2 犯人からの電話はなかなかかかってこない
「えっ?ど、どうしたんですかヨシオ君?」
突然のオレの叫びに目を丸くするカスミ。
そして玄関に居たナミコさん達も、オレの方に振り向いた。
オレはそんな中、一目散にナミコさん達の元へ駆け寄る。
するとそんなオレにテイコさんが言った。
「そないに大声出さんでも、すぐに朝ごはんの用意をするがな」
「ちゃうねん!そうやなくて!夕べ一体何があったのかを思い出したんですよ!」
「え?ヨシオ君、夕べここで何があったか知ってるの?」
「知ってます!」
驚きの声をあげるナミコさんにオレはキッパリと答え、こう続けた。
「夕べこの屋敷に二人組の男が侵入してきて、レイコをさらっていったんです!」
「何ですって⁉」
「ホンマかいな⁉」
オレの言葉に驚きの声を上げるナミコさんとテイコさん。
すると警察のおっちゃんは腕組みをしながらこう言った。
「ふむ、という事は、犯人がこの屋敷に侵入した目的は、
そのレイコという人物をさらうためだっという事ですな」
「で、でもどうして?あの子がここに来たのは昨日が初めてなのに・・・・・・」
そう言ってうつむくナミコさん。
するとオレの背後から、
「あの・・・・・・」
と言いながらカスミが歩み寄ってきて、おずおずとした口調でこう言った。
「もしかしてレイちゃんは、私と(・)間違えられて(・・・・・・)さらわれた(・・・・・)んじゃないでしょうか?」
その言葉でオレは全て合点がいった。
「そうか!犯人はカスミを誘拐するためにここに侵入した。
でも視界が悪い上にあいつらも慌ててたやろうから、
レイコがここの娘やと勘違いして連れて行ったんや!」
「そんな、私のせいでレイちゃんが・・・・・・」
「カスミのせいじゃないわよ。悪いのはレイちゃんを誘拐した犯人なんだから」
瞳を潤ませるカスミの頭をなでながら、ナミコさんは優しい口調で言った。
「しかし犯人の目的が誘拐なら、いずれ向こうから電話をかけてくるでしょうな」
と警察のおっちゃん。すると、その時やった。
チリリンチリリン。チリリンチリリン。
奥の部屋から電話のベルが聞こえてきた。
「噂をすれば何とやらやな」
テイコさんがそう言うと同時に、オレ達は電話が鳴っている部屋へ急いだ。
そしてその部屋にたどり着くと、ナミコさんが電話の受話器を取り、神妙な表情で口を開いた。
「も、もしもし、ヤマトウでございます」
その声に、オレ達も息をのんで耳を傾ける。
そんな中ナミコさんと電話相手のやりとりが始まった。
「──────はい、はい、そうです。え?な、何ですって⁉
そ、そんな・・・・・・ええ、ええ。じゃあ、私はどうすればいいんですか?
・・・・・・そ、そうですか。分かりました。
こちらもできるだけの対応をさせていただきます。はい、はい、それではまた」
ナミコさんはそこまで言うと、受話器を置いて深いため息をついた。
そんなナミコさんに、オレはおずおずとたずねた。
「あの、電話の相手は犯人やったんですか?何て言ってました?」
それに対してナミコさんは、ひどく物悲しげな顔でこう言った。
「ただの、間違い電話だったわ・・・・・・」
すってーん!
その言葉に、ナミコさん以外の全員が吉本新喜劇ばりにズッコケた。
そしてオレはすかさずツッコミを入れる。
「間違い電話やったらさっさと切ったらいいやないですか!
あんなやりとりされたら犯人からの電話やと思うでしょ!」
「ごめんなさい、私、気が動転してて・・・・・・」
そう言ってナミコさんが頭を下げた時、
チリリンチリリン。チリリンチリリン。
と再び電話のベルが鳴った。
すると今度は警察のおっちゃんがズイッと前に出て、
「私が取ります!」
と言って受話器を取り、話を始めた。
「もしもし・・・・・・もしもし?・・・・・・な、何だと⁉
そんなバカな・・・・・・そ、そんな事が許されると思っているのか⁉
何とか言ったらどうだ⁉おい⁉・・・・・くそっ!」
警察のおっちゃんはそう言うと、乱暴に受話器を叩きつけた。
そのおっちゃんにオレは尋ねた。
「今度こそ犯人からでしたか⁉」
それに対して警察のおっちゃんは、怒りに満ちた口調でこう言った。
「ただの無言電話だった!」
すってんころりーん!
その言葉に、おっちゃん以外の全員が再び吉本新喜劇ばりにズッコケた。
そしてオレはすかさすおっちゃんにツッコミを入れる。
「だから紛らわしいねん!無言電話ならさっさと切ったらいいでしょうが!」
「いやあ、無言電話って腹が立つじゃないか」
そう言ってカンラカンラと笑う警察のおっちゃん。
この人は事件を解決する気があるのやろうか?するとその時、
チリリンチリリン。チリリンチリリン。
三度目の電話のベルが鳴った!
「今度こそ犯人からやろ!」
オレがそう叫ぶと、今度はテイコさんがズイッと前に出て、受話器は取らずにこう言った。
「残念、これは私が持ってる風鈴の音でした」
そう言ってテイコさんは右手に持った風鈴をチリリンと鳴らした。
それを見たオレ達は吉本新喜劇ばりにってもうええねん!
オレはテイコさんに怒りの声をあげた!
「風鈴は今関係ないでしょ!何やってんスかホンマに⁉」
それに対してテイコさん。
「いやあ、この流れやと、私も何か面白い事をせんとあかんのかなと思うて」
「そんな流れはええねん!今はレイコが誘拐されて大変なんですよ⁉
それやのに何なのこの緊張感のなさ!皆ホンマに事の重大さが分かってるんスか⁉」
すると今度はカスミが、オレのシャツの裾を引きながらこう言った。
「あ、あの、私も何か面白い事をした方がいいですか?」
「そんなんせんでええ!せめてお前だけはまともであってくれ!」
するとその時、
チリリンチリリン。チリリンチリリン。
今度こそ電話のベルが鳴った!