③
寸前の所で馬を止めることが出来たソフィアは、女の子の目の前に屈み、笑顔でそっと手を差し伸べる。
「大丈夫ですか?怖かったですよね……」
「う……うわああああん」
にこりと笑みを浮かべたソフィアに安心したのか、女の子は泣きながらソフィアに抱きついた。ソフィアは宥めるように女の子の頭をよしよしと撫でる。
周囲の人間も、ソフィアに対し拍手を送っていた。
「?」
女の子の瞳に映るソフィアは、僅かばかりか緋色の瞳に見えた。
「メイドのおねーちゃん、きれいな赤色のおめめだねー!」
「へ!?あ、こ、これはですね、気のせいですよ!うふふ!」
慌てた様子のソフィアだったが、ちょうど良いタイミングで女の子の母親が迎えに来た。女の子は笑顔で母親に抱き着くと、ソフィアはほっと胸を撫で下ろす。
「助けて頂いてありがとうございます!なんとお礼を言ったらいいか……」
「お礼だなんて滅相もない!気にしないでください!」
ソフィアはぶんぶんと首を横に振り笑顔を見せた。
「ねえねえ、ママ、さっきおねーちゃんのおめめがね、赤色だったの。でも何でだろう、もう青色になっちゃったー」
女の子の発言に、周囲の人間はソフィア注目する。
「え?赤色?」
女の子の母親がキョトンとした顔でソフィアの瞳を見るが、クスッと笑みを浮かべ女の子に視線を戻す。
「この子ったら見間違えたのね!スカーレット様がこんなところにいるわけないでしょう。絵本にも書いてあったでしょう?赤いおめめはスカーレット様しかいないの」
母親がくすくすと笑みを浮かべるも、女の子は不満そうに口を膨らませる。母親はソフィアにもう一度お礼を言ってその場を後にした。女の子はその後もちらちらとソフィアを見て振り返り手を振り続ける。
「危ない危ない……私としたことが気を抜いてました」
ほっと安堵のため息をするソフィア。
「メイドの嬢ちゃん、すまなかったな」
そこに、暴走した馬の中年の御者が、ソフィアに申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、それよりも、少し手荒なことをしてしまってこちらこそ申し訳ありません。少し気絶してますが、そのうち目を覚ますと思います」
ソフィアは礼儀正しくペコリとお辞儀をする。
「それよりも、何か不審なことはありませんでしか?どうやら馬に何か魔法がかかっていたみたいなんです……」
「なに?それは本当なのか?全く心当たりはないが……にしても嬢ちゃん、見事な魔法だったね。王都から来たのかい?」
「え、あ、なんとなくです!私はしがないメイドですので、気にしないでください」
ソフィアは真っ赤な顔で否定をする。
「そうかそうか、とりあえずお礼といっちゃあなんだが、リンゴをいくつかもらってくれないか?このリンゴは大地の太陽という種類で最高級品だったんだが、落としちまったら値段はだいぶ下がるなぁ」
「ほえ?よろしいんですか?リンゴ、丁度買う予定だったんです。タダでもらうのは申し訳ないので、お金はお渡しします」
「そうかい、律儀なメイドさんだな。それなら銅貨3枚でいいから、好きなだけ持っていけ」
「ありがとうございます!それではお言葉に甘えさせていただきます」
ニコッと笑みを浮かべるソフィアは、ナターシャから預かった銀貨を手渡し、少し大目にリンゴを袋に入れていくと、時計を確認してその場を後にした。