ポラリスと太陽
クーは北の空へ、北極星に会いに行った。
「ねえ、ポラリス。地上の子供が泣いているんだ。どうにかして、彼を笑顔にしてくれないかな?」
「ワシには、北を示すという、自分で決めた使命がある。それを果たすため、常にここにいるために、いつも全力を尽くしている。なぜなら、ワシが北から動いてしまえば、地上の人たちが困るからだ。ほんの一瞬だって、油断はできない。今、話しているこの瞬間も、北から動かないために集中している。申し訳ないが、誰かのためになにかをしたいなら、太陽を頼りたまえ」
ポラリスはそう言うと、もう、クーのことを意識からしめだしたようだった。
クーは
「お邪魔してすみませんでした」
と声をかけたが、ポラリスはクーを見もせずに、一つうなずくだけだった。
そのあと、クーは太陽がやってくる朝まで、ソワソワしながら待った。
「おっはよーっ!」
太陽は元気いっぱい、笑顔でやってきた。
その、あまりの輝きにクーは目をパチパチさせた。
今日は厚い雲が出ていて、地上は見えない。にもかかわらず、太陽はいつもどおり、もしかしたら、いつも以上に元気いっぱいだ。
「おはよう、太陽さん」
「やぁ、おはよう、クー。今日もいい日だねっ!」
眩しい笑顔に、クーは目が潰れるのではないか、とドキドキした。
厚い雲があっても、地上では人々の足元は晴れた満月の夜より、よく見えるらしい。
そんなバカな、と話を聞いたときは思ったが、太陽なら、そういうこともありそうだ、とクーは納得した。
「えっと、太陽さん。地上にいつも泣いている男の子がいるんだ。彼を助けてくれないかな?」
太陽は目を丸くし、そして、微笑んだ。
「お願いされなくても、だよ。わたしは いつだって、みんなに光をおくっている。みんながそれに気がついても、気がつかなくても。いつか、わたしの光に気づいてくれる日まで、ずっと、ずっと、光をおくり続けるよ」
太陽はニコニコしているが、それはクーの求めていた答えではなかった。
「そうじゃないんだ、太陽さん。いま、彼の涙を止めてほしんだよ」
「大切なのは早いか遅いかという、時間じゃないんだ。いつ、というのは人それぞれでいいんだよ。わたし達にできるのは、その『いつか』にたどり着けるよう、応援することだけなんだ」
「でもっ……!」
「他人の心は、自分の都合のいいように変えることはできないよ。すぐ解決することもあるけど、長くかかることもある。十年、二十年、もしかしたら、もっとかかることもある。焦らず、見捨てず、だよ」
なにをのんきな、とクーは腹がたった。
「もう、いいよっ!」
カッカしたまま、その場を去ろうとするクーの背中に声がかかった。
「彼には君がいる。だから、大丈夫だよっ!」
クーはふり返らなかった。