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第百六十八話 新たな友と新たな出来事


 屋外の訓練場に集まる皆の服装はすっかりと冬服へと衣替えされている。

 高く澄んだ秋空の元行われる野外授業。


「今日の授業は三人でペアを組んで模擬戦を行うこととします。各自それぞれで班を作ってください」


 アシュリー先生の普段と変わらない平坦な声に、すでに皆慣れたもので、すたすたと別れて班を決めていく。


 さてどうしよう。

 いつもならエクレアやセロやマルヴィラと組むんだが……三人か。


「クライくん。今日は僕たちと組まないかい」


 悩んでいる最中に不意に声をかけてきたのはあまり街中では見かけない太ましい体型の少年。


「ベーコンと……ラッグマーか」


 ベーコンとラッグマー。

 この二人はほとんど常に一緒に行動している。

 

 ベーコン・ケイビーム。

 故郷で暮らす大家族を離れて学園の寮生活を送っているというちょっと太めの少年。


 対して隣に立つラッグマーはかなりの無口だ。

 二m近い背丈は非常に高く、腕も足も信じられないほど太い。

 そして、白い毛並みをもつ虎の獣人でもある。


 その迫力には立っているだけで威圧感すら感じてしまうが本人は至って温厚。

 寧ろあまりに無口過ぎて声を聞いたことすらない。


 二人共穏やか気質の持ち主で争いは好まない傾向にある。

 特にベーコンは他生徒から稀に容姿を揶揄る言葉を言われてもあまり自分からは突っかかってはいかない。


 俺とベーコンたちがこうして班に誘われるほどに知り合ったのも学園の生徒の一人が彼らに絡んでいた場面に出会したからだ。

 基本的に街にはその……肉付きのいい体型の人はあまり見かけない。


 これは通説のようなものだけど、巷では太ましい体型の人物は真っ先に魔物に襲われると信じられている。

 魔物は基本胸の魔石を狙って襲ってくる訳だが、肉付きがいいとはつまり魔物にとっても食いでのある獲物ということなのだろう。

 細い体型と太ましい体型では明らかに魔物の襲う優先順位が違うなんて話も聞く。


 人が魔物を食料や資源として狩るように、逆に魔物もまたこちらを喰らうために狙っている。


 そのため皆体型には注意する者がほとんどだ。

 誰もが真っ先に命を落としたくはない。


 エクレアに視線を移せばすでにプリエルザを引き連れたミケランジェに同じ班を組まないかと誘われているようだった。

 心配する必要はなさそうだな。


「……ああ、俺で良かったら」


「良かったぁ。もちろん歓迎するよ! ね!」


「…………」


 はしゃぐベーコンが返事を求めて振り返るとゆっくりと頷くラッグマー。

 やはり大きいな。

 見上げるほどの高さだ。


「どうやら班分けは終わったようですね。今日は各々の天成器を用いた模擬戦を行います。ですが、くれぐれも細心の注意を払うように。万が一怪我をした場合も直様対応できるように用意はしてありますが、あまりに危険な行動を取った場合は即座に鎮圧します。――――覚悟しておきなさい」


 冷徹な眼差しで釘を刺すアシュリー先生。

 しかし、これもクラスの皆は慣れたものでアシュリー先生が俺たちの身を深く心配しているのがわかっているからかあまり動じていなかった。


「はぁ……皆さんを信じてはいますが、僅かな油断が深刻な怪我を引き起こすこともあります。貴方たちは本当にわかっているのですか、まったく」


 不機嫌そうに文句をいうアシュリー先生。


「はーい、注意しますにゃ〜」


「ワタクシがそのような無様な失態を冒すなどあり得ませんが、アシュリー先生の言う事なら十分配慮いたしますわ! ご忠告ありがとうございます」


 だがクラスの皆はどこか空返事だった。

 浮ついているといってもいい。

 それはアシュリー先生が発した次の言葉の中のある出来事が少なからず関係していた。


「……今月はクラス対抗戦が控えています。修練で気を抜いていると本番で足元を掬われますよ」


 クラス対抗戦。

 同じ学年同士で各クラスが競い合う課外授業と同じ学園行事の一つ。


 日頃の修練の成果を学園中に見せつける舞台でもあり、武力に自信のあるものにとっては鍛え上げた力を示す絶好の機会でもある。


「えー、でもアシュリーせんせー! 個人戦の代表者はまだ決まってないじゃないすか!」


 エリオンの質問に全員が耳を傾けた。

 そう集団戦と個人戦に分かれるクラス対抗戦において皆が一番に気になっていただろう部分。


 なにより俺たちアシュリークラスでは個人戦に参加する代表者は決まっていなかった。


「個人戦の代表はいずれ立候補と推薦によって決めるつもりです」


「え! ワタクシが代表ではないんですの!」


「おい、プリエルザ、お前調子乗ってんじゃねぇぞ!」


「なんですってぇ! ウルフリックさんこそ代表に選ばれる見込みがないからと嫉妬されては困りますわ!」


「コイツっ……」


「まあまあ、二人共。争わないでくれ」


「お前は黙ってろ!」「委員長は黙っていて下さいまし!」


 アシュリー先生の発言を皮切りに口争いを始めるプリエルザとウルフリック。

 クラス委員長であるベネテッドが止めに入るが二人はまったく意に介さない。


 ……割とあの二人は仲が悪いよな。

 二人共我が強いからああなるのか?

 それにしても委員長は理不尽に怒鳴られて不憫だ。


 そんな中、アシュリー先生は二人の争いには目もくれず話を続ける。


「集団戦はともかく個人戦は他のクラスも相当な実力者を選出してくるはず。我こそはと自分の実力に自信のある者はいまから一層の修練に励むように。……勿論個人戦の代表に選ばれなかったとしてもその者の力が劣っている訳ではありません。単に活躍する場が異なっていただけのこと。気に病む必要などありません。……ですが、もし選ばれた時に後悔しないようにいまからでも授業に集中し鍛えておくことを怠らないように。代表が誰になろうとも自らの力を高めようと足掻くことは貴方たちの成長へと繋がっていくのですから」


 改めてアシュリー先生の合図で訓練場に散っていくクラスメイトたち。


 クラス対抗戦か……一体このクラスで誰が代表になるのか。


 なにより競い合う相手となる他のクラスはどういったクラスなのか。

 学園に通っていてもまだまだ知らないことは多い。


 目の前で特大槌の天成器を構えるベーコンを見据えながらそんなことを思案していた。


 だが、結果的にクラス対抗戦の話題はすぐに立ち消えることになる。

 

 神の試練。

 石版に記された新たな記述。


 大陸の各首都を破壊すべく巨大なる魔の獣が進撃してくるとはこの時の俺は露ほども考えていなかった。


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