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孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜  作者: 白芷


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第九十一話 新任教師


 突然現れた女性の信じ難い告白に教室内がにわかに沸き立つ。


「レリウス先生の妹、さん? しかも副担任?」


「嘘だろ。レリウスせんせーにこんな綺麗な妹さんがいたのかよ」


「な、なんですってぇ!? あのおっさん先生にこのようなご家族がいらっしゃるなんて信じられませんわ〜〜!?」


「――――静かに」


 たった一言だった。

 冷たく凍えるような制圧の声。


 それだけで瞬く間に教室内が静かになる。


(おいおい、レリウスとは大分違う感じだな)


(レリウス先生は皆が多少巫山戯ていても止めなかったからな)


 それにしても……あれだけどよめき、沸き立っていたクラスメイトたちが、ただの一言も発せられなくなるとは。

 鋭い眼光も相まって迂闊な発言は許されそうにもない。


 ただただ無言のときが流れる。

 おずおずとその空気を破ったのは一人の男子生徒だった。 


「そ、その……アシュリーせんせー」


 片手を挙げて発言の許可を求めたのはエリオン。


 普段レリウス先生相手なら積極的に質問したり、場の空気に合わせた振る舞いをしてくれるエリオンはすっかり萎縮してしまった様子だった。

 しかし、やはり情報通なだけあって好奇心が勝ったのか、伏し目がちながらもアシュリー先生を見詰める。


「……なんでしょう?」


 鋭い目だ。

 どことなくお巫山戯は許さないというような真剣な空気が教室内を包む。


「お、おれたちアシュリーせんせーのことをもっと知りたいなーなんて。……ははっ、駄目ですよね」


 暫しの沈黙が場を支配した。


 エリオンの軽口とぎこちない苦笑いが成功率の低さを物語っているようだった。

 しかし……。


「そうですね。質問があれば受け付けましょう。プライベートなことでなければ、ですが」


(意外と話がわかるところもあるんだな)


 そこはミストレアに同意する。

 てっきり余計な質問はするなと怒られるのかと身構えていたけど、アシュリー先生はあっさりとした様子で許可をだした。


 皆さっきまでの沈黙が嘘だったかのように再びざわつき始めた。


「そ、その副担任ってどういうことですか?」


 まず初めに質問したのはマルヴィラ。

 そう、担任はレリウス先生だったけど、副担任?

 他のクラスにもそんな役職の先生はいなかったはずだけど……。


「言葉通りです。このクラスの担任は以前と変わらず兄のレリウスが席を置いたままです。私はあくまで臨時の教員。故に校長先生より副担任として兄の不在の間このクラスを任されています」


「じゃあ、レリウス先生はいつか戻ってくるんですね!」


「さあ? ですが、あの無責任な男の発言などに期待しないほうがいいでしょう。連絡してくるかすら怪しいものです。妹の私ですら何度騙されたことか……」


「そ、そうなんですね」


(なんだか、レリウスへの当たりが強いな)


 途中レリウス先生の席がまだ残っているといわれ喜んでいたマルヴィラが、最後は愚痴のようなことを聞かされて困惑している。

 ……まあ、レリウス先生は突然の悪戯をするのが好きだったから、アシュリー先生は身近な家族だけあって一番の被害者だったのかも。


 ブツブツとレリウス先生への恨み節を小声で呟くアシュリー先生は、率直にいって怖い。


「アシュリーにゃ先生!!」


「はい」


(あ、ミケランジェの奴の、語尾ににゃをつけるファンサービスは完全無視なんだな)


「アシュリーにゃ先生は学園に来る前はなにをしてたんだにゃ? 臨時の先生なんてすぐに成れるものなのかにゃ?」


 意外にも的確な質問だった。

 確かに気になるところだ。

 アシュリー先生は学園で見かけたことはなかったし、ここにくる前はなにかしら活動していたはず。


「以前は宮廷魔導士でした」


 宮廷魔導士!?

 

 教室内が一段とざわついた。


 それはそうだ、確か宮廷魔導士は王国に所属する魔法に特化した人々で、王都の魔法研究を一手に引き受ける少数精鋭の集団のはずだ。


 といっても宮廷魔導士同士が連携を取ることは少なく、王都魔法研究所で協同で研究しているのでなければ、個人個人で違う研究をしている場合も多いと聞く。

 特に序列一位から八位の上位に位置する宮廷魔導士は、魔法を用いた特化戦力としても見られているせいか、あまり横の繋がりはないなんて噂も聞いたことがある。


「とはいえ、いまだ私は見習いの立場。ですが、王国の発行する教員免許は所持していましたので、今回兄から自分の代わりにと白羽の矢が立った訳です」


「じゃあ、宮廷魔導士は辞めちゃったのにゃ?」


「いいえ、校長先生の計らいで宮廷魔導士見習いとしての席は残したまま、ここの教員をやらせていただいています」


 アシュリー先生は宮廷魔導士は役職を兼務して活動している人も多いという。


 いまだクラスメイトたちのざわつきが収まらない中、プリエルザが恥ずかしそうにアシュリー先生に質問する。


「その……アシュリー先生は恋人はいらっしゃるのでしょうか? ワタクシどうしてもその失礼なことと知りながら気になってしまって……。ご不快でなければ答えていただけると嬉しいですわ」


