flavor8
私は檻の中に閉じ込められていた鳥。
でも、目の前の扉は開いててやっと自由になれるのに。
翼が動かない。
足が動かない。
その檻の中から外に飛び込むことができないんだ。
誰かが私の前にきて、何か囁いている。
その言葉が聞こえて私は翼を動かした。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
私は逃げてきて、薄暗い建物と建物の隙間に入った。
体中が震える。
頬を伝う大粒の涙。
怖い。
いやだ。
あの時のことが今も全部よみがえってくる。
「どうして…逃げんだよ。どうして…お前はいつも…俺を頼ってくれないんだよ。」
いきなり目の前に黒浜が現れた。
私は涙目で黒浜の顔を見た。
息を切らしながら苦しそうな顔をしていた。
ごめんという気持ちになった。
言いたいけど。
言葉がでない。
私はただ、泣くことしかできなかった。
「俺がちゃんと聞いてやるから、話してみろ。お前いつも一人で抱え込んでさ。一人で泣くから。ちゃんと俺に話してみろ。」
黒浜は私の真正面を向き一生懸命言ってくれた。
私はそれに応えた。
私の過去にあったことを話した。
義理の父親が怖くなったってことを。
それで、好きな人を作りたくないってことも。
そして、やっと…
「そうだったんだな。そんなに傷ついてたんだな。話してくれてありがとな。」
黒浜は優しく一つ一つを大事に言ってくれた。
私は一回だけ何も言わずうなずいた。
黒浜の優しさが心にしみていく。
ああ、何か、あたたかいや。
優しい気持ちになれる。
「俺が守ってやるよ。」
私は息が止まった。
時間が止まったようにも感じた。
「今、なんて言った?」
私は驚きながら黒浜に尋ねた。
どういう意味なの?
いきなりなんで?
「恥ずかしくなるだろ。俺今はまだ、気のきいたこと言えないけど。これからも…その…お前を守ってやる。ずっと…傍にいてやるよ。」
私は驚きが隠せなかった。
私はまた大泣きした。
涙が拭いても拭いても出てくる。
「黒浜ー…バカー…。」
私は泣きながら黒浜に力無さげに言った。
だって、いきなりだったんだもん。
「何だよバカって。好きだよ。だからずっと傍にいてやる。だから、頼ってくれよ。」
ギュッ
黒浜は私のことを強く抱きしめてくれた。
やっと伝わった気持ち。
私を変えてくれた君だからこそ。
傍にいてほしいんだ。
君には心に深く傷があるかもしれない。
でも、私がそれを治してあげたい。
私の心にも傷がある。
でも、きっと君が治してくれるよね。
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今日は藤木先生の結婚式。
藤木先生はすごく綺麗で。
まるで一輪のテッポウユリのように綺麗で凛とした立ち姿だった。
私もあんなふうになれたらいいな。
私は心の中でスッキリした感覚になった。
白いベールに顔を隠して、真っ白のウエディングドレスにフリルの縁取りがされている。
白くて長い手袋で持っている花はまた真っ白ですべてが純白に見えるほどに白で統一されている。
それを真剣な眼差しで見ている黒浜。
きっとまだ、何か残ってるんだろうな。
私は藤木先生のことを真剣に見つめている黒浜のことを見つめた。
そして、祝福パーティーのときに…
私は見つけてしまった。
藤木先生と黒浜が二人きりで少し離れたところに歩いていったのを。
え???
今のって!!
私は少し不安になり、追いかけていった。
あの時を思い出してしまった。
何か、少し怖くてドキドキする。
お願い。
何もありませんように。
「これ、返す。」
私はこっそり除き見した。
黒浜が渡していたのは白くて真ん中に緑で何かが書いてある薄い箱とその上に金色の細長いライターだった。
あの緑のってタバコ?
私は少し遠かったのでよくわからなかったけど。
多分タバコだと思う。
「お前のことをずっと忘れられなくて、ずっと戻ってこないかなって思いながらいつもそのタバコの香りを握り締めながら眠ってた。でも、もうこれはいらない。」
黒浜は真剣な目をして、藤木先生に言った。
藤木先生がタバコを残していって、それを黒浜が握り締めて寝ていたから…
だから黒浜からタバコの香りがしたんだ。
やっとわかった。
黒浜から淡いタバコの香りがしたこと。
「あら、じゃあきっと運命の人が見つかったのね。」
藤木先生は微笑みながら言った。
小鳥のさえずりのように小さく透き通る感じの声。
大人と思わすような口調。
私と全く違うような気がする。
「ああ。泣き虫でさ。俺がこれからはそいつの隣にいてやる。そいつの涙を拭ってやる。そいつには俺が必要で。俺にもあいつが必要なんだ。だから、もうお前のことは考えねぇ、そう決めた。だから、お互い幸せになろぜ。じゃあな。」
黒浜はそう言ってこっちに歩いてきた。
頬を伝う涙の感触がわかった。
また泣いちゃったよ!!!
ヤ、ヤバイ!!!
こうなったら逃げよう!!!
そう思って走ろうとしたとき…
グッ
腕を誰かに掴まれ動けなくなった。
ぎくっ
私はつばを飲み込んだ。
「逃がさねぇぞ。俺は一度手に入れた女はもう逃がさねぇからな。また泣きやがって聞いてたんだろう。俺達の会話。恥ずかしいこと言わすなよな。」
黒浜はそう言って、私のことを引き寄せた。
黒浜の腕の中はあたたかくて、優しくて、強くて、何かすごく嬉しい気持ちにさせるんだ。
私は泣きながら抱きしめ返した。
そして、一番言いたかったことを言った。
「私も離れない!!!」
私は笑顔になりながらそう叫んだ。
ねぇ、君と一緒にいれたら、どんなことでも乗り越えられるよね。
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土曜日…
ミーン・ミンミンミンミンミンミン…
蝉の声が日本中に響く季節。
「だーれだ!!!」
私は君の目を隠して笑いながら叫んだ。
私は今日は念入りにおめかしをしてきた。
見たら気にいってくれるかな?
お気に入りの半袖の青いマリンのワンピースをきて白いサンダル履いて。
君のことを考えたんだよ?
気づいてくれるかな?
私も大人になったってこと。
「梓だろ??」
君は呆れながらそう言った。
その君も好きなんだ。
君の何もかも好きなんだ。
君からは淡いタバコの香りがした。
でも、あのときとはちょっと違う香り。
ああ、また、私を狂わせる。
終わり…
最後まで読んでいただきありがとうございます。
違う小説も読んでいただけたら嬉しいです。




