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孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜  作者: 白芷


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第五十七話 追走劇


「待ちやがれっ!!」


「イクスムさん! ミリアをよろしくお願いします!!」


 ネックレスが無くなったことに茫然自失な様子で悲しむミリアをイクスムさんに預け、ウルフリックの後を追う。

 エクレアもなにかいいたげだったが、先に走っていったウルフリックをすぐさま追う必要がある。


「エクレアとイクスムさんはミリアについていてくれ! 俺たちはネックレスを盗んだヤツを追う!!」


「……」


 二人は頷いて答えてくれた。


 路地を行く。

 

 王都の綺羅びやかな大通りを外れ、暗がりの広がる裏路地へ。

 狭く細い道はパレードの喧騒から離れるように、先へ先へと繋がっている。

 

「狭い道だが、ウルフリックの反応は感知してある。まだそれほど離れていないぞ」


 ミストレアの生命感知のお陰で、窃盗犯を追いかけて走るウルフリックにようやく追いついた。

 どうやら路地に置かれた障害物で妨害を受けて時間を稼がれたらしい。

 ウルフリックが憤慨冷めやらぬ様子で口火を切る。


「アイツっ、逃げるルートを予め決めてやがる。迷いがねぇ!!」


 路地に置かれてある木箱やゴミ箱、あるいは樽を倒し一心不乱に逃げる窃盗犯。

 走る足に迷いはなく、分かれ道も見慣れたように進む。


「足が速ぇ、斥候系のクラスか? お前の弓で足を射抜けるか?」


「それは……」


 あの後ろ姿を弓で射る?


 いくら犯罪を犯した者とはいえ、その背中は一見無防備にも見える。


 ――――それを射るのか?


 俺は覚悟が足りなかったといまなら思う。

 アルレインという平和な街に染まっていたともいえる。

 犯罪は滅多に起きるものではなく、どこか遠いところの出来事だった。

 自らの身に降りかかると思っても見なかった。


 カルマは犯罪を抑制する効果はあっても、犯罪そのものを止められない。

 その実感が足りなかった。


「何を躊躇してるっ! 逃げられるぞ! クソっ、オレがやる【タービュランスアロー3】!!」


 乱気流の矢が逃げる窃盗犯の背を追う。


 命中する寸前で、飛び込むように前転してウルフリックの魔法を躱す。

 路地が終わり、少しの広さをもつ広場になっていたらしい。

 窃盗犯が辺りに響くような声で声を荒げる。

 

「クソっ! 魔法を放ってきやがった。おい、野郎ども! このお坊ちゃんたちに少し灸を据えてやれ!!」


 逃げ込んだ広場は、四方を建物に囲まれた外部からの視線の通らない封鎖地。


 そんなところで唐突に魔法が襲ってくる。


 伏兵だ。


「【ウィンドアロー3】」


 視界の外から飛んできた風の矢を躱した直後にさらなる追撃。


「行きなさいっ、【ウォーターツイスター】!」


 視界を遮る水の渦、それを見てウルフリックが吠える。


「この野郎! ゲイン! やるぞっ!」


「ウルフリック、奴らに自分たちの仕出かしたことの重大さを自覚させてやろう」


 右手の二重刻印が光の粒子に変わっていく。

 形成されるのは一本の槍。


「らあぁぁぁっーーー!!」


 向かってくる水の渦を、その三日月のような刃で両断する。


 ウルフリックの身長より長い柄。

 先端に取り付けられた三日月の刃は、路地の広場をほのかに照らす光を眩く反射する。


 それを見て窃盗犯の仲間もそれぞれが天成器を起動する。


 風魔法の矢を放った大柄な男性は大槌を。

 水魔法で俺たち二人を同時に攻撃しようとした細見の男性は杖を。

 魔法を防いだことに苦い表情を見せていた窃盗犯は短剣を。


 それぞれが自らの最も信頼する武器を持つ。


 一触即発の空気。


 誰かが動けば、すぐにでも戦闘の始まる予感をさせる緊迫感がこの場を包んでいた。


 そこに――――。


「【スチームボール】!!」


「くっ」


「なんだコレっ!?」


 どこからか白い球体の魔法が飛んでくる。

 盗賊たちと揉めている外界から遮断された広場の中心。

 そこで炸裂する形成魔法。

 白く熱を感じる煙のようなものが辺りに広がり、全員の注目が集まる。


「そこで何をしているっ!!」


 若い男性の声。

 広場に繋がる路地の一つから現れたのは、一人の軽装の騎士だった。


 前に突き出した手には抜き身の騎士の剣。

 パレードで見た騎士のものとは違って、動きを阻害しないように必要のない部分は外された騎士甲冑。

 

