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孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜  作者: 白芷


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第六十三話 問いと答え


「……それでは、グレゴールたちの処遇はどうなるんでしょうか?」


「――――ん? そんなの死刑でしょ、死刑」


 恐る恐る尋ねたフリントさんの重い質問に、ヤスリで爪を整えている女性がこちらも見ずに答える。


 それは、心底どうでもいいことを聞かれたようで……。

 あっけらかんとしたまったく関心も気負いもない気の抜けた返事だった。


 なぜこんなことになったのか。

 それには幾ばくかの時間を遡る必要がある。


 それは、俺たちが事件の証言を騎士たちに話し終え、控え室で待機しているとき。

 フリントさんを伴ったレシルさんが颯爽と部屋に入ってきたところから始まる。

 





「フリント君から聞いたわ。なんでもカルマの判定を見学したいそうね」


 レシルさんは俺たちの待機する控え室に入るなり、開口一番に言い切った。


「……はい」


「ああ、ダメなのか?」


 彼女はなにかを確かめるように俺たちを見渡したあと、フリントさんに振り返る。

 やはり騎士団の関係者でないと難しいのか?


「フリント君、カルマの判定に部外者は立入禁止なんだけど、そこは分かってるんだよね」


「……は、はい」


「ここは騎士団総本部で、私たちは教会の審判者の身柄を守る必要があるの」


 審判者とはエクストラスキル『審理の瞳』を有する者のクラスだそうだ。

 イクスムさんの説明では特殊なクラスである審判者にクラスチェンジすることで、その人物はエクストラスキル『審理の瞳』を取得するらしい。


(審理の神に選ばれた者しかなれないクラス。珍しいものもあるんだな)


 レシルさんはフリントさんに諭すように話す。


「それに犯罪者の前に守るべき一般の方々を晒すことにもなるわ。ここには彼らと直接の面識のない子もいる。彼女たちにとって彼らと接触することは、決して良い結果になるとは限らない。むしろ不用意な接触は逆にショックを受けるかもしれない。それを自覚しているの?」


 レシルさんの問いは至極真っ当な意見だった。

 俺とウルフリックはグレゴールさんたちと直接会って話し、戦いもしたが、ミリアはともかくエクレアたちにはほとんど関係のない事象だった。


「……確かに、グレゴールたちに関わったのは主にウルフリックとクライの二人です。他の者はそれほど深い関わりではありません」


「そうでしょう。他の皆さんの

意見は聞いたのかしら。まさかそれも怠っていたのかしら」


「……はい」


「ふぅ……」


 フリントさんに詰め寄るように質問していたレシルさんが、真剣な表情で振り返る。


「そうね。改めて意見を伺いましょう。ここには金品の窃盗事件の証言を聞くために来ていただきました。クライ君とウルフリック君にはここにくる前に意思を確認したわね。他の皆さんの意思を確認したいわ。……無理に彼らに会う必要はないの。彼らが最後に発した言葉が心に棘となって残るかもしれない。それに、私たちが立ち会うとはいえ完全に安全は保証できないわ。それでも立ち会いを望むのかしら?」


 重苦しい空気が伸し掛かる。

 

 最初に発言したのはイクスムさんだった。

 彼女はエクレアに向き直り、恭しく伝える。


「エクレアお嬢様……私は無理に盗賊たちに会う必要はないと考えます。彼らは所詮犯罪に走った者たち、エクレアお嬢様がお気に掛ける必要は感じません。……いかがなさいますか?」


