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Straight to the Heart  作者: 森幸
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マンション入居

「この人誰なの」と何とか男から手を離した夏美は、まるでその男が日本語を理解できて、聞かれたら困るかのように小さな声で話しかけた。

「このマンションの守衛らしい」と正樹が言った。

「マンションに守衛がいるの?まるで政治家の自宅みたい」とびっくりして夏美は改めてマンションを見上げた。

「アメリカではある程度いいマンションなら普通みたいだよ。さあ中に入ろう」と正樹が言って建物に入っていく。さっきの黒人がドアを抑えてくれていた。夏美も正樹の後に続いた。建物の中はまるで高級ホテルのフロントみたいだった。床のタイルには大理石が使われ、これ以上磨けないというくらいピカピカになっていた。入って左手は壁の端から端までホテルのフロントのようになっていて、その向こう側では2人の女性が話をしながら佇んでいた。女性たちの後ろには部屋の番号が書かれたポストのようなものが鳥の巣のようにたくさん並んでいる。右の奥には入口がありどこかにつながっているようだ。フロアの反対側にはエレベーターが5つも並んでいる。正樹は女性たちのほうに近づいていったので夏美も慌ててその後ろに続く。

「今日からこのマンションに住む者ですが」と正樹が英語で話しかける。

「お待ちしていました。この書類に記入をお願いします」と40歳くらいの背の高いほうの女性が細かい英語がたくさん書かれた紙を正樹のほうに差し出す。

「本当にホテルみたい」と夏美が言う。その書類に氏名や勤め先、日本の住所などの個人情報のほかに、マンションの中で夜は大きな音を出さないこと、鍵の紛失はすぐに申し出ること、盗難があったときもマンション側は一切責任を負わないことなどのたくさんの約束事が書かれていた。正樹はその項目に全部目を通してから必要なところは全部記入して紙を返した。それを背の高いほうの女性が受け取った後、背が低く髪をショートにした30歳くらいの女性が後ろの壁に埋め込まれた金庫から部屋の鍵を取り出し、私にできる最高の笑みはこれですと主張するかのように微笑みながら正樹に鍵を渡した。

「日本から届いた荷物は部屋に入れてあります」と背の高いほうの女性が言う。

正樹はありがとうと言って鍵を受け取り、二人はエレベーターに向かった。利用できる階がエレベーターによって分かれていた。夏美たちの部屋は11階だったので、11階から20階用のエレベーターのボタンを押すとすぐにドアが開いた。エレベーターはドアが閉まると滑らかに上昇し始める。音もほとんどしない。意識していないと動いていることさえ気づかないかもしれない。エレベーターが止まりドアが開くとガラスのテーブルの上に色とりどりの花が飾られた豪華な花瓶が置いてあった。夏美たちの部屋は廊下を右に曲がって一番奥の右側にあった。廊下の両側には部屋と部屋の間に等間隔で油絵がかけられていた。ドアの前に表札が出ていないし、中が覗ける小窓のようなものもないので、それぞれの部屋に誰が住んでいるのか、そもそも住んでいるのかいないのかも分からない。タッチ式のキーで部屋のカギをあけて中に入ると左手に10畳くらいの部屋、右手にトイレとバスタブがあった。奥に進むとダイニングキッチン、一番奥にさらに8畳くらいの部屋があった。ダイニングキッチンには、以前住んでいた役所の先輩が残していってくれた大きなダイニングテーブルと4脚の椅子があり、食器棚を開けてみるとフライパンや包丁や鍋などの調理器具やコーヒーカップなどの食器類がたくさん残されていた。

「何にも買い足す必要ない。嬉しい」と夏美が喜びながら言った。


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