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孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜  作者: 白芷


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第七十四話 森の魔物たち


 課外授業一日目の夕暮れ前。


 特に怪我などの問題もなく初日の迷わずの森での探索を終え、基本となる拠点で万が一に備えて待機していたレリウス先生に帰還の報告をする。

 すでにクラスの各班はテントに戻ってきていたようで夕食作りに勤しんでいた。


 本来静かなはずの森の一角にクラスメイトたちの喧騒が響き渡る中、一日目の夕食は料理の得意なマルヴィラとイザベラさん、ララットさんが主導して作ってくれた。

 初日はマジックバックで持ち込んだ新鮮な食材があるため豪華だけど、明日以降は魔物討伐の合間に動物を狩ったり、食べられる野草を使って料理することになるそうだ。

 そういった物資のない場合のサバイバル術を教えるのも課外授業の一環らしい。


 夕食を食べ終わり片付けも済んだ頃、設営したテントの前で親睦も兼ねて焚き火を囲んで今日の反省会を開く。

 普段味わえない体験の数々に興奮した様子のマルヴィラは、ララットさんの面白おかしく話すこれまでの冒険話を夢中になって聞いている。


「それで、その時パーティーの危機を救ったのは何を隠そうこのワタシッス。混迷を極める複雑な地形が広がるなか、散り散りに分かたれてしまったパーティーをまとめ上げ、無事に安全な場所まで先導したんスよ。ワタシが居なかったらパーティーはそこで全滅だったんスから」


「ララットさん、すご〜い! もっとお話を聞かせてください!」


「そ、そうッスか? 仕方ない、取って置きの話をしてあげるッス」


 純粋な眼差しで慕ってくれるマルヴィラに、満更でもなさそうなララットさん。


 隣に視線を移せばセロとイザベラさんが今日の反省を話し合っている。


「お前は攻めっけが足りないな。もっと相手を一撃で仕留めるつもりで攻撃するんだ。最初のゴブリン相手にはできていたのにそれ以降は腰が引けていたぞ。折角それなりに闘気を操れるのに本人がそれでは宝の持ち腐れだ」


「は、はい……その……すみません」


「……焦ることはない。この課外授業ではお前たちのフォローをするために私たちはいる。失敗をおそれず、時には挑戦していくことも大事だ。無心で戦ってみろ。見えてくるものもある」


「はい。ありがとうございます」


 真面目なセロの態度はイザベラさんに好意的に写ったようだ。

 そのあともセロが遠慮がちに闘気の操作について聞くと、イザベラさんは自身の経験も踏まえた助言をしているようだった。

 

(最初は課外授業と聞いて不安そうだったが……二人共いい表情をしているな)


「ところでなんですぐにバオニスト商会のお店を訪ねてくれなかったんですか?」


 焚き火を挟んだ向こう側と違ってこちらは少しだけ殺伐とした空気が流れていた。

 ……笑顔で尋ねてくるサラウさんが怖い。


「私たち、再会を楽しみに待っていたんですよ。それなのに、全然お店には来てくれないし、やっと来てくれたと思ったら生誕祭の終わったあとですよ。そちらにいらっしゃる妹さんと無事に出会えたのは喜ばしいことですけど……」


「サラウ、クライをあまりいじめてやるな」


「ですがっ……」


「クライも学園に入学して忙しかったんだろ。それに生誕祭の日に訪ねてきたらお前の親父さんに捕まって大変なことになってただろうし、寧ろこの課外授業のことを教えてくれただけで十分だろ」


「その……はい、その節は……すみませんでした」


 むっとした顔で怒っているサラウさんにもそれをなだめてくれるカルラさんにもひたすら謝ることしかできない。

 学園が忙しかったのは事実だけど、放課後のケイゼ先生との検証と特別授業を優先してしまっていた。

 エクレアにもそのことで余計な心配をかけてしまったし反省するしかない。


「まあ、そのことを聞いていたからこの依頼を引き受けたんですけど……」


 実をいうとレリウス先生から課外授業が行われるのを聞いたあとに一度、エクレアとイクスムさんを伴ってバオニスト商会のお店を訪ねている。


 そこで運良くカルラさんたち〈赤の燕〉の皆さんに出会えたときに、バヌーで別れたあとのことを話していた。

 家族と無事に会うことができたこと、学園に通っていること。

 積もる話は多く、その中で偶然課外授業の話になると、どうやら〈赤の燕〉の皆さんを指名して冒険者ギルドから依頼があったことがわかった。


「冒険者ギルドでも学園からの依頼として私たちに声が掛かりましたからね。知ってはいましたが、まさかクライ君がそこに通っているなんて。元々は依頼を受けるつもりはありませんでしたけど、カルラがBランクに昇格していた後で良かったです」