「……兄さんがいくなら……私もいく」


 エクレアの意思は固かった。

 迷いのない瞳でイクスムさんに答える。


「その……わたしは……ちょっと怖いですけど、エクレアお嬢様がいくなら、どこだってついていきます〜」


「アーリア……そんなに怯えることはありません。エクレアお嬢様も貴方も私が必ず守り抜きます」


「うぅ〜〜、イクスムさん〜〜」


 アーリアの感動した声が部屋に響く中、レシルさんは優しくミリアに問いかけた。


「ミリアちゃんはどうかしら。窃盗の被害者だからといって直接彼らと会う必要はないのよ。私たちとしては被害にあった状況を説明して貰えればそれでいいの」


「私は……私も行きます」


「どうしてかしら?」


「お兄様が行く末を気に掛ける人たちなら、悪い人な訳、ありませんから」


「なっ!? オレは別に……」


 ウルフリックがグレゴールさんたちを気にしているのは、なんとなくわかっていたけど、ミリアにはバレバレだったようだ。


「……意思は硬いようね。こうなると私の判断だけでは判定の場に同席させるのは難しいわ」


「そんな……」


「クライ君とウルフリック君だけなら私の判断でも可能だけど……」


 アーリアとミリアは見るからに戦いとは無縁の人物だ。

 それを危惧しているのか……。


「でも、判断できる人もいるわ」


「え?」


「ふふ、では会いに行きましょうか。私たち第三騎士団の騎士団長。“異端の魔女”クランベリー・ランゴーシュに」






「失礼します。騎士レシル・チェリム、参りました。入室してもよろしいでしょうか?」


 騎士団総本部の巨大な建物の奥深く。

 レシルさんが重苦しい扉にノックして許可を求める。


 その部屋は大仰な扉に守られ、武装した騎士が警備する部屋。

 隣に立つ騎士たちの視線に気まずい雰囲気が漂う中、返事を待つ。


「……入りなさい」


 その部屋は予想以上に広かった。

 重厚な机に、豪華な三人掛けソファーが二つ。

 壁の両隣には大きな本棚が鎮座し、ぎっしりと本が詰まっている。

 その人物はそのさらに奥にいた。

 執務机に気怠そうに座る一人の女性。

 椅子にもたれかかりながら、爪を整えている。


 あれがクランベリー騎士団長。


 銀の長い髪を左右に二つに結んで垂らした年若い女性。

 爪を整える手の甲には二重の刻印。

 その赤い瞳はこちらを一瞬見たものの、すぐに興味がなくなったかのように逸らされてしまった


「皆さん、こちらにおわす方が私たち第三騎士団の騎士団長クランベリー・ランゴーシュです」


 レシルさんがクランベリーさんの隣に立ち紹介してくれる。


「団長。こちらは今日捕縛されたグレゴール盗賊団の検挙に協力して下さった方々です」


「へー、あんたたちが……ふーん」


(なんだアイツ)


「それで、何の用なの? ぞろぞろと引き連れてきて失礼じゃない?」


「あ゛あ゛」


「お、お兄様!?」


「なに? 失礼なのは本当のことでしょ」


 ウルフリックの恫喝の声にも一切動じていない。

 それどころか冷ややかな目で見つめ返している。


 というか、ウルフリックは失礼なことをしないでほしい。

 急に声を荒げるから驚いた。


「団長。実は彼らが、グレゴール盗賊団のカルマの判定の場へ同席を求めています」


「……なんで?」


 凍るような声音だった。

 

「一応報告は聞いているけど、アイツらは犯罪者でしょ。意味わかんないんだけど」


「クランベリー団長! 彼らがいなければグレゴールたちを取り逃がしていた可能性もあります。どうか同席を許していただけないでしょうか!」


 クランベリーさんの態度を見て、フリントさんが焦りながらも俺たちの同席を主張してくれる。


「だからなんで? 捕縛に協力してくれたのは礼を言うわ。でも、それとこれとは話が別。この子たちが同席する理由はない」


「そんな……」


「犯罪者は処罰される。それには例外はない」


「……それでは、グレゴールたちの処遇はどうなるんでしょうか?」


「――――ん? そんなの死刑でしょ、死刑」






 話は冒頭に巻き戻る。

 クランベリーさんの衝撃的な一言を受けて、この場にいる全員が言葉を失っていた。

 そんな中フリントさんが絞りだすようにいう。


「そ、そんな……彼らは反省しています。今までの罪を悔いている。戦った私たちはわかります。彼らはまだ更生できる」


「へー、じゃあ報告にあった盗賊たちと戦ったっていうのは、この子たちなんだ」


 クランベリーさんの視線が俺とウルフリックを捉えた。


「ああ、オレがグレゴールを倒した」


「……俺も戦いました」  


「で、なんで同席したいの? 彼らは犯罪者で今回のこと以外にも余罪が在るだろうことはわかってる。見たところあんたたちは、その盗賊団が処罰されるのが我慢ならないって顔してる」


 クランベリーさんの指摘は的を得ていた。

 確かに俺もウルフリックも彼らを本当に悪い人には思えなくなっている。

 罪を犯しているとはいえ、死……死を与えられるほどのものなのか?


「……アイツらはオレたちと真正面からぶつかった。他の犯罪のことまではオレにはわからねぇ。ただ……アイツらが本当に腐ったヤツらじゃねぇのはわかる」


「あんたは?」


 クランベリーさんの視線が刺さる。

 その赤い瞳は嘘は許さないといっているようだった。


「彼らには彼らの事情があったと思うんです。犯罪を犯す事情が……」


「それは、あんたの妄想でしょ。実際にはなにがあったかなんて調べてみないとわからない。現時点ではただの犯罪者」


「俺は戦っていて感じました。彼らは間違った道を進んでしまっただけで、本当はその道をいくことに後悔していた。誰かに止めてほしかったんです」


「でも盗みを犯した。どんな理由であれ、人を傷つけ、奪い、貶めることは許されることじゃない」


 クランベリーさんは間違ったことをいっていない。

 罪は罪だ。

 グレゴールさんたちは罪人で、その被害にあってしまった人たちが確実に存在する。


 でも。


 それでも。


「彼らは! 道を誤ってしまっただけなんです! グレゴールさんたちに救いの道をあげてほしい! 彼らはまだ正しい道に戻れるんだ!!」


 気づけば部屋中に響くほどに叫んでいた。

 ここで彼らを見捨てることは俺にはできない。

 

「ふーん、いいわ。ならその盗賊団たちをここに連れてきなさい」


「こ、ここですか?」


「そう、ついでに教会の審判者も連れてきなさい。カルマの判定ならここですればいいでしょ」


 傍若無人とはまさにこの人のことをいうのかもしれない。


 彼女は俺たちを見渡しながらニヤリと笑う。

 その口元はこれから起こることを楽しみにしているように歪んでいた。


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