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しっぽ、オレンジ、まくら

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「しっぽ、オレンジ、まくら」

「ねえ知ってる? バイオリンの弓って馬の尻尾の毛で作られてるんだって!」

「へえ」

「さらにもう一つ! 毛筆にもリスやイタチの尻尾が使われているらしいよ!」

「へえ」

「……もしかすると小宮くんはこの話題にそこまで興味ない? 幼稚園から高校生の現在に至るまでクラスを同じくする、可愛いカワイイ幼馴染みであるミツバちゃんのお話なのに?」

「へえ」

「生返事の三連打! 的確に急所を捉えたそのリアクションにミツバちゃんはもうダウン寸前だよ!?」

「へえ」

「負けたよ小宮くん……私のTKG負けさ……」

 よくわからないうちに手軽で美味しい勝利を手にしてしまったようだ。

 傍からみればこの光景は、頭一つほど背が小さいミツバをイジメるひどい男子高校生という図かもしれない。しかし読者諸君、小宮くんことこの俺が冷たいリアクションをとるにも止むに止まれぬ訳がある。

 ミツバとは付き合いが長いのだ。こういう話題の振り方を始めた時は碌なことにならないのはよく知っている。


 あれは幼稚園の時だった、ミツバはハチミツの美味しさを突然説いてきた。蜂の巣へ無防備に突っ込んだミツバを庇った俺は身体中を蜂に刺された。

『小宮くんも蜂の巣になったね!』

 流石にこの時は頭を引っ叩いた。

 小学校の時はこうだ。

『学校裏の沼には主がいるらしいよ!』

 結果として俺は沼に落ちていた。

『うーん……泥は滴ってもいい男とは言い難いね』

 俺を引き揚げようとしたミツバを沼に引っ張り込んだ。

 中学校でもミツバは変わらない。

『これからはね……バンドの時代だよ』

 ミツバが買ったギターは一ヶ月でで俺の部屋のインテリアになった。

『小宮くんが楽器なんて、なんか背伸びしてるみたいで似合わないね』

 自分が弾けなくて譲ったことを忘れての発言である、ギターケースに詰め込んで家まで送り届けてやった。

 俺がミツバへ冷たいリアクションをとるのも納得の理由だろう、許していただきたい。とは言っても、ミツバを放っておくこともできない俺は、いつもいつも最後は無茶に巻き込まれるのもお約束ではあるのだが……。


「で? 休日の昼間から俺を公園へ呼びつけたのは如何なる用事か」

 TKG負けしてその場でうつ伏せに倒れていたミツバのアホ毛がピョコリと反応する。

「どうせ巻き込まれるんだ、さっさと終わらせよう」

 ミツバは目を輝かせて飛び上がった、まったく現金なやつだ。

「さっすが小宮くん! そう言ってくれると信じていたよ!」

 感謝と期待に満ちた目を下から上目遣いで覗かせる。長いまつ毛と上気した頬が観察できた。うーん……せっかく整った目鼻立ちをしているのにこの性格で台無しなんだよなあ、もったいない奴だ。

「ど、どうした小宮くん。そんなにじぃっと顔を見つめられるとミツバちゃんも照れちゃうぞ……?」

「バカ言ってないでさっさと本題に移れ、俺は家に帰ったらクリアしたドラクエのレベル上げで忙しいんだ」

「忙しい用事の言い訳が無為すぎる!」

 まったく話が進まない、俺もいい加減にしよう。

「尻尾が何なんだって? 俺は鯨の尻尾なら食べたことあるぞ」

「まったく小宮くんは発想が昭和だな、そして食べることばっかりだ」

 やれやれと肩をすくめるミツバ。俺がイライラした表情を向けると本題に戻り始めた。

「フカフカで大きな動物の尻尾、これを枕にして眠ってみたいと思ったことはない?」

「なくはないな」

「でしょう!? 今日はその夢を叶えようと思ったのです!」

「どうやって?」

「色々な動物から尻尾の毛を集めて枕カバーに入れれば、それが叶うと思わない?」

「うーん……」

 ちょっと違うような気もするが、言い得て妙とも言える気がする。

「という訳で、町中の動物を捕まえて尻尾の毛を分けてもらおう!」

 こうして俺とミツバのリアルハンティングアクションが幕を開けた。


 ーーー

「ミツバ! そっちに行った、捕まえろ!」

「え? うひゃあ!?」

 ーーー

「ああもう人手が足りない! 小宮くんちょっと分身して!」

「できるか!」

 ーーー

「マタタビっていい匂いだね、私が舐めても平気かな?」

「毒はないと思うけど人間としてやめておけ、人間をやめたいならやればいい」

 ーーー


 夕陽が俺たちをオレンジ色に黄昏れさせる。ハントの結果は散々だった。

 野良犬には追いかけられ、リスを追いかけ木から落ち、マタタビで釣ったネコの尻尾にはクソが付着して採取は断念した。

 ミツバは土に塗れて地面にうなだれる。

「そんな……モンハンではマスターランクのこの私が……」

 それも俺が手伝った成果なんだがな。

「もうニトリで低反発マクラ買って帰ろうぜ」

「うう……小宮くんが高級羽毛マクラ買ってくれるか、抱きマクラになってくれるなら帰る……」

「いい加減にせい!」

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