5 食べ盛りの彼女
「バクバクガツガツゴクゴク!」
オレとカスミは、再びヤマトウ家の屋敷に戻ってきた。
そしてそんなオレ達の目の前で、テイコさんが作ってくれた食事を、
あの姉ちゃんが凄い勢いで口の中に流し込んでいる。
その姿をオレとカスミは、ポカンとした表情で眺めていた。
そして傍らで同じようにポカンとしていたテイコさんが、
たしなめるような口調で姉ちゃんに言った。
「ちょっとあんた、そんなに慌てて食べたらお腹壊すで?」
すると姉ちゃんは食べるのを一旦止めて、口に物が入ったままこう言った。
「だいほうぶでふ!ひのうのあははら、ほふにほはんをはべへはかっはんへ!」
何を言うてるのか全然分からんぞ。
まあ、昨日からロクに何も食べてないというのは分かったけど。
他に聞きたい事は沢山あったが、今の姉ちゃんに何を聞いても無駄な気がしたので、
とりあえず姉ちゃんが食べ終わるのを待つ事にした。
そして約十分後。
姉ちゃんはテイコさんが作ってくれた結構な量の食事をペロリと平らげ、
両手を合わせてテイコさんに言った。
「ごちそうさまでした!メッチャおいしかったです!」
それに対してテイコさんは、
「それはお粗末様でした」と言いながらも、複雑そうな顔をしている。
カスミが連れてきたとはいえ、全く身元が分からないこの姉ちゃんに、不信感を抱いているのやろう。
そんなテイコさんに、姉ちゃんはニパッと笑ってこう言った。
「これだけおいしい料理が作れて、おまけに美人で、あたし憧れちゃいます!」
それに対するテイコさんのコメントは次のようなものやった。
「あんた、ええ子やな」
そして一転して上機嫌な顔になり、
「それじゃあ私は仕事が残ってるから、これで」
と言って、ルンルン気分で部屋を出て行った。
ちょろ過ぎるぞ、テイコさん。
そう思いながら呆れていると、そんなオレに姉ちゃんが、ニヤッと笑って右手でピースした。
とんだ女狐やで。
その姉ちゃんを鋭く睨み、オレは言った。
「それじゃあ聞かせてもらおうか、姉ちゃんが何者なのか」
それに対して姉ちゃんは、腕組みをしながらこう返す。
「あたしが何モンか知りたいなら、まずはあんたが何モンかを名乗るのが筋とちゃうの?」
「なっ⁉人に助けてもらっといてその態度は何じゃ⁉」
怒るオレ。
すると傍らに居たカスミが、姉ちゃんにペコリと頭を下げてこう言った。
「私、ヤマトウカスミといいます。この家の一人娘で、歳は九歳です。よろしくお願いします」
「カスミちゃんかぁ~、ええ名前やね。性格もよさそうやし」
カスミの言葉に笑顔で頷く姉ちゃん。
そしてオレの方に顔を向けてこう続けた。
「で?そっちのちっこい君は何ていうの?」
その言葉に、オレはブチ切れながら答えた。
「誰がちっこいねん!今は成長期なんじゃ!これからグングン伸びるんじゃ!
オレの名前はキタヤマヨシオじゃ!十一歳じゃ!」
「なるほど、キタヤマヨシオ君か。じゃあ君の事は、ヨシイクゾウって呼ぶわな?」
「何でやねん⁉オレ演歌歌わへんし!普通にヨシオって呼べ!」
「あーはいはい分かった分かった。じゃああたしも自己紹介するね。
あたしの名前はカミヤレイコ(・・・)。歳は、花も恥じらう十四歳やで♪」