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第百十七話 収穫祭


 王都の街中を駆け巡る神の石版に記された新たな記述。


 長い歴史の中で石版に記されてきたのは、どれもがマジックアイテムの作成方法や言語の統一、それこそ御使いの降臨など、超常の魔導具の作成方法や神の力によってもたらされる事象の告知だった。


 明らかに異質な今回の内容。


 スライムという魔物がいる。


 土地土地の環境や魔力の過多により発生数や属性の変わる魔物。


 無生物系統にも属するこの魔物は魔石とは異なる核と呼ばれるものを中心に構成されている。

 魔物学の研究者の間では魔石を有しないこの生物を、果たして魔物と呼んでもいいのかと疑問視されているなんて話も聞くが、人に害をなす生物であることには変わりない。


 いまのところ世間一般でも冒険者の間でもスライムは魔物として周知されている。


 そして、今回神の石版には三日後にそのスライムの大量発生が大陸の国々の首都近くで発生すると記されていた。


「スライム収穫祭、か。誰が言い出したのか巷ではそんな風に言われているらしいな。冒険者ギルドでも早速噂になっていたぞ」


 イザベラさんが神妙な面持ちで神の試練の奇妙な呼ばれ方を教えてくれる。

 今朝出回ったはずの情報なのにもうそんな呼ばれ方をしているのか。


「いや〜、多分だけど御使いの人たちのせい、カナ」


「そうなのか?」


「うん、御使いはそういうお祭りみたいな騒ぎが嫌いじゃないから」


 御使いのことを少しだけ揶揄しながらもアイカは浮かれた様子だった。

 なんだろう……楽しみにしているような?

 

(アイカ自身もレベルが上がったからじゃないか? イザベラやカルラたちと散々狩りにいってるだろうし、戦い方も様になっていた。私たちも同行した狩りの後半では戦うことを楽しんでいるようにも見えたし、いまは自分の成長が楽しい時期だろう。なにより御使いは危険な魔物相手だろうと何度でも挑戦できるからな)


 確かにレベルの低い間もアイカの戦闘センスと呼ばれるものは高かった。

 天界では碌な戦闘訓練はしていなかったという割には初戦以外はハイコボルト相手にも引けを取っていなかったし、加速度的に強くなっていく姿を実際に見ているとまさに天賦の才といってもいい成長具合だった。


「それにしても王都近郊にスライムの大量発生とはな。確かにスライムは魔力の多い土地では発生率が高くなる。王都周辺は魔力濃度が高い土地が多いから、スライムも稀に魔物の集落並みに大量に発生することはある。だが……それでも滅多に起こる現象じゃない」


「だとしてもたかがスライムだろ? 多少討伐難度は高いとはいえ、それは倒しにくさに起因してる。オレたちなら問題ないだろ」


 イザベラさんが冷静に状況を分析しようとしているのに対してニールは強気だった。

 というより戦う気満々だった。


「だが確か石版には複数のスライムが出現すると記述されていたと聞いたが……」


 ラウルイリナが鋭い指摘を投げかける。

 そうだな、複数がなにを示しているのかが問題か。


「スライムは派生する種類の最も多い魔物と呼ばれている。恐らくは複数の種類のスライムが混合した状態で現れるということだろう」


「通常のスライムの他にレッドスライム、ブルースライム、イエロースライム。各属性のスライムから派生属性のスライムまで本当にスライムは種類が多いからな」


 そんなに派生が多いのか。

 アルレインの街の周辺が魔力が薄かったせいかスライムとはいまだ戦ったことはない。

 生態もいまいち知らないし、あとで調べておく必要があるな。


「問題は上位個体が出現するかだな。スライムの上位個体ラージスライム。そのさらに上位の個体マウンテンスライム。その他にも上位個体は複数存在するが……流石に王の魔物は出現しない、か?」


 そこは疑問符を浮かべるイザベラさんに同意したいところだ。

 王の魔物なんて出現したら被害がどれほどでるかわからない。

 

「石版には王の魔物が出るなんて記述はないんだろ? なら心配はいらないんじゃないか」


「そう……だな。後は冒険者ギルドの対応次第といったところか」






 話し合いから三日後。


 俺、エクレア、イクスムさん、ラウルイリナ、ニール、そして臨時のパーティーメンバーとしてアイカを加えた六人は、王都近郊神の石版に記されたスライムの発生地点とされる場所で待機していた。


「本当にこんなところにスライムが発生するのか? この間も来たけどコボルトばっかりでスライムなんか一体もいなかったぞ」


 ニールがぼやくようにここは“牙獣平原”の一角。

 高台となっていて平原全体を見渡せる場所だった。


 見渡す限りの草原地帯。


 先日も訪れたこの場所はいまは多少様変わりしていた。

 それは数多の冒険者たちが集まっているからに他ならない。


 ここには目的を同じくする冒険者たちが集まって簡易的な陣地を形成していた。


「まさか冒険者ギルドでも特別依頼という形でスライム討伐を推奨する方針をとるとはな」


 ラウルイリナの言葉通り冒険者ギルドは神の石版の新たな記述を確認後、即座に対応するための依頼をだした。


 それはスライムに破格の討伐報酬をつけた特別な依頼。


「通常のスライムは倒す旨味が少ないからな。核は魔石じゃないから天成器の錬成には使えないし、一部の魔導具に使うとはいえあまり高額じゃあ買い取って貰えない。それでいて倒しづらい相手だからな。冒険者ギルドもその辺を考慮して討伐報酬を釣り上げたんだろう」


(エディレーンも思い切ったな。普段の討伐報酬の二倍とは、どうりでこんなに冒険者が集まる訳だ)


 通常のスライムの報酬は銀貨五枚。

 これは討伐難度Dの魔物としてはかなり低い方だが、それが二倍なら一気に倒せれば一財産になる。


 神の石版には大量発生とあったようだし、チャンスは大いにある。

 それもあってここにはゆうに二百人は超える冒険者が集まっていた。


 そして、スライム大量発生に対する戦力は冒険者だけではない。


「騎士団まで動員されるとはねー。第二騎士団と第三騎士団だっけ? 王都の守りも必要だから全部の騎士団は来ないらしいけど、やっぱり騎士は鎧姿が様になっていてカッコいいね〜」


 アイカは嬉しそうに隣の騎士団の陣地を眺めている。


 それにしても第二騎士団と第三騎士団となるとイーリアスさんとクランベリーさんがきてくれているのか。

 二人共王国随一の実力者だろうし心強い。


 そのとき、陣地の中に設置された壇上に一人の女性が登っていく。

 気怠げに制服を着崩したその女性は、どよめく冒険者たちに向けてその口を開く。


「あー、皆よく集まってくれた。私はエディレーン。冒険者ギルド王国本部の副ギルドマスターだ」


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― 新着の感想 ―
[一言] なんかこの世界のことがわかるようになってきて面白いですね!
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