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桜の木の下の男たち

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ある公園の一本の桜の木、今にも満開の時を迎えようとしている。時刻は午前六時を回ったところ、初老の男性と十代後半と思われる男性が二人で花見の場所取りをしていた。

白くなり始めたヒゲを蓄えた初老の男は若者に話しかけている。


「なあ君」


「……」


「なあって」


「……なんすかー」


「さっきから何をやってるんだね」


「ワンダースワンです」


「古いな! それが出た時に君は生まれてないだろ!」


若者は我関せずといった様子でマイペースにグンペイを繋げていた。それでも初老の男は若者と交流を図ろうと果敢に挑戦を続ける。


「私もヒマなんだよー、遊ぼうよー」


若者はワンダースワンの電源を切って、顔を上げて言った。


「そもそもどうして社長がアルバイトの俺と一緒に花見の場所取りやってんすか」


「しょうがないだろー、場所取りは毎年くじ引きで決めているんだから」


「若手に無理やり役目を押し付けないところはいいかもしんないすけどね」


そうだろうそうだろうと社長は得意げな様子。


「私も若いころはやりたくもない雑用ばかりやらされてね。自分が偉くなったらそんな風潮は一掃してやり……」


キュイイイイン!


「ゲームを始めるな!」


社長の話が長くなることを察した若者はワンダースワンを起動して、けたたましい起動音を桜の下で響かせていた。


「上司の自分語りも若手の時に聞きたくなかったでしょう。やめてくださいよそういうの」


「なら君の話を聞かせておくれよ、将来の夢は何だね?」


若者は頭を掻きながら応える。


「……忍者っすね」


さらに立ち上がり、空に散る桜を見上げて続ける。


「ちっちゃい頃からずっと修行してたんすよ。でも去年に高校卒業する時、もう日本に忍者はいないって知ったんす」


「気付くの遅くない?」


「夢って散る桜に似ていて、切ないっすね……」


「あ、三重の方で忍者の求人あるみたいだよ」


「マジで!?」


社長はタブレットの検索結果を若者に見せる。


「フルタイムで、各種保険付き」


「社長! 今日を以て、弊社でのアルバイトを辞めさせていただきます!」


若者は走り去り、桜の下には社長だけが残された。


「……若者の夢を応援できたならよかったのかな」


社長はシートに大の字に寝転がった。場所取りで経過したその時間で、遂に桜は満開を迎えたように感じていた。


そして一人になって寂しく退屈な時間を持て余していた。


キュイイイイン!


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