 驚いたことにカルラさんはBランクに昇格していた。

 どうやらミノタウロスとの戦いのときにはすでに昇格に必要な依頼数を達成していて、あとは昇格試験を受けるだけの状態だったらしい。

 あのときも第四階梯に到達していたし、順当といえば順当な評価なのだろう。


「で、コイツがクライの妹か……前会った時も思ってたが、本当に無口だな」


「……」

 

「ん? そうむくれるな。お前のお兄ちゃんを取ったりしねえよ」


 なぜだろう。

 カルラさんはエクレアが無表情でもなんとなく機嫌の良し悪しがわかるらしい。

 ……俺は初対面のとき、エクレアがなにを考えているかわからなくて不安だったんだけど、なぜか二人には通じ合うものがあるのか。


「そう落ち込まなくてもいいと思いますよ。カルラは自然と誰とでも仲良くなってるんです。まあ、そういう人だからパーティーを組んでるんですけどね」


 エクレアに一方的に楽しそうに話をするカルラさんを横目にサラウさんが薄く微笑む。

 

「あっ、そうでした。これは商会から預かってきたクライ君に頼まれた物です」


 サラウさんがマジックバックから取り出したのはバオニスト商会を訪れたときについでに頼んでおいた物。

 時間がかかると思っていたのにもう手に入れたのか……。


「わざわざもってきてくれたんですか? すみません、ありがとうございます」


「ふふ、バオニスト商会には腕のいい職人が揃ってるんです。ご要望通りの物は出来ていると思いますよ。……でも本当にこんなものを使うんですか?」


 サラウさんの問いに頷いて答える。

 いまだ練習中だけど課外授業に間に合って良かった。

 使う機会はないかもしれないけど……。






 二日目の朝。

 軽い朝食を食べ再び森へ。


 この迷わずの森、ここの特長は独特な植生で見通しがよく危険が少ないだけではない。

 代わり映えしない景色な割にはこの森には多種多様な魔物が住み着いている。

 それでいて魔物自体は弱いため、魔物相手の戦闘経験を積むには最適な場所でもある。


 その中の一体が俺たちのいま目の前で……。


「何あれ……おっきいたぬき?」


 ニ十mほど先にてくてくと歩く体長はニmほどの魔物。

 茶色と黒の縞模様の尻尾が揺らしながら歩き、温厚そうな顔つきで一目では人懐っこそうな印象も受ける。


「キラーラクーンだ」


「ふす……ふす、ふす」


(鼻息荒いな、あのたぬき)


「おっきいけどちょっと可愛い……」


「一見ふさふさとして柔かそうな尻尾はかなり硬い。その一撃は当たりどころが悪ければ人をも殺す威力がある。さらに、初級魔法程度はあの尻尾を叩きつけて掻き消すこともある。討伐難度はEだが、見た目に騙されてはいけない」


「こ、怖い魔物なんですね」


 イザベラさんの真剣な解説にセロとマルヴィラは背筋を凍らせる。


「動きは遅い方だ。複数人で撹乱させつつ戦うのがベストだな。さあ、やってみろ」






「あ、あれは何の魔物ですか? 角の長い鹿のようですけど」


「あれはケインホーンディア。長く伸びた角に魔力を蓄えているようで、あの角を振るって斬撃波を飛ばしてきます。討伐難度はE+ですね」


 セロが遠方にいる魔物を指差しサラウさんに尋ねる。

 森の中を優雅に闊歩しているのは角鹿の魔物。

 スマートなニ・五m前後の体格では遠方からでも高くそびえる角と相まって目立つ。


「ちなみにあの魔物はオスもメスも同じく角が生えています。オスの方が少しだけ角が大きいのが特長ですね」


「な、なるほど」






 その魔物は突然に現れた。


「うわっ!?」


「ハイドスネークだ! 狼狽えるな! この魔物はそれほど強くはない! 落ち着いて対処すればすぐに倒せるはずだ!」


 樹木の枝に絡みつくようにして隠れていたのは一mほどの緑色の蛇の魔物。

 イザベラさんの話では森林や洞窟に潜み奇襲を仕掛けてくることが多いらしい。






 そのあとも森の多種多様な魔物相手に俺たちは戦い続けた。


 アルレインの街でも戦ったことのある群れで行動する狼の魔物グレイウルフ、肉に臭みはあるが三mほどの巨体をもつ猪の魔物ブルズボア、角の生えた兎の魔物ホーンラビット。

 戦う度に俺たちは一歩一歩学んでいった。


 休憩も兼ねて森の中で昼食を取る。

 イザベラさんの話では今日のスケジュールではもう少し強い魔物にも挑戦する予定らしい。

 

 取ったばかりの魔物の肉と、道中で採取した野草で作った料理を食べ、鋭気を養い次に向かう。


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