8 カスミとテイコ
「あのぅ、ヨシオ君?」
と背後から声をかけられ、振り向くとそこに、
黒を基調にした女の子らしい服を身にまとったカスミが居た。
そしてカスミは、振り向いたオレの顔を見るなり驚いて言った。
「ど、どうしたんですかその顔⁉鼻血が出てるじゃないですか!」
どうやらオレは鼻血が出ているらしい。
そりゃあ顔を地面にぶつけたり足で蹴られたりすれば、鼻血が出て当然やわな。
と、半ば諦めながらオレはカスミにこう返す。
「いや、別に大した事ではないんや。こんな鼻血、ティッシュで拭いときゃすぐ止まるって」
しかしカスミは、
「いえ!そういう訳にはいきません!」
と言って、後ろに振り向いた。
するとそこに、身長が百八十センチ以上ありそうで、
体重も百キロはありそうな、超巨大な体格のおばちゃんが立っていた。
ちなみにその身にはメイド服をまとっている。
まさかこのおばちゃんが、カスミの家のお手伝いさんやというんか?
と、にわかに驚いていると、そのメイドさん(?)に向かってカスミが言った。
「テイコさん、お願いします」
そういえばカスミの家のお手伝いさんは、テイコさんという名前やったな。
じゃあやっぱりそうなんか。
オレとしては、もっと若くて細くてベッピンなお姉さんを期待してたんやけど・・・・・・。
と、いささかがっかりしていると、カスミにそう言われたテイコさんは、
「かしこまりました、お嬢様」
と言って、オレの背後にしゃがんだ。
その巨体にたじろぎながら、オレはテイコさんに言った。
「あの、ホンマに大丈夫ですよ?この程度の鼻血なら、すぐに止まると思うんで」
それに対してテイコさんは、
「大丈夫大丈夫!私に任せてくれたら、鼻血なんかすぐに止めたるから!ワハハハ!」
と言って豪快に笑い、オレの背中をそのぶっとい(・・・・)右腕でバシバシと叩いた。
そのせいでオレは更に鼻血が出そうになったが、そんなオレにカスミはニッコリ微笑んで言った。
「大丈夫ですよヨシオ君。テイコさんは昔看護師さんだったので、簡単な怪我の処置はお手の物なんです」
「その通り!そもそも鼻血を止めるのなんか簡単なんやで?首の後ろを手刀でトントンと叩けばええんよ」
そう言って右手を手刀の形にするテイコさん。
そして言葉通りその手刀で、オレの首の後ろを叩いた。
いや、叩いたという表現は適切とちゃうな。
テイコさんは右の手刀をオレの首の後ろに、打ち込んだ。
「ちぇすとぉっ!」
そして次の瞬間、ゴメキャアッ!
という今まで聞いた事もないような衝撃音がオレの脳に響き、
オレは鼻血が止まる代わりに呼吸が止まった。
思考も止まった。
意識も飛んだ。
首の骨も折れたんとちゃうか?
そしてオレは、倒れた。
バタン。
「きゃあっ⁉大丈夫ですかヨシオ君⁉」
「ありゃ?ちょっと力を入れすぎたかいな?」
やっぱり、神戸なんかに来るんやなかった・・・・・・。