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孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜  作者: 白芷


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第三十八話 立ち上がる意思


 オーク・ランサーは他の棍棒持ちのオークとは隔絶した強さを持っている。

 とくに目の前にいるハイオーグレスの側近だった個体は強固な紫鎧と相まって……強い。


 いままで戦ってきた魔物と違うのは武器を扱う技量が高いということ。

 巧みな槍さばきで中距離から攻めてくる。

 迂闊に前に出れば突き、薙ぎ払い、叩きつけと派生していく連続した攻勢に出る。

 膂力も高く一撃が重い。

 かといって、守りも硬くラウルイリナも槍のリーチの長さに苦戦している。

 また、ミスリルの盾で槍先を弾いてもすぐに体勢を立て直すからなおさら戦い辛い。


 だが、それでも……。


「ブガァァッ!!」


 ドシンと音がしてオーク・ランサーが倒れる。

 

「……ルインたちのお陰だな。ジャイアントオークがいないだけでも集中して戦える」


 オーク・ランサー単体に集中できればずば抜けた強敵でもなかった。

 盾で防ぎ、剣で確実に傷を負わせる。

 逆に剣技で受け流し、弓で急所を射る。

 交互に攻守を入れ替えることで翻弄する。

 段々と連携の上手くなってきた俺とラウルイリナならなんとか倒すことができた。


「あちらも無事倒せたようだ。残すはオーク・シールダーとハイオーグレスだけだな」


 ラウルイリナの言う通り、丁度同じくらいのタイミングでオーク・ ランサーを倒せたようだ。

 カザーさんとイオゼッタが小走りで近づいてくる。


「そちらも倒せたか。やはりジャイアントオークさえ居なければ苦戦するほどの相手ではなかったな」


「早くあの不気味な統率個体を倒しましょう。――――え!? 待って、あれは!?」


 イオゼッタの視線の先。

 変わらず仁王立ちするハイオーグレス。

 堂々とした佇まいは周囲に射殺すような殺意の視線を向けている。


 その右手に握られたウェポンスライムの擬態武器。

 銀の大斧。

 そこから伸びる触手は――――オークの死体に繋がっていた。


「ウソでしょ、血を吸ってる?」


「あれは……虫の息だったオークも殺して血を奪っているのか? ……不味い状況だ。ここにはオークの死体が山ほどある」


 あれが狙いだったのか!?

 

 銀の大斧が脈動する。

 突き刺さった触手は貪欲にオークたちの死体から血を吸い取り、見る間に死体が干からびていく。

 足元にはすでに吸い取り終わった無数の死体が転がっている。

 ラウルイリナの言うように血を吸い取り性能を高めるなら、すでに相当な量を吸収したウェポンスライムはかなり危険だ。


「それを止めなさいよ【ファイアボール・サテライト2】……ファイアッ!!」


「【サンドカッター2】」


「……っ」


「ブオオ」


 ハイオーグレスを狙った二人の魔法は間に飛び込んできたオーク・シールダーがその巨大な大盾で防いだ。

 俺の放った錬成矢も大盾に刺さって貫通しない。


「……え?」


 それは、誰の驚きの声だったのだろうか。

 皆の視線が一点に集中している。

 

 銀の大斧の脈動が一際大きくなったように感じた瞬間だった。

 変化。

 いや、変化に留まらない……進化?

 それまでの存在感が偽りだったかのような異様な圧迫感が周囲を包む。

 

 銀が金に。


 片手持ちの大斧が両手持ちの特大斧に姿を変える。


「バカなっ! 別の武器に変化するなんて」


「まさか……ランクアップ!? こんな時に!?」


 ハイオーグレスの巨体でもなお大きく見える両手持ちの両刃特大斧。

 ギラギラと妖しく光る金の刃からは歓喜したように触手が揺れ動く。


「ブゴオオォォォオオオォーーー!!」


 ハイオーグレスの咆哮。

 なんだ!?

 オークたちに指示を出すときの叫びとはどこかが違う。

 か、身体が……動かない!?


「ぐぅ……きょ、『恐怖』の咆哮だ。あれを浴びると強制的に恐怖の感情を呼び起こされて動けなくなる」


「そ、それにしたってこんな強烈なやつ聞いたことない。ゆ、指一本動かせないなんて……」


「はぁ、はぁ……こ、これが『恐怖』の咆哮……」


 ハイオーグレスが二体のオーク・シールダーを引き連れて一歩ずつゆっくりと近づいてくる。

 カザーさんもイオゼッタもラウルイリナも誰もが咆哮で硬直してしまっている。

 とくにラウルイリナは苦しそうだ。

 呼吸が荒く乱れてしまっている。


 十秒、二十秒、その間もハイオーグレスたちは確実に近づいてくる。

 一体いつ動けるようになるんだ!


