ただ一つの北極星
全話の最後、改稿しました。
「なかなか、見つからないなぁ……」
クーは泣いてる星を探していたが、特に気にしていない時は見かけるのに、探し始めるとその泣き顔が見当たらなかった。
困ったなあ、と夜空をさまよっていると、ポラリスにぶつかった。
「うわぁ、ポラリス、ごめんなさいっ!」
北極星はちらりとクーを見て、「んむ」と言ったきり。
きっと、邪魔をしてはいけないのだろうと思いつつも、クーはおそるおそる彼に声をかけた。
「ええと、いろいろあって、星の涙を探しているんだ。ポラリスは泣いている子を見なかった?」
「……」
ポラリスは無言だ。
ただ、ただ、北の空にしがみついている。
「……ねぇ、ポラリスはどうして、そんなに北の空にこだわるの?」
「……」
ポラリスは眉をひそめた。
不機嫌そうなその顔に、クーは慌てた。
言い訳のように、つっかえつっかえ言葉を続ける。
「いや、だって不思議じゃない? だって、昔の人だったら、北の空に目印があったら喜ぶかもしれないけど、今はいろいろな便利な道具があるから、別に星を見なくても方位は分かるでしょ? だから、地上の人のためってわけでもないだろうに、そこまで必死になる意味ってあるのかな、って」
ポラリスは無言だったが、眉間のシワが、グググッと、深くなった。
クーはしまった、と口を閉じ、こわごわと彼の様子をうかがった。
――怒られるっ!
そう思って身をすくめたが、意外にも穏やかな低い声が、ゆっくりと言葉をつむいだ。
「そうだな。他人から見れば、バカみたいな、小さなこだわりかもしれない」
クーがびっくりしてポラリスを見ると、どうやら彼は小さく微笑んでいるようで、クーは目をぱちぱちさせた。
「……ワシは、明るさで言えば一番にはなれない。色も青白くて、赤い星のような存在感はない。自分の中に、これだけは誰にも負けない、一番だ、と誇れるものがない。」
クーはまるで自分のことを言われているようで、ギクリとした。
「だから、みんな とは違うことをしようと思った。誰かのために、できることをしよう、とそう思ったんだ」
ポラリスは地上をじっと見つめていて、クーもなんとなく下を見た。
「そんな時だ。下界に目を向ければ、海の上で右往左往して、困っている人間たちがいた。彼らの目印に、道標になれば喜ばれるのではないか、と思ったのだ。」
下の世界は今は太陽がいないため真っ暗だが、最近は一部がキラキラと輝いて星空のようだ。だから、たくさんの星たちの光が地上に届かなくなってしまったらしい。
もう、彼らは僕ら星々の輝きなんていらないのかもしれない、とクーはふと思った。
落ち込むクーに気づかないポラリスは、そのまま話を続けている。
「私は夜空を動き続ける星たちの中で、たった一つ、動かない星となった。
そうして、しばらくすると、彼らは私に名前をくれた。夜空を見上げ、指差すようになった。
本当は、私が北にいようがいまいが、もう、彼らは道に迷わないのかもしれない。けれど、これまでの積み重ねなんだろう。
彼らは、今も、夜空を見上げて、私を探してくれる。見つけて、笑顔になってくれる。
だから、私はこれからも、北の不動の星であり続けるのだ。」
役に立つかどうか、そういった問題じゃないのだ、と語る彼は太陽さんのような明るさも朗らかさもない。
でも、その真面目で頑固な彼は、太陽さんを思い出すほど眩しく感じられた。
クーはじんわりと感じる熱に驚いて、空だったはずのビンを見た。
気づけばビンの中には星の熱が満ちていた。
クーは手の中の小瓶をぎゅっと握りしめ、うつむいた。
「ハイスだって、できそこないなんてバカにされなけば、諦めないで何かを探していたかも……」
クーの小さな小さなつぶやきは、夜空に溶けて消えていった。