4 ハナミは急にプンスコ怒るタイプ
駅へ向かって歩いていると、前の方から一人の女子が歩いてくるのが見えた。
オレと同じくらいの背丈で、髪を左右に分けてくくっている。
こういう髪型をツイン何とか(ツインタワービル?)って言うらしいけど忘れた。
まあええわ。
それはさておき、オレはあの女子を知っていた。
クラスメイトのモリサキハナミや。
クラスの学級委員で成績はそこそこ良く、真面目でしっかり者。
男子には結構モテるらしいが、あいつの本性は凶暴で攻撃的なので、
オレはあいつを強く警戒している。
それが証拠にあいつはオレに事あるごとにつっかかってきて、訳の分からない事で怒り出すんや。
理不尽な暴力でどれだけ痛い目にあわされた事か。
だからオレはハッキリ言うて、ハナミとはあまり関わりたくないのやった。
なのでオレは、背負っていたリュックを下してそれで顔を隠し、
ハナミに気づかれないようにその場をやり過ごそうとした。
すると、
「ちょっと待ちぃやヨシオ」
すれ違うところであっさりバレて呼び止められてしもうた。
オレは仕方なくリュックで顔を隠すのをやめ、至って自然な口調でこう言った。
「お、おう、ハナミやないか。顔が見えへんから気づかへんかったわ」
するとハナミは露骨に眉をひそめてこう返す。
「それはあんたがリュックで顔を隠してたからやないの。あんたはウチを無視しようとしたんか?」
「そ、そんな事はありまへんえ?」
「何で舞妓さんみたいな口調やねん。それより、リュックなんか持って何処行くんよ?ピクニック?」
「い、いや、これは──────」
この女は、何故かオレの嘘を見抜くカンが抜群に鋭い。
ここで下手に誤魔化そうとすれば、ハナミはまた理不尽に怒り出すやろう。
なのでオレは正直にこう答えた。
「えーと、神戸に住んでる文通相手の家に行くねん」
「え?ヨシオの文通相手って、この前庵地駅に来たあの子?」
「そうや」
「ふ、ふ~ん、そうなんや・・・・・・」
オレが頷くと、ハナミはそう言って笑みを浮かべた。
しかしその頬はピクピクとひきつっている。
一体何なんや?と思っていると、ハナミは微妙に震える声で続けた。
「で、向こうに行って何するの?」
それに対してオレは、
「向こうであいつとテキトウに遊んで、泊って帰ってくる」
と答えた。するとハナミは、
「ええええっ⁉」
と、とてつもなくデカイ声で叫んだ。
「な、何やねん⁉そんなに驚く事か⁉」
オレがそう言うと、ハナミはやにわに(・・・・)オレの胸ぐらを掴み、物凄い剣幕でこう言った。
「お、驚くも何も!あんた!
いくら文通相手やからって!あんた!
直接会うたのはこの前が初めてやのに!あんた!
泊りに行くって!あんた!」
「あんたあんたうるさいな!あいつが泊りに来て欲しいって言うから泊りに行くんや!」
「ええっ⁉あの子から誘ってきたん⁉何てふしだら(・・・・)な!」
「どこでそんな言葉覚えた⁉っていうか別にふしだらではないやろ!相手は九歳やぞ!」
「うるさーい!」
「お前の声がな!」
「そんなに泊りに行きたきゃ行けばええやないの!ヨシオのアホ!あんたなんかもう知らん!フン!」
ハナミはそこまで言うと、踵を返して去って行った。
何か知らんけど、また怒らせてしもうた。
オレ、何かあいつを怒らせるような事を言うたか?
あいつの心の中はホンマに分かれへん。
クラスでは優等生扱いされてるから、それがストレスになってるんか?
まあ、どうでもええけど。
気を取り直し、オレは庵地駅へと向かった。