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第百八十四話 火花舞いし戦場


「ふふふ〜、簡単に攫われちゃったけど、覚悟を決めたアニスはホントは強いんだよ〜」


「もう、フーラ行くよ、【変形:波撃鞭】」


 気合いに満ちたアニスの掛け声で短杖の天成器フーラが姿を変える。


 短杖の本体はそのまま柄となり、先端が花開くように拡がっていく。

 飛びだしたのは細く束となった白銀の閃光。


 次第に拡散していた光が一つに収まっていく。

 それはフージッタさんの角刃鞭とは異なる切り裂く刃のない艷やかで靭やかな鞭。


 彼女は白銀のそれを両手でもち、強度を確かめるようにグッと引き伸ばすと、地面にバチンと打ちつける。


(なぜかわからないけど……ちょっと似合っていて怖いな)


 それにしても、あれがアニスの鍛えてきた力。

 俺とエクレアの訓練の場にアニスは普段顔をださなかった。

 だから、フーラが変形した形態を見るのは初めてだった。


 しかし、それは大した問題ではない。

 アニスとは子供の頃からの付き合いだ。

 少しばかり離れていた期間があったとしても呼吸を合わせるのは容易い。


「クライ! わたしが魔法で援護する! だからいって!!」


「ハハッ、今度はアニスに負けられないぞ。クライ、私たちの力を見せてやろう!」


「ああ! やるぞ、ミストレア! 【マナバレット・スピン5】」


「なっ……」


「以前の邂逅と違うのはロディアス、お前だけじゃないぞ! あれから私たちは強くなった!!」

 

 無属性純魔魔法。

 月白の光を生み出すこの魔法は、消費魔力は極めて少ない代わりに与えるダメージも少ない。

 しかし、命中したときの衝撃は内部に浸透し、たとえどれだけ硬い外殻を纏っていたとしても一定のダメージを与えることが可能だ。


「ぐ……【グレイシャーシールド2】。魔法因子だと!? ……以前は使えなかったはずなのに……」


 《スピン》は俺が習得した数少ない魔法因子の一つだ。


 ちなみにさっきのは中級射撃魔法、《バレット》に加えることで命中精度と威力、速度を僅かに上昇させている。

 ただし、魔法因子には同時にデメリットも存在するため、影響範囲、弾丸の大きさは僅かに小さくなっている。


 いまのは魔法自体が強固な氷河魔法の盾で簡単に防がれてしまったが、魔法の軌道や形状を変化させ、あるいは新たな効果を加える魔法因子は、俺の新たな武器でもある。


「あれが噂の月の光のような新魔法か……一列に並ぶ魔法の弾丸は中々に壮観だな。……オーニット、俺たちも前に出よう」


「…………【エンチャントウォーター】」


「く、生意気な奴らだ。……おい! “黒陽”!」


「え! オレっすか」


「お前だ!! 何自分は関係ないような顔でぼーと突っ立ってる! こっちに来てお前も罪人共を懲らしめるのを手伝え!!」


「ええー、オレも手伝うんすか? いやいやダル……じゃなかった。ロディアスさんが『私がやる!』って立候補したから“孤高の英雄”くんの足止め役になったんじゃないすか。オレ監視役とか誘拐役とか十分仕事してますし、人質だったアニスちゃんが取り返されちゃったならもう用無しっすよね。ここでロディアスさんの活躍を見学してますよ」


「お、お前!?」


「そもそもいっつも“孤高の英雄”くんの恨み節ばっかり聞かされてこっちは辟易してたんすよ。今回はせっかく仕返しをするいい機会じゃないすか。一人で戦って下さい。ロディアスさんの実力なら余裕っすよ。余裕」


「コイツッ……お前の速度ならもう一度お嬢さんを人質にとるのも簡単だろうが」


(随分煽るな。余程酷使されたのが気に入らなかったのか? いや、あの感じ面白がってるだけか?)


(でも“黒陽”まで参戦してこないのはありがたい。……オーニットの奇襲を容易く捌いていたあの実力者にまで加わられると、こちらが不利になるのは確実だからな)


「いけ! 【ファイアボール2】!!」


「…………【アースカッター3】」


「舐めるな、【グレイシャーウォール・イムーバブル】!!」


 氷塊の壁、あれは《イムーバブル》の魔法因子を加え、位置を固定する代わりに更に強固になったもの。

 アニスとオーニットの集中砲火にもビクともしないか。


「仕方ない……多少人数が増えただけだ。初めから私一人で叩き潰す予定だったのは変わらない。そこの魔人の少年やお嬢さんも恨むなら“孤高の英雄”を恨んでくれたまえ。すべて其奴が悪いんだからな! 【大風鱗鮫:空裂連彈】!!」


 怒声と共に空中に展開されたのは再びの緑風の鮫。

 しかし、今度は数が違う。

 三体の鮫が上方と左右から一点に集中するように迫ってくる。


 しかし――――。


「そのエクストラスキルの鮫、接近する前に撃ち落とせばいいんだろ? ――――【マナバレット5】、【マナバレット5】、【マナバレット5】!」


「ぐっ……」


「おお〜、やるっすね〜」


 三方向に撃ちだした月白の弾丸は緑風の鮫の頭部先端を真正面から射抜く。

 高音の破裂音を響かせ鮫たちは弾け飛んだ。


 やっぱりな。

 接触がトリガーなら近づかれる前に対処するのが有効だと思った。


 あれなら闘気強化した弓矢でも迎撃できるか?