 突然現れた彼は朗々と語る。


「私は第三騎士団所属、騎士フリント・アルタイル。王都の民の窃盗の被害を確認してここに来た! 生誕祭の最中に民たちから金品を奪うとは許し難い行為。詳しい話を聞かせて貰う。全員そこを動くなっ!!」


(どうやらあのフリントという騎士は、クライとウルフリックのことも盗人と疑ってるようだな。仲間割れとでも思われたか?)


 鋭い眼差しでこちらに視線を向けるフリントさん。

 その瞳は明らかに俺たちを疑っていた。


「いまのは、蒸気魔法か? それにしてもこんな時に騎士がくるとは……話がややこしくなる」


 ウルフリックは悪態をつく。

 確かに、いまにも争いが始まるときに第三者が飛び込んでくるとは思わなかった。

 しかも、窃盗犯と疑われることになるなんて……。


 だが、こちらが戸惑って動きが止まってしまっていたのに対して、窃盗犯たちの動きは素早かった。

 あらかじめ、逃げる算段はつけてあったのだろう、その行動には迷いがなかった。


「ちっ、騎士かっ。運が悪い。お前ら逃げるぞ!!」


 大柄な男性の影に隠れた一人が懐から取り出した袋を地面にぶつける。


 瞬く間に広がる白い煙。

 

「ゴホッ、ゴホッ、お前たち、どこへ行く!」


 煙幕が路地の広場にモクモクと広がる。

 上手く視界が効かない。


(クライ、盗人たちの反応が離れていく。マズイぞ)


「ゴホッ、こんな煙、【タービュランスボール】」


 ウルフリックの魔法が直ぐ側で炸裂する。

 それは真下に向けての魔法。

 地面に向けて乱気流を炸裂させることで広場を覆いつけしていた煙幕を吹き飛ばす。


(アイツもなかなかやるな)


「待てっ! お前たちまでどこへ行く。この場から立ち去ることは許さんぞ!!」


 急いで窃盗犯たちを追いかけようとした矢先にフリントさんが俺たちに向けて静止を促した。

 どうする。

 誤解を解いている間に逃げられてしまう……。


「悠長に話してる時間はねぇ」


「奴らの仲間だろう。大人しくしていろ!!」


 駄目だ。

 話を聞いてくれそうにない。


 しかし、ウルフリックは簡単に諦めなかった。

 フリントさんの突き付ける剣に自ら近づいていく。


「止まれ! な、なんのつもりだ!!」


 フリントさんの動揺が透けて見える。


「オレはいく。妹の大事な物をアイツらに盗られた。オレはそれを取り返しに行く。……止めたければその剣で止めろ。それでも、オレはアイツらを追う」


 静かな決意の言葉だった。

 ただひたすらに前に向かおうとする言葉だった。

 

 人を動かす言葉だった。


「お前……」


 フリントさんの瞳が泳ぐ。

 明らかにウルフリックの言葉に動揺していた。


 幾ばくかの無言の時が過ぎる。


 次に発したフリントさんの言葉は俺たちを驚かせるものだった。


「……私も、一緒に行こう」


「……なんだと? オレたちを疑ってたんじゃないのかよ」


「勘違いするな。私は罪を侵す者、民を傷つける者を許しはしない。だが……お前たちが先に逃げた奴らを追うなら……私はその後をついていくだけだ。そこに犯罪を侵す不届き者がいるなら全員を捕まえるまで」


 自分でも苦しい言い訳と自覚しているのか、そっぽを向いたままそんなことをいう。

 そんなフリントさんを見てニヤリと笑ったウルフリックは、改めて決意を宣言する。


「ハッ、いいだろう。だが、ついてくるからにはお前も戦力として数えるぞ。いいか、奴らをこのまま簡単には逃さねぇ。ミリアの大事な物を奪ったことを必ず後悔させてやる。お前にも協力して貰うぞ」


 そういってウルフリックは獰猛な獣を思わせる形相で笑みを深める。

 その言葉には有無を言わぬ迫力があった。


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