10 カスミの説得
「お、落ち着いてください二人とも!喧嘩はだめですよ!」
しかしレイコはカスミの言葉を聞き入れる事なくこう言った。
「止めんといてカスミン!これはカスミンを賭けたあたしとヨッシーの真剣勝負なんや!」
「おいおい待て待て!何か話がおかしな事になっとるぞ!お前の家出の話やったんとちゃうんかい!」
「あ、そうやった。カスミンがあまりにも可愛いからつい♡」
オレの言葉にそう言ってペロッと舌を出すレイコ。
こいつは自分の置かれている状況が分かってるんやろうか?
するとそんなレイコに、カスミが真剣な口調で言った。
「レイちゃん、確かにレイちゃんが家に帰りたくない気持ちは分かります。
でもやっぱり、レイちゃんは一度家に帰った方がいいと思います」
「なっ⁉カスミンまでそんな事言うの⁉」
「はい。ヨシオ君が言うように、レイちゃんの気持ちをちゃんとご両親にお話しした方がいいと思うんです」
「そう、かなぁ・・・・・・」
カスミの言葉に、レイコはそう呟いてうつむいた。
こいつ、オレがそう言うた時は思いっきり反発したのに、カスミが言うたら何でそんなに悩むねん。
と納得いかない中、カスミはレイコにこう続けた。
「私も、お父さんは海外の仕事で年に数回しか帰ってこないし、
お母さんも仕事でほとんど家に居ないので、家族が離れ離れになる辛さはよく分かります。
それがレイちゃんの場合は、ご両親同士が家族ではなくなるかもしれないんですから、もっと辛いですよね?」
「うん、辛い・・・・・・」
「辛いっていう事は、レイちゃんがご両親の事を、まだ大切に思っているって事ですよね?」
「・・・・・・うん・・・・・・」
「だったらその気持ちを、ちゃんとご両親にお伝えしてはどうしょう?
そうすれば、ご両親もきっと考え直してくれます」
「そう、かなぁ?」
「そうですよ。私とヨシオ君も、そうなるようにレイちゃんを応援しますし」
「うぅ・・・・・・」
カスミにそう言われたレイコは、目に大粒の涙を浮かべた。そして、
「うわぁああん!」
と泣きながら、カスミに抱きついた。
「ありがとうカスミン!あたし、頑張ってみる!」
そしてカスミの胸元に顔をうずめるレイコ。
そんなレイコの頭を、カスミは「よしよし」と言いながら優しくなでた。
その様子はまるで、お姉さんが年下の女の子を慰めているみたいやけど、まるっきり立場が逆やな。
とか思っていると、背後から、
「ああっ!やっと見つけたぞぉっ!」
という、聞いた事のある男の声が聞こえた。
そしてその声がした方に振り向くと、その方向から、
レイコを追い回しているあの探偵の男が走って来た。
レイコの奴、また携帯の電源を入れたんやな?
そして男は近くまでたどりつくと、まずはオレの胸ぐらを掴んで叫んだ。
「やいテメェ!さっきはよくも俺に嘘を教えやがったな!おかげで無駄足踏んじまっただろうが!」
それに対してオレは、誠心誠意を込めて謝った。
「メンゴ」
しかしそんなオレの誠意が伝わらなかったのか、男は更に怒った。
「何だその言い方⁉謝る気あんのかコノヤロウ!」
だが男はすぐにオレの胸元から手を離し、その手でレイコの右腕をガシッと掴んで言った。
「やっと捕まえたぞ!散々手間をかけさせやがって!
こうなりゃ首に縄をかけてでも君を家に連れて帰るからな!」
するとレイコはカスミの胸元から顔をあげ、静かな口調で男に言った。
「そんなにギャーギャー騒がんでも、大人しく家に帰るがな」
「え?そ、そうなの?」
レイコの言葉がよほど意外やったのか男はそう言って目を丸くしたが、
すぐに気を取り直してこう続けた。
「そうかそうか、それならいいんだよ。
いや~、君を無事に家に連れ戻せなかったら、オレは依頼料をもらえなかったところだ。
いや~良かった良かった」
そう言って笑う探偵。
何か、オレの中の探偵のイメージと随分違うなぁ。
探偵っちゅうのは鋭い推理と華麗なアクションで、
事件を次々と解決していくっちゅうイメージがあるんやけど、現実はやっぱり違うんかなぁ。
「ん?何だ?俺の顔に何かついてるか?」
そんな事を思いながら男の顔を眺めていると、その視線に気づいた男がオレに言った。
それに対してオレは、シミジミとした口調でこう返す。
「いやあ、現実の探偵さんって、推理小説とかに出てくるのとは全然違うんやなあと思って」
「当たり前だろ!あんなモンはフィクションなんだよ!
実際に殺人事件にでくわしたら、俺だって警察に通報するよ!」
と男。何か真実を知るって、必ずしもええ事ではないんやなと思った。
さてそんな中、カスミから身を離したレイコが男に向かって言った。
「じゃああたしを家まで送って。近くに車止めてるんやろ?」
「お、おう、駅の近くのコンビニに止めてる」
男がそう言うと、レイコはカスミの方に向き直ってこう続けた。
「そういう訳やから、もう行くね。また今度、遊びに来てもいい?」
「はい、勿論です」
カスミが快くそう答えると、レイコは嬉しそうに笑い、駅の方に向かって歩き出した。
そして歩きながら振り返り、こう言った。
「ほら、早く行くで二人とも(・・)」