5 カレーを作る音
グシャアッ!
バキィッ!
ドカドカァッ!
ボッコォッ!
ペキペキペキィッ!
何やら物凄い音が、ヤマトウ家の屋敷に響き渡っていた。
これは一体何の音なのかというと、ナミコさんがキッチンにこもり、
今日の夕飯の『カレーライス』という料理を作っている音やった。
その音を、オレとカスミとテイコさんの三人は、隣の食堂の食卓を囲みながら聞いている。
ていうか、カレーを作るのに何であんな音が聞こえてくるんやろう?
オレは隣に座るテイコさんに尋ねた。
「あの~、ナミコおばさんは今、キッチンで何をしてるんですか?」
するとテイコさんは、額に冷や汗を浮かべながら答えた。
「キッチンで、カレーを作ってらっしゃるんや」
「カレーを作ってるんですよね?それやったら、
『トントン』とか『グツグツ』とかいう音が聞こえてくるのと違いますか?」
「奥様の作るカレーはな、他とはちょっと(・・・・)だけ(・・)違うんや」
「ちょっと(・・・・)だけ(・・)ですか?かなり違う気がするんですけど。しかもかなり危険な感じがするんですけど」
「まあ、そう言えなくはない・・・・・・」
「オレ、ちょっとキッチンを覗いてきてもいいですか?」
「それはあかん!」
「な、何でですか?」
「奥様はな、ご自分で料理をなさる時は、絶対に他の人間をキッチンに入れへんのや」
「それ、メチャクチャ危険やないですか・・・・・・」
そんなやりとりをする中、オレは正面に座るカスミの顔色が、やけに青ざめている事に気がついた。
「おいカスミ、何かしんどそうやけど、大丈夫か?」
オレがそう声をかけると、カスミはしんどそうにしながらも笑みを浮かべて言った。
「大丈夫です。ちょっとめまいがしただけですから・・・・・・」
「それはあんまり大丈夫とちゃうんとちゃうか?無理せんと横になったらどうや?」
「お嬢様はな、奥様が手料理を作ってくださる日は、決まって体調が悪くなるんや」
オレの言葉に、テイコさんが神妙な口調で言った。
ていう事はつまり、カスミの体調が悪くなったのは、ナミコさんの料理のせいっちゅう事やないか。
ていうか、カスミが病気がちな体質なんも、もしかしてそれが原因なのでは?
と、ナミコさんの料理に対する不安が一層募った、その時やった。
ちゅどーん!
と、今までよりもひと際大きな爆音が、ナミコさんの居るキッチンから聞こえた。
「な、何や何や⁉」
思わずそう叫んで立ち上がるオレ。
するとその直後、キッチンからナミコさんの声が聞こえてきた。
その内容は、次のようなモンやった。
「出来たわ!」
どうやらあの爆音は、料理の仕上げの音やったらしい。
一体どんな料理ができたんやろう?
とうとうナミコさんのお手製カレーライスが完成してしまった。
この後それを食べる訳やけども、果たしてオレ達はその料理を食べて、
生きたまま明日を迎える事ができるんやろうか?
オレ達の運命をかけた夕食会が、始まろうとしていた!
・・・・・・もう帰らせてください・・・・・・。