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孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜  作者: 白芷


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第七十八話 黒き鎌の斬撃


 トールマンティス。


 黒く光沢のない漆黒の体色は、本来は闇や影に紛れて生物を刈るためのものだが、まだ日の光の差す日中でもその体躯の異様さはしっかりと見てとれる。

 両前脚の一m近い鎌状の腕、体高は高く逆三角形の頭が頭上から見下ろしてくる。

 腹部は大きく楕円形でありそこから四本の後ろ脚が地面に伸びる。


 後日確認した討伐難度はB。

 単独での行動を好み、その鎌を駆使してオークを好んで捕食する。

 広い視野から繰り出される広範囲の鎌の一振りは人の身体を容易に両断する威力がある。


「っ!? 【ダークシリンダー】!」


「……【ブルームカッター4】」


 プリエルザとエクレアの魔法がトールマンティスの顔面目掛けて飛んでいく。


「――――」


 無音だった。


 トールマンティスが腕を振り魔法を迎撃する。

 巨岩さえ粉砕した闇魔法がオークの瘴気獣すら切断した花片魔法が……切り裂かれる。


「おいおい、ウソだろ……」


 エリオンの声にならない呟きが妙に大きく聞こえた。


 このままではマズい。

 この場の全員の意思が一致する。

 ここで燃え尽きたとしても全力をだすべきだと。


「し、身体強化!」


「……ふっ」


「まだまだ行きますわよ! 【ライトボール・ダイブ6】!!」


「ブリリアント、俺たちも覚悟を決めないとな……」


 セロの身体強化を皮切りに一斉に全員が動きだす。


 前衛にエクレア、セロ、エリオンの三人。

 さらに銃の天成器の持ち主であるミケランジェは中衛として遊撃を行う。


 後衛は俺とマルヴィラ、プリエルザの三人。 

 唯一回復魔法を使えるフィーネを守りながら戦う。


 配置は誰がいうでもなく自然と決まっていた。

 誰もが自分がすべきこと、できることに全力だった。


「――――」


 俺の弓矢もプリエルザの光魔法も物ともせず進むトールマンティス。


「シャリりんやるよ! 【ヒートアロー3】!」


「ワタクシも続きますわ! 【ダークバレット5】!」


「ジセル、私たちもやるにゃ!」


 まだ距離の離れている内に連続で放たれる魔法と弾丸。

 マルヴィラの熱魔法の矢、プリエルザの闇魔法の弾丸、ミケランジェの小型銃の天成器ジセルさんの射撃。

 そのどれもが速度の早い攻撃だった。


 それをトールマンティスは最小の動きで切り伏せる。

 

「たあああっ!」


「いくぞ、ブリリアント!」


「……ふっ、【ブルームニードル3】」


 セロとブリリアントがその互いの天成器でトールマンティスの側面から攻撃する。

 エクレアは後ろ脚を潜り抜け、腹部近くに潜り込むと青バラの棘を伸ばした。


「――――ッ」


(羽根が……)


 吹き飛ばされる。

 

