9 死に際の歌
「あへ?」
ナミコさんの言葉に、オレは思わず頓狂な声をあげた。
ナミコさんの話ですっかり忘れとったけど、オレは今、大ピンチなんやった。
ど、どうしよう?
今のオレに逃げ道は残されていない。
目の前に出されたこの紫色の物体を、食べるしかないのや。
そう思うと自然と額から、嫌な感じの汗が噴き出してきた。
そんなオレの心中を知らないであろうナミコさんは、ニコニコしながらオレに言った。
「今日はヨシオ君のために腕によりをかけたの。だから沢山食べてね♡」
「わ、わぁい、嬉しいな~」
やっぱり、食べるしかないか。
ナミコさんがオレのために一生懸命作ってくれたんやもんな。
これを食べんと男が廃るし、ナミコさんの厚意を無にしてしまう。
『反少年主義』を貫くオレとしては、それは絶対にでけへん!
よし食うぞ!
さあ食うぞ!
できれば誰か(カバトンとか)代わってくれ!
オレはそう覚悟を決め、皿の横に置かれたスプーンを手に取った!
そしてそれをひと思いに、カレーの中に突き刺した!
手ごたえは普通のカレーとほとんど一緒やった!
よし!いける!
いくら見た目や匂いがまずそうでも、こういうのに限って食べたら意外とおいしいモンなんや!
ドリアンかってそうやないか!
食べた事ないけど!
メッチャ臭いらしいけど!
「い、い、いただきます!」
オレは腹の底から叫び、スプーンにすくったそのカレーを、口に運んだ!
そして口の中に入れた!
そしてそれを噛んだ!
そして舌で味わったぁっ!
そのお味は──────。
突然ですが、
ここで一曲お聞きください。
『死に際の歌』
作詞作曲 椎家友妻
歌 ヨシオ
♪あ~、オレ死にそうや♪
♪う~、このままやと死ぬんとちゃうか♪
♪お~、ヤバイヤバイ、ホンマに死ぬで♪
♪死ぬに際と書いて『死に際』♪
♪シュビにドゥバと書いて『シュビドゥバ』♪
♪死に際~♪
♪シュビドゥバ~♪
♪オレはまだ死にたくねぇ!(求む生!)♪
♪オレはまだ死にたくねぇ!(求む生!)♪
♪オレは生ビールが飲みてぇんだ!(求む生!)♪
♪でゅうわぁ~♪
そしてオレは気絶した。
バタン。
「ヨ、ヨシオ君⁉大丈夫⁉」