僕の裏アカ
僕、樫野洋輔は恋をしている。幼馴染みの井上優美のことが好きだ。数ヶ月前からSNSの裏アカを始めて、趣味のことを呟いていたが、最近特定されない程度で彼女のことについて呟いている。
『相変わらず可愛いな』
『付き合ったらあそこにデートしたい』
みたいな感じだ。
毎日の更新のお陰で少ないながらもフォロワーもは200人ほどいる。皆、趣味友だ。趣味と同じアカウントでそういう妄想を書いてしまったものだから、何人から揶揄いの文章が来る。恥ずかしいが赤裸裸に言えて楽しい。
今日も登校後に彼女のことについて呟いた。
『彼女は珍しくポニーテイルにしている。今日も可愛い』
そうしたらコメントで、『ポムポム』さんから文章が届いた。
『ポニーテイル好きですか?』
僕は返信する。
『好きーっ』
『いつもその子はどんな髪型しているんですか?』
『うーん、普通に降ろして綺麗な感じだけどポニーテイルは可愛い感じ』
暫くして優美が僕の所に来た。
「よっ」
「お、おう」
彼女は肩の下辺りまで伸ばす黒髪で、目はぱっちりして美人で可愛い顔だ。前述のように今日はポニーテイルだからより可愛らしい感じだ。
「なんか今日はいつもと違うと思わない?」
「え? う~ん。いつもと同じ感じじゃないかな?」
「……ふーん、あっそっ」
そして彼女は自分の席に戻りスマホをいじりながら友達と話している。また彼女は成績優秀で、スポーツ万能で、部活は硬式テニス……、また『ポムポム』さんからメッセージが来た。
『彼女のポニーテイルのどこが良い?』
『やっぱりその子のうなじが見えるのが良い』
『何それっおっさーんww』
『そうかなーっw』
『ところで可愛いと綺麗どっちが好き?』
『うーん、今日は可愛い系かなーっ』
『今日とかあるんだw』
『あるあるww』
そして授業が始まったのでいじるのを止めた。昼休みになると喉が渇くので、1階の自動販売機に飲み物を買いに行く。そしたら優美と会う。
「あれ? 連れは?」
「私も喉渇いたからジュース買いに来たの」
「そうか」
「洋輔ってさ」
「何?」
「ここではあんまり私のこと褒めないよね?」
「どうした突然?」
「なんかそういうの嫌だなーっ」
彼女は目配せしながらポニーテイルをいじる。
「あっ、お前……」
「何っ?」
「今日は少し顔が赤いな」
「っ! そこじゃないわ! この意気地無し!」
彼女は怒りながら帰って行った。
「あっ、ところであいつジュース買ってない……」
そして学校を終えて部活終わり、僕はSNSで呟いた。
『彼女の怒った顔も可愛かったりする』
そうしたら、『ポムポム』さんが絡んできて、
『怒らせたんですか?』
『いや、まぁなんか怒らせたみたいで……』
『どういう感じで怒らせたんですか?』
『実は……』
『なるほど大まかなことは分かりました』
『そうなんですか?』
『全く、ヨウさんは女性心を分かってませんね』
『ヨウ』さんとは僕のことだ。
『それは彼女のことを褒めてほしいということです』
『あー、なるほどそうなんですか』
『だからもし明日もポニーテイルなら褒めてみましょう』
翌日。雨の中、傘を差している彼女を見ると、ポニーテイルだった。
(おぉ、凄い偶然)
「よっ、優美」
「よ」
──それは彼女のことを褒めてほしいということです
「あ、あのさ……」
「ん?」
「そ、その……」
「何?」
僕は急に顔が熱くなり、
「いや、あの……ゴメン先に行くわーっ」
「あっ、ちょっ……」
僕は急いクラスへ向かった。そして、
『彼女は朝から可愛いかった』
一応呟いたが、『ポムポム』さんからのコメントは来なかった。
ある日のこと、僕は何気に『彼女のツインテールを見たい』と呟いた。そうしたら翌日、クラスで歓声が上がりその方向を見ると、優美がツインテールで学校に来ていた。
「どうしたの優美突然?」
「失恋でもしたの?」
「まさか! イメチェンよイメチェン!」
女子達は賑やかに騒ぐ。僕は素直にすっげー偶然と思った。しかし、彼女の雰囲気が可愛いのは可愛いかったけど、あまりにも幼稚に見えたので、僕はいまいちだなと思ったからそう呟いた。
そうしたら午後にはツインテールを止めていた。
「あれ? どうしたの? 髪直して」
「あんまり似合ってないと思ったから戻しちゃった」
そして僕は偶にはと思い、久しぶりに趣味の内容を呟いた。漫画、アニメ、二次創作、同人誌まで幅広くである。
『今週号のかけ恋おもしれーっ。なんと言っても彼女のデレ具合半端ない!!』
そうしたら次の日。登校中に、
「あのさ洋輔」
「お、優美かーっ、どした?」
「最近なんかハマっている漫画とかあるの?」
「うーん、最近は無難に『ヤンマーの拳』かなっ」
「ふーん、そうなんだ。私はてっきり女の子がデレデレしてくれる作品とか好きかなーっと思ったのになっ」
僕はあわあわしながら、
「な、なんで、まさかっ!?」
そして焦っている僕を見て彼女はにやりと笑い、ふーん、そうなんだ~と言う。
「やっぱりそうなんでしょ??」
「け、けど何でそう思って……」
「んーっ、まっ、なんでかな~っ」
彼女は鼻歌を歌いながら一緒に学校へ向かった。なんで彼女はそう思ったんだろうか。僕はまだ不思議としか思わなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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