 なんだかチラッとこちらを見られた気がするけど、気のせいだろう。

 

「構いませんよ。私に恋人はいません」


 即答だった。


「それはなぜでしょう? アシュリー先生ほどお美しければ引く手数多だと思いますけど……」


「必要に駆られれば私も恋人を作るでしょうが、いまの私には必要ない、それだけのことです」


 そう至極当然のことのように答えるアシュリー先生は、自立した大人の女性といった印象だった。






「もうこんな時間ですか」


 授業の終わりを示す鐘がなり、アシュリー先生が時計を見上げる。

 

「私に対する質問には答えましたし、次の時間では皆さんに自己紹介をしていただきましょう」


 そんな中、アシュリー先生は教室を見渡しながらよく通る声で問いかけた。


「それと、この教室にクライ・ペンテシアという生徒がいるはず……どの生徒ですか?」


 クラスメイトたちの視線が一斉にこちらを向く。

 え、なに?


「そうですか、貴方が……話があります。職員室まで来なさい」


(良かったな、クライ。名指しで呼び出されたぞ)


(……良くないだろ……なんの用事だろう)






 授業の合間、休憩時間に連れて来られたのは職員室。

 普段あまり近づくことはないから少し緊張する。


「その……なんでしょう」


「兄から伝言があります」


「レリウス先生から、ですか?」


「ええ、貴方が入院している間に学園を一時去ることを決めたことを兄は気にしていたようです」


 レリウス先生とはカオティックガルムとの戦い以降結局会うことは叶わなかった。


 学園を離れることも人伝に聞いたことだし、ミストレアは薄情な奴だ、と憤慨していた。

 俺も少し寂しい気持ちを感じていたのだけど……気にしていてくれたのか……。


「まず、兄は貴方に今回のことを謝りたいと」


「それは……」


「普段から自身の限界を定めてしまう傾向にある兄にしては珍しいことです。今回のことで生徒を危険に晒してしまい、兄は自らの力不足を痛感したようでした」


「でも、それは瘴気獣が突然襲ってきたからで、レリウス先生のせいじゃ……」


「ええ、ですが兄にとってはそれは然程関係なかったようですね。兄から伝言です」


 渡されたのは一通の手紙だった。

 

『急に連絡もなく学園を去ることに決めて悪かった。……だが、俺はあの瘴気獣の一件を通じて思い知らされた。居ても立っても居られなかった。クライ、意識が朦朧とする中、俺はお前がカオティックガルムの瘴気獣と死力を尽くして戦う姿を見た。生徒であるはずのお前が俺の代わりに死闘を繰り広げている。一歩も引くことなく、怯むこともなく戦っている。悔しかったよ。心から悔しかった。俺も最後まで一緒に戦いたかった。お前を、生徒たちを最後まで守れるぐらい強く有りたかった。強い先生で有りたかった。……許してくれとは言わない。担任の癖に途中で投げ出すのかと罵られるかもしれない。だが、だか、俺は必ず強くなって戻ってくる。……だからどうか、それまで待っていてくれ。…………それと、俺の妹であるアシュリーは、中途半端な俺なんかと違って聡明で利発な自慢の家族だ。取っ付きにくいところもあるが、お前もきっと気に入るはずだ。妹もお前なら心を許すかもしれない。じゃあな、お互い強くなってまた会おう。今度はお前と最後まで戦えるくらい俺は強くなる。……競争だな』


 気持ちの籠もった文章だった。

 文字からレリウス先生の決意が滲み出ているかのようだった。


(居ても立っても居られない、か。レリウスにとって瘴気獣の襲撃は、生徒たちの危険はそれだけ重い出来事だったんだな)


 手紙を読み終わりしばし物思いに耽っているとき、ふとアシュリー先生と目があった。

 彼女は俺の瞳を覗き込みながら少しの躊躇と共に静かに話しだす。

 それは怜悧な印象のアシュリー先生が見せる心の内。


「生徒でありながら兄を助けてくれたそうですね。私からもお礼を……あんな兄ですが…………私の家族なんです。クライ君、助けてくれてありがとう」


 ずっと不機嫌そうだったアシュリー先生が見せる家族のための笑顔は、直視できないほどに眩しかった。


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