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孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜  作者: 白芷


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第七十六話 死の気配


 課外授業三日目。

 

 前日の軽い洞窟探検に続いて今日は本格的に洞窟を下っていく。


 サラウさんやイザベラさんの懸念していた虫系統の魔物に対する嫌悪感は、意外なことにセロ以外はあらわにすることはなかった。

 マルヴィラとエクレアは不快どころかなんとも思っていないようで、暗闇から突然現れる姿には多少驚くものの戦闘には支障はない。

 寧ろサラウさんの方が俺たちより後方にいるはずなのに、軽く悲鳴をあげていた。


 洞窟内はひんやりと冷気が漂い、ところどころ広い空間が広がっている。

 住み着いている魔物たちを倒しつつ先に進むと地底湖らしきものを発見した。


 暗闇の中での戦闘訓練と探索の注意点を学び、この日の探索は終わりを告げる。

 

 虫系統の魔物だけでも多種多様な魔物がいることを実感させられた一日だった。






 課外授業四日目。


 課外授業の一週間の期間も半分を過ぎ、見知らぬ土地での生活にもかなり慣れてきていた。


 エクレアを含め俺以外の三人は初めのうちは苦戦していた魔物や動物の解体も手際よく処理できるようになっており、ララットさん直伝の野草の見分け方も大分わかってきたのか森の探索も余裕をもって行えるようになってきた。

 マルヴィラはサラウさん、セロはイザベラさんを中心に、それぞれが得難い経験をもち丁寧に指導してくれる相手から様々なことを吸収している。

 

 この日はレリウス先生の待つ拠点を離れ、夜間の森での野営を行う。

 夜行性の魔物も存在するため見張りは欠かせない。

 焚き火を絶やさないようにしつつ、夜通し交代で魔物の警戒をしながら夜が明けるのを待つ。






 課外授業五日目。


 昨日の夜間は特にトラブルもなく過ごすことができた。

 夜の森は暗く静かでよく音が響く。

 どこからともなく魔物の叫び声が聞こえることもあったがテントを襲撃されることはなかった。


 イザベラさんから聞かされた今日の予定は、迷わずの森深くまで自分たちだけで探索することだった。

 すでに四人での連携も確立しつつある俺たちは、〈赤の燕〉の皆さんに教わったことを実践しながら魔物を倒し森を進む。


 そうして迷わずの森の奥深く、魔力の薄い土地では珍しい、ポーションの原料ともなる薬草の生える群生地にたどり着く、その予定だった。


 その悲鳴を聞くまでは……。


「キャアアアア!!」


「っ、なに!? 女の子の悲鳴みたいのが聞こえたよ」


 一瞬の内に俺たちの間に緊張が走った。


(切羽詰まった悲鳴にも聞こえた。予期せぬトラブルでもあったのか?)


「ど、どうしよう、助けに行った方がいいよね」


 突然の事態にいまだ動揺した様子のセロが提案してくる。

 この場には俺たち四人しかいない。

 判断は自分たちで下すしかない。


 全員の意思を確認し、悲鳴の聞こえた方向に進もうとしたとき、それは現れた。


 迷わずの森でも何度か遭遇し倒した相手。

 半開きの口からはよだれを滴らせ、こちらを標的に見定めたのか低音で唸り威嚇してくる。


 灰色の毛並みに包まれた一匹の狼。


「グルルル」


「なんだアレ、グレイウルフの……瘴気獣?」


 身体には灰色の瘴気を纏っている。

 紛れもなく瘴気獣だった。


(瘴気獣!? 課外授業の、しかも私たちしかいないこのタイミングで現れるのか!?)


「しょ、瘴気獣!? どうしよう、せ、先生に早く報告しないと!?」


「……落ち着いて」


 慌てるマルヴィラをエクレアが落ち着くように諭す。

 マルヴィラに声をかけつつもその両手にはすでに双剣の天成器が握られている。


「グアァッ!」


「うわあっ!?」


「……【ブルームアロー】」


 グレイウルフが最も近くにいたセロに襲いかかってくる。

 それをエクレアの放った魔法が横から迎撃した。


「キャンッ!?」


「こうなったら戦うしかない! セロは俺と一緒に盾でグレイウルフの攻撃を防いでくれ! マルヴィラとエクレアは遠距離から魔法で攻撃を頼む!」


 エクレアの魔法の直撃を受けてもグレイウルフは多少の傷しか負っていない。

 これまで戦ったグレイウルフなら横腹に魔法を受けたなら、もっと深手を負っているはずだ。

 ……やはり瘴気獣だから通常の魔物より強いのか?


