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「オイ、なーにコソコソ喋ってんだよ、言っとくが悪い事は企まないことだな。もしナンカあったら、全員殺す。レオも、妹も、まぁ、メイドは少しばかり楽しませてもらってからだなァ」
不良弟の脅しに対し、レオは悔しそうに唇を噛むが、ソフィアはニコニコと笑顔のままだった。
「何も企んでいません。約束通り、妹さんと私を交換してくださいね御主人様」
不穏な笑みを浮かべわざとらしく媚を売るソフィアだが、不良弟はソフィアの愛想の良さを見て順々な娘と捉え、再び体を舐め回すように見ると気を良くしながら前に向き直った。
「ほーぅ、御主人様か……いい響きだなァ」
レオは不良弟の呟きに、心底腹立たしい目線を向けている。
「気持ち悪い奴……あんな奴らに妹が拐われて最悪だ」
「妹さん、何もされていないと良いのですけど……絶対に助けましょう」
不良兄弟は2人を路地裏の奥にある地下に案内した。薄暗い階段を降りていくと、鉄製の扉が佇んでおり、不良兄弟が扉の前に立ち止まる。
アジトの入り口だと悟ったレオは、慌てて扉を開けようと手を伸ばした。
「早く妹を返せ!」
しかし、扉の前に不良兄が立ちはだかり、星石銃を突き付けて見下ろしそれを阻止する。
「おっと、そこのメイドを先に部屋に入れてからだ。逃げられたら困るからな」
「私は逃げも隠れもしません」
ソフィアは従順に不良兄弟に従い、開かれた鉄扉の向こう側に足を踏み入れる。
「俺も行く!」
妹の安否が気になるのと、無防備にも敵のアジトに入るソフィアが心配なレオは、その後を追った。
中はすぐに大広間になっており、10人程度がそこで寛いでいた。奥に続く通路があり、おそらくいくつか部屋があることが推測される。
「ボス!お帰りなさい」
扉が開くとすぐに、中に居た仲間らしき者達が立ち上がってボスの帰りを出迎えた。そしてその奥には、一際愛らしい少女が暗い表情で椅子に座っていたが、レオの姿を見つけると、パァッと笑顔になり椅子から飛び出すようにして駆け寄った。
「お兄様!」
「エル!助けに来たぞ!」
レオは駆け寄った妹を力強く抱き締め、頭1つ分低い身長の妹の目線に合わせ腰を落とし、その顔を確認する。
「何もされてないか?」
「うん!あのね、寂しかったけど、みんなお菓子くれたよ」
どうやら不良兄弟の手下達は、エルに対し危害を加えること無く甘やかしていたようだった。レオはホッとした表情を浮かべ、安心した表情を見せた。レオの妹であるエルは、金髪のツインテールで、大きな瞳の持ち主の非常に愛らしい顔立ちをしている。ソフィアは思わず蕩けそうな表情を浮かべた。
「まぁ、子猫のような可愛さ」
ソフィアの目はハートになっていた。
しかし、再会の雰囲気とは裏腹に、背後では不良兄弟が不機嫌そうに手下達を見下ろした。
「お菓子あげただと?誰がそんなことして良いと言ったんだ?アア?俺様はなぁ、全裸で椅子に縛りつけとけって言ったんだが?」
不良兄はどうやら威厳を気にするタイプの様で、エルが全く怯えていない様子だったことに不満そうな表情を浮かべた。命令通りに動かない手下達に、怒りが込み上げ拳が震えている。
「す、すみませんボス……小さい女の子にそんなことするのは可哀想で」
口答えをした手下は、その瞬間不良兄の星石銃により頭を撃ち抜かれた。一瞬の出来事だったため、なにも抵抗出来ないまま、1人の命が奪われていく。
手下達はその光景を目の前で見たことにより、ブルブルと恐怖で震えながら固まり動けずにいた。
「エル、見るな」
レオはエルを自分の胸元に引き寄せ、その惨状を見せないように目を伏せさせる。
その一連の様子を見たソフィアは、真顔で口を開く。
エルを見て表情を蕩けさせた先程の表情とは真逆で、冷たい視線を不良兄弟に向けていた。
「なるほど、恐怖政治ですか」
「は?」
不良兄弟は、ソフィアの声に振り返る。