6 巻き添えのビンタ
「痛ぁっ⁉」
「い、いきなり何するんですか⁉」
そういってテイコさんに抗議の声を上げるカミヤ夫妻。
しかし今のテイコさんの行動に対して最も納得いかなかったのはオレなので、
オレが最もデカイ声でテイコさんに抗議した。
「何で俺まで⁉」
それに対するテイコさんの返答はこうやった。
「叩いてみたかったから」
最近よくある犯罪の動機か!
(例『殺したかったから殺した』
『セクハラしたかったからセクハラした』
『送りバントのサインが出たからバントした』等々)
オレはもう本格的に、この物語の主人公のポジションが嫌になってきた。
そんな中テイコさんは、カミヤ夫妻に向かって怒鳴った。
「こんな時まで何をしてんねんあんたら!
そうやって事あるごとに相手のせいにしてからに!
そもそも娘さんがあんたらの元から去って行ったのは何でやねん!
あんたらがそうやって喧嘩ばっかりしてるからやろ!
喧嘩するのにどっちが正しいとかはないんや!
そりゃあ旦那さんが仕事を失って大変なんやろうけど、
そういう時こそ力を合わせるのが夫婦ってモンやろ!違うか⁉」
テイコさんのその問いかけに、カミヤ夫妻は何も言えずにうつむいた。
テイコさんの言葉が、二人の心に少しでも響いたやろうか?
でもこのまま黙って見ている余裕もないので、オレはカミヤ夫妻に言った。
「あの、とりあえずオレとテイコさんは、レイコさんを助けに行きます。
お二人はここで待っていてください」
するとユウゾウさんが顔をあげて言った。
「ここで待ってるなんかでけへん!俺もレイコを助けに行く!」
それに続いてアキエさんも顔をあげて言った。
「私も行きます!私だってレイコが心配なの!」
「う~ん、そやけど、今ある乗り物はテイコさんのスクーターしかないからなぁ・・・・」
そう言って頭をかくオレ。するとテイコさんがこう言った。
「じゃあ私のバイクに四人で──────」
「絶対無理ッス」
オレは即座に否定した。
テイコさん一人でも重量オーバーなくらいやのに。
すると、その時やった。
「あのぉ、ごめんくださ~い・・・・・・」
玄関の方から声がした。
「この非常時に一体誰なの⁉」
アキエさんは至極不機嫌そうにそう言い、部屋を出て玄関の方へ歩いて行った。
そしてそれ以外のオレ達三人も、アキエさんの後に続く。
すると玄関のところに、オレの知っている男が立っていた。
一体誰かと思ったら、カミヤ夫妻が雇った探偵の男やった。
そして男は至って低い腰つきと、かしこまった口調でアキエさんに言った。
「あのぉ~、大変申し上げにくいんですが、
この前の依頼料は、いつ振り込んでいただけるんでしょうか?」
「何言ってるのよ⁉今はそれどころじゃないのよ!さっさと帰って!」
そう言って声を荒げるアキエさん。すると男は、
「し、失礼しましたーっ!」
と言い、踵を返して家を出て行こうとした。が、
「ちょ、ちょっと待って探偵のおっちゃん!」
と言い、オレが慌てて呼び止めた。
「あ?またお前か。ていうか俺はまだおっちゃんじゃねぇよ。一応二十代だよ」
男はそう言って不愉快そうな顔をしたが、オレは構わずこう言った。
「兄ちゃんは今日、何で来たんや?」
「ああ?だから依頼料をもらいに来たんだよ。でも今日はもらえそうにないから帰るんだよ!」
「そうやなくて、今日は何を使ってここに来たのか聞いてるんや」
「車だよ車!お前もこの前乗ったあの車!」
するとそれを聞いたカミヤ夫妻が、ズズイッと男に詰め寄った。
「な、何ですか?やっぱりここで依頼料を払ってくださるんですか?」
男はたじろぎながらそう言った。
それに対してユウゾウさんは、男の両肩をガシッと掴んでこう言った。
「お前の車に乗せてくれ!」
「へ?」
突然の申し出に目を丸くする男。
するとアキエさんがヒステリックな声でこう続けた。
「ツベコベ言わずに乗せなさいよ!」
「わ、分かりましたっ!」
アキエさんの剣幕に押され、男は首を縦に振った。
かくしてオレ達四人は、男の車とテイコさんのスクーターで、レイコの元へと向かう事になった。
果たしてオレ達は、無事にレイコを救い出す事ができるのか?
そしてカミヤ夫妻の行く末は?
其の六に続く!