「たああ!」


「【ヒートバレット3】!」


「【ブルームカッター・スピン2】」


 セロの斬撃、マルヴィラの熱魔法、エクレアの魔法因子を加えた花片魔法、さらにはオレの射った錬成矢でグレイウルフの瘴気獣は徐々に傷ついていく。


「グルルッ! グガアァッ!!」


 それでも闘志はなくならない。

 目に入ったもの、触れるものはすべて傷つけようとするかの如くひたすらに攻撃だけをしてくる。

 その狂乱とした様子からは防御というものを一切考えていないような印象を受ける。


 戦闘はしばらく続き、全身の傷から灰色の瘴気を溢れさせ、もう少しでグレイウルフを倒せるところまできた。

 しかし、迷わずの森に新たな轟音が響き渡る。


「ガアアアアアア!!」


「オオオォォォ!!」


「な、なに? 今度は何なの!?」


「…………嘘だ」


 セロの思わず漏れてしまった言葉が耳に残っている。


 新たに現れたのは赤黒い肌の筋骨隆々な鬼オーガの瘴気獣と厚い脂肪に包まれた巨体トロールの瘴気獣。

 どちらもこの森にはいないはずの魔物の瘴気獣だった。


「……複数の瘴気獣なんて……そんなの聞いたことないよ」


「クライ、マズいぞ。こっちに向かってくる生命反応がいきなり増えだした!」


 ミストレアの焦燥の籠もった警告を聞き、この場に留まるのはかなり危険だと咄嗟に思った。

 エクレアを見る。

 彼女も無表情ながら困惑と焦りを感じている。

 この場から一刻も早く立ち去るべきだ。


「セロ、マルヴィラ! ここから離脱しよう!」


「で、でもさっきの悲鳴の女の子が……」


 そうだ。

 あれはもしかしたら同じクラスの生徒の一人かもしれない。

 俺たちが瘴気獣に襲われているように彼女も襲われたのなら?

 ここで俺たちが逃げたら……。


 マルヴィラの言葉に躊躇が生まれてしまった。

 その瞬間を狙ったかのように瀕死だったグレイウルフが飛びかかってくる。


 しまった。


「【ブルームニードル4】」


 俺を庇うように正面にたったエクレアの魔法で、グレイウルフは瘴気となり消えていく。


「ごめん……油断した」


「……」


 エクレアの瞳はこのあとどうするべきか問うていた。


「……レリウス先生のいる拠点まで戻ろう。このままここにいても危険は増すばかりだ」


「でも……」


「ミストレアの生命探知の反応が増えている以上、このままだと囲まれる危険もある。すぐにこの場を離れないと……。ごめん、マルヴィラ」


 オーガとトロール。

 どちらも討伐難度Cの魔物。

 さらに、その魔物の瘴気獣なら強さは想像できない。


「……うん、私こそ……ごめん。わがまま言った。レリウス先生や〈赤の燕〉のみんなに早くこのことを伝えないといけないよね」


 悲しそうに俯くマルヴィラにかける言葉が見つからない。


 助けられるなら俺だって助けたい。

 だけど、動揺し、微かに怯えさえ見せているマルヴィラとセロを守りながらあの悲鳴の女の子まで助けることができるのか?


 自問自答の瞬間を遮るようにオーガとトロールが叫ぶ。

 森中に響く轟音。

 木々からは小鳥たちが飛び立ち、地面は微かに揺れる。


「ガアアアッ!!」


「オオオォォォッ!!」


「……互いに争っている?」


 オーガがその筋肉に包まれた太い腕でトロールに殴りかかる。

 また、トロールもその巨体を生かしてオーガ目掛けて体当たりする。

 

 周りの木は戦闘の余波で倒れ折れる。

 二体の瘴気獣が倒れ込み地面が大きくひび割れる。


 お互いが隣にたつ瘴気獣を敵と認識している。

 なぜなのかはわからない。

 それでもこれは好機だ。


「……いまの内に逃げよう。なるべく気配を消して悟られないように離れるんだ」


 俺たちはオーガとトロールの視界に入らないように気配を抑えつつ荒れ狂う二体の戦いから遠ざかろうとした。

 だが、争いの規模は俺たちの予想を遥かに上回るものだった。


「ガアア!! フンッ!」


 オーガが足元から人の身体ほどもある岩石を持ち上げ投げる。

 それはトロール、そして、戦場を離れる俺たちにすら届くものだった。

 まったくの偶然なのか、それとも狙って投げたものなのか?

 

 俺たち四人を押し潰す勢いで巨岩が迫る。


(クライ! 私の変形で――――)


 時間がゆっくりと流れる間隔がした。

 セロは迫る巨岩に驚愕の表情を見せ、マルヴィラは咄嗟に魔法を放とうと両手を掲げる。

 エクレアは双剣で斬りかかろうとぐっと身体を沈める。

 俺は左手のミストレアを――――。


「【ダークシリンダー】!!!」


 突如として現れた闇の円柱が空中の巨岩とぶつかり粉々に粉砕した。


「オーッホッホッホ! ワタクシが皆さんを助けに参りましたわ! どうぞご安心して下さいまし!!」


 白銀に輝く半月の刃を携えたプリエルザがそこに立っていた。


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