 一瞬だった。


 一瞬の攻防の内にトールマンティスは動いた。


 腹部の背から身体より大きい二対の羽根を伸ばすとその場で一度羽ばたいた。

 それはまるで黒いカーテンのような薄闇色。

 生じた一迅の風がトールマンティスの周囲を吹き荒れ、三人が体勢を崩し吹き飛ばされる。


「うわあっ!」「ぐ……」「……ん」


 狙われたのは偶然かそれとも防御が弱いと瞬時に見抜いていたのか……。


「――――」


「ああぁぁぁ!!」


 血飛沫が舞った。


「エリオンくん!」


 隣で同じように吹き飛ばされていたセロが必死の形相でその名を呼ぶ。


 身を守っていたはずのスケイルシールドはいとも簡単に切り裂かれ、刃は身体まで届いていた。

 腕と腹、横に一直線に引かれた赤い線。


 くっ……こんなに早く負傷者がでるなんて……。

 嘆いている暇などない。

 前衛が総崩れのいま、少しでも立て直す時間を稼がないと。


「俺が前にでる! セロはエリオンをフィーネの元まで頼む!」


「う、うん」


「エリオン、しっかりするにゃ! 時間は私たちが稼ぐにゃ!」


「よくもワタクシの仲間を……貴方は許しませんわ【ダークボール・ホーミング5】!」


 ミストレアを小手の形態に変形させ、ミスリルの盾を構えてトールマンティスの正面に立つ。

 間近で見るトールマンティスからは異様な威圧感を感じた。

 触覚の伸びる逆三角形の頭、その巨大な眼が頭上からすべてを見透かすように無感情に見下ろしている。


(動くぞ!)


「ぐ……」


 カキンッと金属同士がぶつかり合う音がして鎌の攻撃を防いだ。

 早い。

 予兆もほとんどなく、出だしから最高速に乗る鎌の斬撃。

 手元がブレたかと思うと突然切られている。

 なんとか防ぎ、受け流しているけど、眼で追うのがやっとの速度だ。

 アレクシアさんの盾術がなければすでに両断されているだろう。


「ぬぬ……銃弾が弾かれるにゃ。……こうなったら、シゼルっ!」

 

「はいはい、闘気強化の弾丸だな。……気張っていけよ」


「わかってるにゃ!」


 動き回り注意を引いてくれていたミケランジェが、意外にも硬いトールマンティスの体躯に対抗して銃弾を闘気で強化する。

 次の瞬間、バンッと衝撃音が響くとはじき出された銃弾がトールマンティスの腹部を傷つける。

 小さく開いた穴から灰色の瘴気が細く散っていく。


「――――っ」


(悲鳴もなしか……そういえばカマキリは鳴かないんだったか)


「……【ブルームカッター・ヘリックス】」


 ようやくまともなダメージを与えたところで、エクレアの螺旋に渦巻く刃の槍がトールマンティスの腹部にぶち当たる。


「――――っ、――――っ」


 効いている。

 声はなくとも確実に苦しんでいる。


「ワタクシを忘れていただいては困りますわ【ダーク――――」


「――――ッ」


 トールマンティスはその場で前脚の鎌を振るう。

 それは一見無意味な行動にも見えたが……。


「ぐぐ……っ……」


「クライ君!」


「斬撃波ですって!? エクレアさんのお兄さん、大丈夫ですの!?」


 鎌を振ったのは斬撃の刃を飛ばすためだった。

 注意深く観察していたのが功を奏した。

 お蔭で致命傷にまではならなかった。


 鎌から飛んできた斬撃は、盾を使ってなんとか逸らせたけど、手足には細かい裂傷が残っている。

 あれは要注意の攻撃だ。


「……大丈夫だ。それより遠距離からの攻撃を続けてくれ! 近づき過ぎる方が危ない! 一定の距離を保つんだ!!」


「っ、わかりましたわ! ワタクシとマルヴィラさんで魔法を放ちつづけますわ!」


 プリエルザの決意に満ちた顔を見ながら頷く。

 勝機があるとしたら魔法で遠距離から削るしかない。

 そのことがプリエルザにもわかったからこそ難しい表情をしている。

 だが、なんとか成し遂げてもらうしかない。


 視線をさらに後方に移す。


 セロは無事にフィーネの元まで負傷したエリオンを連れていけたようだ。

 すでに回復魔法による治療が始まっている。

 しかし、エリオンは怪我のせいで意識を失っていた。

 再び戦線に戻ってくるのは難しいかもしれない。


 それと……二人のすぐ側でセロがショックを受けた表情で立ち竦んでいるのが見えたのが気になる。

 ただ、いまはそちらに気を割いている時間がない。


「……エクレア……一緒に戦ってくれるか?」


「……」


 俺の問いにエクレアは頷いて答えた。


 度重なる攻撃にもトールマンティスの傷はほとんどない。

 勝機は限りなくないかもしれない。

 それでも二人なら勝つ可能性を見出だせる。

 俺たちはそれを信じていた。


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