最強魔女と大戦孤児
ある昼下がりのこと。
ルナテリア領の領主レイン・ルナテリアのお屋敷では、皿の割れる音と共に、怒号が響いた。
その怒号を一心に受け止めるのは、白を基調としたメイド服を着こなす金髪三つ編みおさげの少女ソフィアである。
「ソフィア!また皿を割ったのですか!」
メイド長のナターシャは、新人メイドのソフィアに対し、割れた皿を指差しながら怒鳴り続けている。
どうやらソフィアは、昼食に使用した皿を洗ってる際に、床に落としたようだった。
「ごめんなさああああああい」
半泣きで割れた皿を拾い上げるソフィアだが、その光景を見たナターシャは顔を真っ青にして静止する。
「貴方馬鹿なの!?手を怪我するじゃない、ホウキを使いなさい!」
「ひぃ!ごめんない!すぐ片付けます」
「いいですか?貴方は来てまだ半年だからわからないかもしれませんが、このお屋敷でメイドのお仕事が出来るのは大変名誉なことなのですよ?もっと自覚を持ってお仕事なさい!」
「はい……申し訳ありません」
ナターシャはひとしきり怒鳴った後、しょぼんと項垂れたソフィアに一枚のメモを渡した。
「掃除が終わったら、街でこれを買ってきなさい。今夜は王都で騎士をやられているエドワード様が来るので、アップルパイを用意しなきゃならないのだけど、ハリソンがアップルパイの材料の仕入れを忘れていたみたいでね」
「いやぁ〜すまないねソフィア、頼むよ」
食料庫から顔を出したシェフのハリソンは、申し訳なさそうにソフィアに手を振った。
「貴方も私の息子でありながら恥ずかしい、しっかりなさい」
エドワードが急遽屋敷に帰ることになったため、予定が狂ったことが原因なのか、ナターシャはとびきり機嫌が悪いようだ。
その状況を察してか、他のメイド達はより一層ナターシャの機嫌を損なわぬように働いている。
「悪かったよ母さん。とりあえず美味い紅茶入れるから休んで」
「……仕方ないわね」
ナターシャは少し落ち着いたのか、メイドの休憩スペースに向かった。機嫌が悪い時は説教が長いため、それを覚悟していたソフィアだったが、杞憂だったようだ。
ナターシャのご機嫌を取ったハリソンが、ソフィアに「今のうちに、行って」と耳打ちすると、ソフィアはメモを握り締めて強く頷きながら逃げるようにしてその場を離れた。