5 シンジ君は同性にモテるタイプ
そして庵地駅にたどり着いた。
オレが住む庵地市という街自体が田舎なせいか、この駅の周辺は、大した店がない。
この辺にある店といえば、定食屋のウチヤ食堂くらい。
ちなみにそこは、クラスメイトの女子が住んでるんやけど、そんな事は今はどうでもいい。
それよりも切符を買わんと。
オレは駅の切符売場の前に立ち、目的の駅までの電車賃をチェックしようとした。
するとその時、
「あら、ヨシオ君じゃない」
と、背後から声をかけられた。
その声に振り向くとそこに、オレより若干背の高い、
一見すると男子にも見える、ショートヘアーの女子が立っていた。
名前は、えーと、あ、シテンノウジサユキや。
この子もオレのクラスメイトで、オレはこの子の事をシンジ君と呼んでいる。
何故オレがこの子の事をシンジ君と呼ぶのか知りたい人は、
第一巻の六十九ページの下段の十九行目を見てほしい。
ちなみにこの子はスポーツ万能で勉強もできて、
見た目が男っぽい事もあり、男子よりも女子によくモテる。
それに対して性格は掴みどころがなく、普段何を考えているのか全く読めない。
だからオレはシンジ君の事が、ハナミとは違った意味で苦手なのやった。
それにしても今日はよく知り合いに会うなぁ。
しかもあんまり会いたくない相手ばっかり。
と思いながら、オレはシンジ君に声をかけた。
「や、やあ、こんなところで奇遇やなぁ」
するとシンジ君は妖しい笑みを浮かべながら言った。
「どうしたの?あまり見られたくないところを見られたって顔だけど」
「うっ・・・・・・」
図星を突かれて言葉に詰まるオレ。
この子もありえないくらいにオレの心を見抜く術に長けているので、
オレはこの子と喋る時はいつも緊張する。
そして今日も緊張しながら会話を続けた。
「そ、そんな事ないで?オレがシンジ君と顔を合わせて都合悪い事なんかないんやから」
「そう?別にいいけど。それよりリュックなんかしょって、何処か遠出でもするの?」
「ああ、まあ、ちょいと神戸の方に」
「神戸?もしかして、この前来ていた文通相手の子の所?」
「ああ、うん、そうね」
オレがそう答えると、シンジ君は
「ふ~ん」
と言って暫く間をおいた。
そして何処か冷たい口調で再び口を開いた。
「あの女の子、結構可愛かったわよね」
「え?まあ、そうかな?」
「ヨシオ君って、ああいう子が好みなんだ?」
「へ?いや、そんな事ないで?そもそもあの子はまだ九歳やし」
「ふ~ん」
そう言って目を細めるシンジ君。
な、何なんやろうか?
何か知らんけど、シンジ君から穏やかでないオーラが放たれている気がする。
もしかして怒ってる?
何故に?
とか思っていると、シンジ君は冷たい口調のままこう続けた。
「で、その子の家には日帰りで行くの?」
「あ、いや、お泊まりで行くんですけど・・・・・・」
「ふ~ん」
「あの、あかんかな?」
「何で私にそんな事聞くの?」
「だってシンジ君、何か怒ってるやんか」
「怒ってなんかないわよ。ただ少し、腹立たしいだけ」
「それを怒ってると言うんとちゃうの⁉」
「私はもう行くわ。せいぜい文通相手の子と仲良くね」
刺すような口調でそう言うと、シンジ君はスタスタと去って行った。
一体何なのやろうか?
ハナミといいシンジ君といい、何であんなに怒ったんや?
オレはただ、神戸に住むカスミの家に行くだけやのに。
ただそれだけで、あそこまで怒る理由があるんか?
分からん。女っちゅうのはホンマに分からん。
そうシミジミ思いながら、オレは気を取り直して神戸への切符を買った。