 目の前で振り上げられる銀の大斧。

 中央に据えられた赤い石が不気味に光を反射する。


 動けない。


「ぐうぅ、クライ、これを破るには恐怖に打ち克つしかないっ! 心を強く持て!!」


 カザーさんの苦しそうな叫びが響く。

 でも……。


「ぐ、ぁぁ、ああ」


(クライ! しっかりしろ!)


 振り下ろされる直前、かろうじて動いた右手で盾を――――。


「うああぁっーーー」


 ミスリルの盾諸共一撃で吹き飛ばされた。


(クライ!!)


「た、盾が……」


「盾なんかいい、早くポーションをっ!!」


 ミストレアの念話ではない叫び声がどこか遠くに聞こえる。


 肩が熱い。


 首を捻り右を見れば腕を伝う血。

 離れた場所には半分に両断されたミスリルの盾。


 時間差で痛みが襲ってくる。

 

「ぐぅぅぅっ」


「ク、クライ! このっ! 動け、あたしの身体」


「はぁ、はぁ……くっ、うぅ」


 金の特大斧の刃についた俺の血は瞬く間に吸収されていく。

 その間もハイオーグレスは次の獲物を吟味するように視線を動かす。

 

「フゴッゴッゴッ」


 わ、笑っているのか。

 動けない俺たちを嘲笑うかのような笑みを浮かべるハイオーグレスと二体のオーク・シールダー。

 豚に似通った顔が醜く歪む。

 そこには……これから起こる出来事への期待と悪意があった。

 

「はあぁぁぁっーー!」


 自身を鼓舞し、恐怖に打ち克つための叫び。

 カザーさんが苦悶の表情で闘技を放つ。

 

「喰らえ【闘技:四辺散華】!!」


 長槍でもってハイオーグレスの上下左右を連続で突く四連撃。

 闘気によって強化された身体能力はまさに四方向を同時に突く素早さだったが、側に控えるオーク・シールダーが身を挺して止めに入った。


 だが、守られたハイオーグレスは無傷だがオーク・シールダーは左腕を負傷した。

 もう一体のオーク・シールダーもハイオーグレスを守るため移動する。

 

「あ、あたしだって! アーロン! 力を貸して! 【変形:歯車嶺櫛短剣】!」


 その動きをイオゼッタは見逃さなかった。

 短弓の天成器アーロンさんが姿を変える。


 持ち手の柄はそのままに、弦が収納され、片方の湾曲部分が握り手を守るように折り畳まれる。

 もう片方の湾曲部分からは刃と櫛状の峰が飛び出す。

 

「やあぁぁぁっーー!」


 刃の櫛を峰にもつ短剣。

 斬りかかられたオーク・シールダーは堪らず押し込まれる。

 

「【ファイアボール】」


 すかさず放たれる火球。

 短剣と火魔法の連続攻撃は攻撃一辺倒だが、それだけにハイオーグレスたちには脅威に移ったのだろう。

 一歩、二歩と後退していく。


「クライ、だ、大丈夫か? いまポーションを……」


 顔色の悪いラウルイリナが回復のポーションを腕に掛けてくれる。

 自分も辛いはずなのに剣を杖にしてでも来てくれた。


 肩から二の腕にかけて切られた傷が回復のポーションで塞がっていく。

 ミスリルの盾が刃との間に入ったお陰か傷はそれほど深くなかった。

 

「……くっ……右手が痺れる」


「はぁ、はぁ……あれ程出血していたんだポーションでも暫く普段通りには動かせない……筈だ」


 右手を握ってみると力が入らない。

 弓を引くのは厳しいか……。


「ま、まだ動かない方がいい……怪我も治ったばかりだ。いま二人に加わっても力にはなれない」


 身動ぎした俺を見下ろすラウルイリナ。

 その瞳は恐怖に囚われたままだ。

 だが、俺の答えは決まっている。


 今度こそ恐怖で硬直していた身体を動かし立ち上がる。


「二人の元に行くよ。たとえ……足手まといでも……」


 視線の先には必死にハイオーグレスたちを押し留めてくれている二人の戦う背中が見える。

 しかし、オーク・シールダーの大盾の防御は硬い。

 体長ニm近いオーク・シールダーの巨体と同じくらいの大盾を武器代わりにも使っている。

 体重差もあって短剣と槍では簡単に押し退けられない。


 なにより、二体の後方でハイオーグレスが舐めるような視線で見つめているのも気になる。

 防御を考えずに攻勢にでている二人が、致命的な隙を見せるのを待っているように感じる。


「こ、怖くないのか? ハ、ハイオーグレスのあの擬態武器は異常だ。戦闘中にランクアップするなんて考えられない。あ、あんな戦いに満足に動けない身体で参加したって、無駄死にするだけかもしれないんだぞ」


