6 彼女の名はレイコ
「どぇええっ⁉」
姉ちゃんの自己紹介に、オレは驚きの声をあげた。
歳に驚いたんやない。
姉ちゃんのその名前に驚いたんや。
レイコという名前は、オレの中では清楚で上品で美しい大人の女性しか名乗ってはいけない事になっている。
それやのに、やかましくてずうずうしくて大飯ぐらいのこの姉ちゃんが、レイコやって⁉
そんなん納得できん!
なのでオレはレイコと名乗ったこの姉ちゃんに声を荒げた。
「レイコって何やねん⁉まさかそれが姉ちゃんの本名なんか⁉」
すると姉ちゃんは、至って軽い口調でこう答えた。
「当たり前やんか。ここで偽名言うてどないするんよ」
「何て事や!」
両手で頭を抱えて天を仰ぐオレ。
この時を以て、オレの中でのレイコさんという理想の女性像は儚く崩れた。
カスミの時もそうやったけど、どうして人生とは、こうもうまくいかへんのやろうか・・・・・・。
そう痛感してヘコんでいると、傍らのカスミが目を丸くしてオレに言った。
「ヨシオ君?どうかしたんですか?」
「あたしがあまりにも可愛いから照れてるんとちゃう?」
そう言って口を挟むレイコ。
もはや突っ込む気力もないので、オレはげんなりした口調でレイコに言った。
「そんな事よりも、あんたは何であの男から逃げ回ってるんや?」
するとレイコは、
「う~ん」
と言いながら、バツが悪そうに目をそらす。
聞かれるとマズイ事なんやろうか?
しかしオレは構わず聞いた。
「何やねん?人に言えんような事なんか?」
「う~ん、まあ、言えないほどでも、ないんやけど・・・・・・」
「じゃあ教えてくれや。あんたは何であの男から逃げてんのか。そしてあの男は何者なのか」
オレがそう言ってレイコに詰め寄ると、カスミがオレのシャツの裾をチョンとつまんで言った。
「あ、あの、あまり無理に聞き出そうとするのはよくないんじゃ?何だか言いづらそうですし・・・・・・」
「そうは言うてもやな、オレはこの姉ちゃんのおかげでエライ目にあわされたんやぞ?
それやのに事情も話さへんっちゅうのは納得でけへんやないか」
「でも、人が嫌がる事をするのは、やっぱり良くない事だと思います」
オレの言葉に、カスミは強い口調で反論した。
そのえも言えぬ力強い言葉に、オレは次の言葉が出てこなかった。
そんな中、次に口を開いたのはレイコやった。
レイコはニコッと笑ってカスミに言った。
「ありがとうカスミちゃん。カスミちゃんは優しい子やね」
「そ、そんな事は・・・・・・」
そう言って照れた様子でうつむくカスミ。
するとレイコは一転して真面目な顔になり、こう続けた。
「カスミちゃんの優しさに免じて、洗いざらい話すわ。
あたしが何であの男から逃げてるのか。そしてあの男は何者なのか」
かくしてレイコは、改まった口調でオレとカスミに語り始めた。
まずレイコは、開口一番こう言った。
「あたしな、家出してんねん」