4 借りを返す気はない
「うわぁっ⁉ど、どいてーっ!」
という声がしたかと思ったら、ドォン!と、何者かがオレにぶつかってきた。
「きゃっ⁉」
「いてえっ⁉」
その反動で、オレは前のめりに地面に突っ伏し、その背中の上に、
ぶつかってきた人物が覆いかぶさってきた。
重い。
「な、何やねん一体・・・・・・」
そう呟きながら上半身を起こすオレ。
そして後ろに振り返るとそこに、見た事のある人物が居た。
一体誰かというと、昨日駅前でオレにぶつかってきた、あの乱暴な姉ちゃんやった。
そうと分かったオレは、思わず声をあげた。
「あーっ!昨日の姉ちゃん!」
するとその姉ちゃんも、オレの顔を見て声を上げる。
「あーっ!君は昨日の!」
そして互いに指を指し合うオレと姉ちゃん。
そんなオレ達を見たカスミが、首をかしげながら言った。
「二人はお知り合いなんですか?」
「知ってる!」
カスミが言い終えると同時に姉ちゃんはそう叫び、オレに向かってこう続けた。
「ちょうど良かった!なあ君!今日もあたしを助けて!」
「ええ?」
その言葉に目を丸くするオレ。
昨日と同じようにぶつかってきたと思ったら、昨日と同じような事を言いやがる。
そのずうずうしさにいささかムッときたオレは、
かぶさった姉ちゃんの体を押しのけながらこう言った。
「何で二日連続で姉ちゃんの事を助けなあかんねん。その前に昨日の貸しを返せ!」
すると姉ちゃんもムッとした顔でこう返す。
「嫌や!」
「嫌や⁉借りを返す気全くなし⁉」
「それでもあたしを助けて!」
「あつかましっ!そんなんでオレが助けたるって言うとでも思うんか⁉」
「助けてくれるんやね!ありがとう!」
「言ってない!都合のいいように解釈するな!」
「何でぇよ!かわゆいレディーが悪い奴に追っかけられてるんやで⁉
男やったら助けるのが筋とちゃうの⁉」
「自分でかわゆいレディーとか言うな!このお転婆娘!」
「誰がナカマユキエや!」
「そんな事言ってない!」
とかいうやりとりをオレと姉ちゃんでしていると、
傍らに居たカスミがおずおずとした口調で口を挟んできた。
「あの、ウチでよければかくまいましょうか?」
するとそれを聞いた姉ちゃんは、パッと目を輝かせながらカスミに言った。
「ホンマに⁉ええの⁉ありがと~っ!」
「ではこの通用口から中に入ってください」
「え⁉ここがお嬢ちゃんのおウチ⁉門でかっ!塀高っ!敷地広っ!」
カスミの家を見上げて驚きの声をあげる姉ちゃん。
ホンマにやかましい。
そしてカスミに促されて通用口をくぐろうとした時、
姉ちゃんはオレの方に振り向いてこう言った。
「ちょっと君!もうすぐここに昨日のあの悪い奴が来ると思うから、うまい事言うて誤魔化して!」
そしてカスミと一緒に通用口をくぐり、その扉をバタンと閉めた。
オレは門の外にポツンと一人残された。
「な、何てワガママな姉ちゃんや・・・・・・」
とオレがひとりごちていると、向こうの方から昨日姉ちゃんを追いかけていたあの男が走ってきた。
そしてオレの姿に気づくと、目の前まで走ってきて立ち止まり、息を切らしながら言った。
「ゼェッ、ゼェッ、だ、誰かと思えば、昨日の生意気なガキじゃねぇか。
おい、今、あの子がここに来なかったか?」
それに対してオレは、すっとぼけた顔でこう返す。
「あの子?あの子って誰の事ですかぁ?」
すると男はオレの胸ぐらを掴んで声を荒げた。
「昨日俺が追いかけてたあの子だよっ!さっきこの辺りに逃げてきただろ!」
「ああ、あのお姉ちゃんなら、この道を物凄い勢いで走って行きましたよ?」
「本当だろうな?」
「いたいけな少年の言葉を疑うんですかぁ?」
「何処がいたいけだ!それにお前は昨日、あの子が逃げるのを手助けしただろう!」
「あれは無理やり協力させられただけです。オレは彼女と全くの無関係ですから」
「どうだかな」
男はそう言いながらも、オレが示した道を走って行った。
その男の後ろ姿が見えなくなったころ、オレはカスミの家の通用口を開け、中を覗きながら言った。
「お~い、もう大丈夫やぞ」
すると通用口を入ってすぐのところで、あの姉ちゃんが腹を抱えて苦しそうにうずくまっていた。
「大丈夫ですか⁉しっかりしてください!」
傍らのカスミが心配そうに言いながら、姉ちゃんの背中をさすっている。
どうやらホンマに苦しそうなので、オレも姉ちゃんの傍らに駆け寄って言った。
「おいおい大丈夫かいな?腹でも壊したんか?」
すると姉ちゃんはうずくまったまま、消え入るような声で言った。
「お、お腹・・・・・・」
「お腹が痛いんか?ゲリピなんか?」
「お腹が・・・・・・」
「お腹がどうしたんや?ハッキリ言わんと分からんぞ?」
まさか、今から子供が生まれるとか言うんとちゃうやろうな?
と、昼ドラでありそうな展開を予想していると、姉ちゃんはしぼりだすようにこう言った。
「お腹が、空いた・・・・・・」
「・・・・・・」
まあ、そんなとこやろうな・・・・・・。