「ラウルイリナ……俺も恐怖はある。でも……仲間を見捨てることはできない。それに、まだできる役割がある」

 

 オーク・シールダーの大盾もいくら防御に優れていても一撃の破壊力に特化したミストレアの小手なら砕けるはずだ。

 均衡を崩せばこの状況を打破する鍵になるはず。

 

 しかし、ミスリルの盾を失ったのは痛いな。

 なぜならミストレアの変形先の小手は盾術のスキルの対象外だからだ。

 小手は分厚い装甲に覆われてはいるが盾とは違う分類らしい。

 魔物との戦闘でも身体が勝手に動いて防御できるようなことは起こらなかった。

 

「……いざとなったら……二人の盾代わりぐらいにはなれるはずだ。だから俺は行くよ」


「た、盾代わり……盾……盾か」


「……ラウルイリナ」


 ラウルイリナのか細い呟きに反応したのは意外にも沈黙を保っていた彼女の天成器オフィーリアだった。


「貴方はこのままでいいの?」


「い、いいわけない。で、でも、身体が動かないんだ。恐怖が心から溢れてどうしようもないんだ」


 返答は震えていた。

 ハイオーグレスの『恐怖』の咆哮。

 それが、ラウルイリナの心に深く刺さっていた。


「思い出して貴方がここにこれた理由」


「ここに……」


「貴方の大切なものはなに? 貴方のお父様の言っていた大切なもの。失ってはいけないもの。……私は何時でも貴方の側にいるわ。いつまでも待っている。貴方が立ち上がるのを、恐怖に打ち克つのを。だから……負けないで」


「オフィーリア。私は……」


 ずっとラウルイリナの一番近くで待ち続けていたオフィーリアだから言える言葉なのかもしれない。

 

「ぐぅ、うぅあ、ああ、ああぁっ」


 顔を上げ、立ち上がるラウルイリナ。

 その瞳に恐怖はない。

 映るのは前に進もうとする強い意思のみ。


「私が、私が君を守る。オフィーリア、力を貸してくれ」






「カザーさん! イオゼッタ! 遅くなりました!」


「遅いっ! 何やってたの!」


「済まない。遅くなった」


「ぶ、無事ならいいの! 無事なら!」


 俺たちのところにハイオーグレスたちをこさせないために無理をしてくれたのだろう。

 二人共傷だらけで打撲の後が痛々しい。


「……二人共、来れたのか……戦えるか?」


「「はい」」


 カザーさんの問いにラウルイリナと同時に返事を返す。

 戦う意思は二人共に充実していた。


 ハイオーグレスたちは合流する俺たちを静かに見守っている。

 警戒しているのか?

 一向に攻めてくる気配がない。


 カザーさんは動かないハイオーグレスたちを見張りながら慎重に話す。


「オーク・シールダーの守りが予想以上に硬い。闘技で倒そうにも恐らくハイオーグレスはその瞬間の隙を狙っている。だがあの二体を突破しないとやつまでは辿り着けない。いつ『恐怖』の咆哮を放ってくるかわからない以上、多少無謀でも攻めるべきかもしれない」


「オーク・シールダーは俺が相手します」


「やれるのか?」


「私も行きます。クライはまだ怪我をした右手が使えない。私がサポートします」


「……わかった。もう一体は俺が相手しよう。問題は『恐怖』の咆哮だ。もう一度アレをやられると全員が戦闘不能になっても可笑しくない。一度受けたからわかると思うがアレを破るにはかなりの気迫が必要だ」


 心の内側から溢れる恐怖。

 心身共に動けなくなる感覚は耐え難いものがあった。

 だが、気づいたこともある。


「次は情けない姿は見せない」


「その……済まない」


「あんたのことじゃない。……自分に腹が立っただけ。あんな奴にあたしは屈しない。今度はこっちが這いつくばらせてやる」


 イオゼッタの鬼気迫る表情は必ず雪辱を晴らすと物語っていた。


「それに、あんただってさっきと全然違う顔してる。今度は負けないって」


「……そうだろうか? 自分ではよくわからない。……ただ、私は大切なものを守りたいだけだ」


 ラウルイリナはどこかすっきりした表情で答える。

 揺るがない決意が彼女を支えているように感じた。


「ブオオォォォーーー!!」


 ハイオーグレスの叫び。

 『恐怖』の咆哮ではないようだ。

 動きに支障はない。


 だが、あちらには違ったようだ。

 号令を聞きオーク・シールダーが大盾を構えて突進してくる。

 守り主体の戦いが一転して攻撃主体に切り替わる。


「魔法で動きを封じる。ここからは一気に攻めるぞ! 【サンドツイスター・スピン2】」


 二つの砂の渦がオーク・シールダーの大盾に直撃する。


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