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反少年主義 第二幕  作者: 椎家 友妻
 其の一 いざ、神戸へ
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7 少女と怪しい男

と、いう訳でオレは、目的地の『芋宇都伽羅駅』にたどり着いた。

ちなみにこの一帯の地区も、『芋宇都伽羅区』というらしい。

という事は、五十を過ぎたおっちゃんでも、この街に住んでたら

(いも)宇都(うと)伽羅(きゃら)のおっちゃん』

という事になるんやな。

どうでもええけど。

 それはともかく、駅の改札を出たオレは、キョロキョロとここの街並みを見渡した。

 駅前には小粋でオシャレな店が立ち並び、

その向こう側には、いかにも高級そうな住宅街が広がっている。

流石(さすが)は神戸。

ゴチャゴチャしてせせこましい大阪とは違って、上品でオシャレな所や。

こういう所に住んでいる女性は、きっと心も上品なんやろう。

 そんな事を考えながら、オレは駅前にある時計台に目をやった。

そこにある時計は午前十一時を過ぎた所を指していた。

正午くらいにカスミが迎えに来てくれる事になってるんやけど、ちょっと早く着きすぎたな。

まだ約束の時間まで五十分以上あるけど、何して時間潰(つぶし)そう?

 と、思ったその時やった。


 ドォン!


 いきなりオレの背中に、勢いよく何かがぶつかってきた。

 「うわぁっ⁉」

 突然の事で受け身もとれず、オレはそのまま前にすっ転び、思い切り地面に鼻を打ちつけた。

ものっ凄い痛い。

そしてその直後、

 「キャッ⁉」

 という声とともに、オレの背中に何かが(おお)いかぶさってきた。

重い。

しかしその重みはすぐになくなり、背後から、

「ゴメン、大丈夫?」

 という女性の声が聞こえた。

オレは打ちつけた鼻をさすりながら、上半身を起こした。

するとそこに、黒髪のロングヘアーの少女が居た。

英語が書かれた水色のTシャツと、紺のジーパンを身につけている。

背はオレより若干高く、見た感じ、中学生くらいに見えた。

その少女にオレはやせ我慢しながら答えた。

 「いや、大丈夫です。全然痛くないです」

 大人の男は、女性の前で弱い所を見せてはいけないというのが、反少年主義的ポリシー。

ホンマはメッチャ痛いんやけどな。

 すると彼女はそんなオレに、申し訳なさそうに言った。

 「ホンマにゴメンな?実は今、悪い奴に追われとって」

 「え?悪い奴?」

 少女の思わぬ言葉に眉をひそめるオレ。その時やった。

 「うぉおおい!待てぇええっ!」

 と、少女の背後から男の叫び声が聞こえた。

 「チッ、もう追いついてきたんか」

 少女は舌打ちをしてそう言い、声がした方に向き直った。

するとその方向から、半袖のカッターシャツを着てネクタイをし、

黒のズボンを穿()いた中年の男(三十前後くらいか?)が走ってきて、

少女の前に来たところで立ち止まった。

 「や、やっと追い付いたぞ」

 そう言って息を切らす男。

ただでさえこのクソ熱い炎天下、その中を走ってきたのであろうこの男は、

上半身が汗だくになっていた。

すると少女はオレの右腕を掴んで立ち上がらせ、その背後に隠れて男に言った。

 「しつこい人やなあんた!いい加減に諦めて帰ったらどうやねん!」

 それに対して男も(ひる)まず言い返す。

 「そうはいかないよ、これは仕事だからね。力ずくでも君を連れ戻すよ」

 諦めろとか連れ戻すとか、一体何の話なんや?

察するに、オレの背後に居る姉ちゃんが、目の前の男から逃げている。

あの男は何やら悪い奴らしいけど、じゃあこの姉ちゃんは、

何でその悪い奴に追われているんやろう?

 そう考えていると、背後の姉ちゃんがオレにこう言った。

 「ちょっと君、あたしを助けてくれへん?」

 「ええ?オレが?」

 そりゃあできるモンなら助けてあげたいけど、オレみたいなガキんちょが、

大人の男を相手に何とかできるんやろうか?

それに相手は凶器を持ってるかもしらんし。

 すると姉ちゃんは、

 「頼むで!」

 と叫び、やにわにオレの背中を突き飛ばした!

 「おわわ⁉」

 突き飛ばされたオレはそのまま前につんのめり、前に居た男に激突した!

 「うわっ⁉」

 そしてオレと男はもつれるように地面に倒れこんだ!

するとその直後、オレを突き飛ばした姉ちゃんは、

 「ありがとう!この借りはいずれ必ず返すから!」

 と言い残し、そそくさと走って行ってしもうた。

 何やったんや、あの姉ちゃんは?

と思いながら起き上ろうとするオレ。

するとそのオレの頭をグイッと地面に押し付け、

 「くぉらぁっ!待てっつってんだろ!」

 と男が叫んで立ち上がった。

一方頭を地面に押し付けられてカチンときたオレは、

そのまま走りだそうとした男の足にガシッとしがみついた!

すると男は再び地面にすっ転んだ。

 「イテェッ!何すんだこのガキ!」

 上半身を起こして男はオレに怒鳴った。

それに対してオレは、足を掴んだまま男に言い返す。

 「やかましいわ!何か知らんけどお前は悪い奴なんやろ!

あの姉ちゃんを捕まえて、一体どうするつもりやねん⁉」

 「お前には関係ねぇだろ!その手を離せ馬鹿野郎!」

 男はそう叫ぶと同時にオレの腕を振り払い、右足でオレの顔面に蹴りを入れた!

 「ぶふぅっ⁉」

 その衝撃で後ろにすっ転ぶオレ!

何でオレがこんな痛い目にあわんとあかんのやろう?

そう思って泣きそうになっていると、男はさっさと立ち上がり、

姉ちゃんが走り去って行った方に、一目散に駆けて言った。

 「何やねん、一体・・・・・・」

 そう独りごちながら上半身を起こすオレ。

やっぱり神戸なんかに来るんやなかった。

シミジミとそう思った、その時やった。



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