 いや、エクストラスキルは多彩な形状と技がある。

 単発の弓矢で簡単に迎撃できると過信しない方がいいか。


 だが、アニスを人質にとられていたときは耐えるしかなかったけどいまは違うぞ。


「面白いものだな! ロディアス! お前の天成器のエクストラスキルは、私たちとすこぶる相性が悪いようだぞ!!」


「減らず口を……! なら魔法で攻めるだけだ、【グレイシャーシリンダー2】!」


 空中に展開する二本の氷塊円柱。

 かなりの強度を備えた威力のある魔法。

 ……純魔魔法の威力で削り切るにはそれなりの時間が必要だな。


 すると突然オーニットが前方へ駆けだす。


「これは俺たちもただ突っ立ってる訳にはいかないな。オーニット!」


「…………分かっている」


 走りながら構えるは鞘に納まったままの反りのある刀の天成器。

 氷塊円柱の手前で足を止めたオーニットは腰を落し、


「切り裂け、オーニット!」


「……【アーススラッシュ3】」


 白銀の鞘を滑らせ放たれる中級斬撃土魔法の三連切り。

 切っ先に宿った土の魔力が空中に茶色の軌跡を描く。


「く、私の魔法を……」


 ガラガラと崩れ落ちる氷塊。


「こっちだって負けないよ! 【ファイアシリンダー】っ!!」


 ロディアスの僅かな動揺を見抜き、間髪入れずに火魔法を放つアニス。


「む、だが甘いぞ。【グレイシャーボール・ホーミング3】」


 激しくぶつかりあう火の円柱と氷塊の球体。

 両者の間で互いの魔法の威力がせめぎ合う。


 火の円柱は空気に溶けるように立ち消え、氷塊は地に落ち砕ける。


 一瞬の静寂。


 動いたのは――――。

 

「甘いのはそっち!」


「アニス!?」


 なぜ前にでる!?


 彼女は俺の横を通り過ぎ、同じく攻めてくると思っていなかっただろうロディアスに向かって力強く鞭を振るう。


「やあ!」


「痛ぅッ!?」


「この! 人を! 人質にしようなんて! なに考えてるの! 反省して!」


(こ、怖〜、アニスの奴。人質にされたのがそんなに嫌だったのか? ロディアスがメッタメタに叩かれてるぞ)


 ア、アニスは今後怒らせないように気をつけよう。

 俺はあの鞭で叱られながら叩かれたくない。


「ッ、クソっ、巫山、巫山戯るな! この小娘が! 【グレイシャーニードル4】!」


 痛みを堪えながらロディアスが空中から氷塊の針を伸ばす。

 だが、アニスはそれもすでに予測していた。

 瞬時に横に飛ぶとロディアスの横っ面を叩くように鞭を振るう。


「もう喰らわんぞ、【グレイシャーシールド】」


 鞭は氷塊の盾に簡単に弾かれる……かに見えた。


「まだだよ! 【ファイアボール】!」


「《シールド》を躱して鞭の先端から魔法だと!? ぐぅ……」


 いまのは……鞭の天成器フーラの先端が氷塊の盾に当たる瞬間、迂回するかのように動いた。

 しかも、盾で守られていない場所からの火魔法の展開。


「わたしはまだまだ弱い! でも戦い方次第で強くもなれる! そう、わたしはお母さんに教わった!」


(あの縦横無尽に動くフーラの軌道はアニスの修練の賜物か)


 手首のスナップで自在に軌道を変化させ、鞭を振るうアニス。

 さらに鞭の先端から放たれる火魔法はアニスの意思で変幻自在に展開場所を変化させる。


 視界の外、守りの内側、意識の盲点。


 本来は魔力支配域によって相手の至近距離から魔法の展開をできないものが、フーラを介してそれを可能にしていた。


 行動の一つ一つが潰され反撃を許されないロディアス。

 初級魔法故に一発一発の威力は低くとも、アニスは確実にロディアスを追い詰めていた。


 踊るように、舞うように白銀の鞭を振るい赤い火の華を咲かせるアニス。


 それは彼女の鮮やかな赤い髪色も相まって、戦場に咲く一輪の華のよう。


 いまこのとき戦場を支配しているのは間違いなくアニスだった。


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