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第百八十三話 共闘

前話の後半に魔眼の説明を足してあります。まだ読んでいない方がいらっしゃれば目を通していただけるとありがたいです。


「まあ、オマエたちがどのような関係だろうと構わないさ。だが、せっかく人質のお嬢さんを取り返したところで悪いが、たった二人で一体何ができる」


 やれやれと首を振りながら問いかけてくるロディアス。

 オーニットの乱入による混乱はすっかり治まったようで僅かに余裕が見てとれる。


「シャルドリードのエクストラスキルを間近で受けたのだから当然だが、“孤高の英雄”は傷だらけで満身創痍。出血は多く歩くのも辛そうだ。しかし、意気揚々と飛び込んで来たのはたった一人の魔人の少年。他はどうした? てっきり後に続いて何人か飛び出してくるのかと身構えていたが、いくら待っても出てこない。寂しいものだ」


 ロディアスの指摘通りだ。

 オーニットとその天成器ハバルクードさん以外に援軍はいない。

 隠された戦力もこのことを知っている人もいない。


「オーニット君だったか? そこの魔人の少年も我々に気配を悟らせないところをみると学生にしては中々の実力だろう。――――だがそれだけだ。我々には決して敵わない」


「……」


「抵抗するだけ無駄だ。……しかし、我々も罪のない一般人を傷つけるのは胸が痛む。――――クライ・ペンテシアを置いていけ。それでお前たちは見逃してやろう」


 アニスとオーニットへ向けた慈悲のつもりだろうか、選択しろとばかりに命令してくるロディアス。

 しかし、オーニットは自分の言葉で反論する。

 ロディアスの勝利に酔った眼差しに真正面から。


「…………断る」


「ナニぃ?」


「……オレは一度決めたことを自ら覆すことはない」


「ふふ、流石俺の使い手。決めるところはきちんと決めるな。こいつの言う通り、クライくんを引き渡すことは出来ない。悪いがあんたたちが退いてくれ」


 毅然とした態度で立つオーニットに苦虫を噛み潰したように顔を歪めるロディアス。

 思惑通りにならなかったことがそんなに気に入らないか。


「お嬢さんはどうだい? 人質に取った我々が怖いかもしれ――――」


「【ファイアボール】っ!!」


「あ?」


 それは誰の言葉だったのか。


 呆気にとられた誰かの思わず漏れた一言。


 いつの間にかアニスの右手に握られていた短杖の天成器フーラ。

 先端から迸る赤い火の球体。


 飛んでいった先は、いましがた話しかけようとしたロディアス。


「あ」


 ボンという破裂音が響く。


 あれは……完全に油断していたな。

 アニスの火魔法はロディアスの顔面に吸い込まれるようにして命中した。


「お〜、やったね〜」


 気の抜けたフーラの声が静かになった空間に不思議とよく通る。


「いまの内に傷を治すね。傷口見せて……【ヒーリング】」


 アニスの両手から広がる暖かい緑の光。

 緑風の鮫から弾け飛んだ刃鱗による傷が瞬く間に癒えていく。


「ごめん、やっぱりわたしの回復魔法だけだと足りない。軽い傷を塞ぐので精一杯。ポーションは持ってる?」


「あ、ああ。マジックバックにある」


「太腿の大きい裂傷にはそれをかけて。わたしは他の傷を治すから」


 手慣れた手つきで傷口を確認しては回復魔法をかけてくれるアニス。

 彼女は額に汗をかきながらも集中して俺の治療をしてくれていた。


「ん? どうしたの?」


「いや……アニスも成長してるんだなって」


「あ、当たり前だよ! わたしだっていままでなにもしてこなかったわけじゃない! お母さんに戦い方から旅の仕方まで色々教わったんだから! ……攫われたときはただ怖くてなにもできなかったけど。でも……クライがきてくれたから」


「アニス……」


 彼女は気恥ずかしそうに顔を伏せ再び治療を再開する。


 そうだ、アニスも一歩一歩前に進んでいる。

 王都で再会して大分日数も経ったのに、なぜか彼女は昔のままだと錯覚してしまっていた。

 彼女も俺と同じように強くなろうと足掻いていたのに。


 ……反省、しないとな


「ぐ……このっ」


「我が導師、どうか落ち着いて」


「シャルドリード! これが落ち着いていられるか! あの小娘め、私の慈悲を無碍にしやがって!!」


 取り乱していたがロディアスも第四階梯まで到達した天成器の使い手。

 アニスの火魔法は顔面に直撃したかのように見えたけど、上手く腕で防いだようだ。


 ただし……。


「あー、ロディアスさん。帰ったら髪ちゃんと整えた方がいいっすね」


「……なにが可笑しい」


 半笑いの“黒陽”が激しい怒りを顕にしたロディアスの前髪を指す。


「く、ふふ、いやだって、前髪めっちゃ焦げてますよ」


「ハっ!?」


(ハハハハッ、アイツ、あんなに慌てるとは、前から髪の毛に悩みでもあったんじゃないか? アニスの火魔法はある意味急所に命中したな)


 念話ごしでも笑いを堪えるのが大変そうなミストレア。

 ……まあ、気持ちはわからなくもない。


 “黒陽”が茶化すほど燃えていないというのにあの慌て様。

 恐らく命中した場所が場所だからか不安になったのだろう。


 天成器を格納してまで必死に自身の髪の毛を確認する様は、いままでの態度から鑑みてもちょっと滑稽に思えてしまう。


「…………」


「フフ、いや笑ったら悪いな。だが……フフフ、あの動きはズルいだろ」


 その点オーニットは流石だ。


 彼の天成器であるハバルクードさんが精一杯笑いを堪らえようと努力している中、誰もが不意打ちのように笑ってしまうあの動きを見ても一切動じていない。


「オ、オマエら! 私を見て笑ったな! ゆ、許さん! 許さんぞ!!」


 “黒陽”に散々からかわれていることを誰も教えないからか、周囲の緩みきった態度に激昂するロディアス。

 それを見て自分に被害が及ばないようにさっと距離をとる“黒陽”。


(“黒陽”め、怒らせるだけ怒らせて自分は安全圏へ距離を取るとは、無責任な奴だ)


 再度円環杖の天成器を手元に出現させるロディアス。


 緊迫した空気が辺りを包む。

 ……さて、ここからまた戦いのはじまりか。


「……アニス」


「わかってる。逃げろっていうんでしょ」


 視線を隣に移せばフーラを手に握り前を見据えるアニスの姿。

 彼女は強い眼差しで俺を見つめ返す。

 瞳には確固たる意思が宿っていた。


「わたし、逃げないよ。さっきもいったけど、戦い方はお母さんにみっちり教えてもらった。華やかな王都の生活で忘れてしまっていたけど、戦う覚悟も思い出した。……わたしは足手まといになるためにここにきたんじゃない! わたしはわたしのために! わたしの我がままを通すためにここにきたんだから!」


「……アニスにはこの騒動のことを騎士団か守備隊に知らせて欲しかったんだけどな」


「ごめん、でもああいう粘着質っぽい相手だと簡単には逃してくれないでしょ。なら一緒に戦った方が遥かにいい」


「ハハッ、確かにそうだ! アイツは相当根にもつタイプのようだからな。目の前で憎い相手が逃げようとするなら必死に追うだろう。諦めろ、クライ。私たちの負けだ」


 はぁ……仕方ない、か。


「わかったよ、アニス。……頼む。一緒に戦ってくれ」


「うん!」


 敵は強大。

 しかし、アニスと二人なら乗り越えられる。


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