書きましたので、もっと二人のいちゃいちゃを見たい、知りたい…! という方はこちらでの購入をご検討ください。
書店共通は、実店舗での購入特典になるのですが、付くか付かないかはご利用の書店様にお尋ねください。
メロンブックス様、とらのあな様は各店限定+書店共通の合計2枚付くそうです。
いずれも通販のページがあるので、ご確認いただけますと幸いです。
(一部まだ情報が反映されていないかもしれませんが、告知の許可はいただいております)
電子書籍以外は数に限りがありますので、ご了承ください。
電子書籍は、コミックシーモア様のみ7/3配信、その他のサイト様は7/23予定となります。
コミックシーモア様以外をご利用の皆様にはお待たせしてしまいますが、配信開始までお待ちください。
また、こちらの作品は、コミカライズも予定していただいております。
現在漫画家様が鋭意製作中で、私も楽しみにしています。
今後の詳しい情報は、BKブックス様のX公式アカウント(@BK23412315)や、作者のX(@Rinrengetsu)をフォローしていただくといち早く情報を入手できますのでよろしくお願いいたします。
カトリーナとディートリヒのお話が、一冊の本になり、また漫画としてお届けできますのは、ひとえに応援してくださる皆様のおかげです。
本当に、ありがとうございます!
是非ともお手に取っていただき、二人のいちゃいちゃを堪能していただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾




