平成最後の日に考えたこと
2019年4月30日。平成が平成のままでいられる最後の一日は別れを惜しむかのような雨のカーテンに包まれていました。NHKではこの時代を振り返る番組が延々と続いています。きょうの料理はごちゃごちゃしてて面白かった。
とにかくそんな日だから私も過去の思い出たちを、雨粒が道路を水に染めていくようにポツポツと頭の中に浮かべながら今までこうして書き綴ってきました。
それまでも、それからも数多くの喜びと悲しみに出会いました。でも、その中でも12歳のあの日々、愛の力を信じてただ一人の想い人と強い絆で結ばれた日々こそが一番強くまばゆく輝いていたと、あれと同じだけの時を二度繰り返してなおためらいなく言えます。
それからは本当に色々ありました。大きくなって結婚して子供も生まれました。一人目が女の子で、義理のお母さんから「私も女の子産みたかった」と泣いて感謝されました。名前は七波ちゃんです。かなりのお転婆で、私も初めての子育てというのもあって試行錯誤悪戦苦闘の日々だったけど、この頃はちょっとだけ落ち着きつつあるみたいです。
二人目は男の子で、今度は義理のお父さんに喜ばれました。こっちは凱風くんって名前で、誰に似たのか図鑑を読むのが趣味の大人しい子だけどよく泣くのがちょっと心配でもあります。そして三人目の小波ちゃんは今年から年長組になります。お料理をよく手伝ってくれる優しい子だけど、時々爆発します。
自分の半分が受け継がれた子供たちは毎日私の想像を超える何かをしでかすものだから振り回されっぱなしで、でも太陽よりも眩しい満面の笑みや安らかな寝顔を見るたびに私の心は幸せで満たされて、もっと慈しむ心を持って大きく育ててあげなきゃと気持ちを新たにしています。
一方でなくしたものも数多くあります。デートで使ったボウリング場も球場も今は取り壊されてるし、そして我らがホームとして6年間の長きに渡ってあらゆる体験と感情を刻み込んだ賀内東小学校も3年前、西小と統合する形で閉校してしまいました。
そのニュースを最初に聞いた時は「ああ、やっぱりそうか」と、悲しむよりも納得する気持ちのほうが先立ってしまったのが正直なところでした。心のどこかで、具体的に言うと野球部が潰れたあたりで遅かれ早かれ後を追うのかなって覚悟はしていたから。
都会と違って賀内町みたいな田舎は衰退する一方です。電車のダイヤを見ても、少なすぎると思ってたあの頃のダイヤでさえもまだこんなに電車の本数があったんだなと感心してしまうほどにスカスカとなっています。
あんまり田舎だからそれが逆に珍しかったかアニメの舞台になったり、インターネット上で外国人が沖合の島ではしゃぐ動画が海外で広く拡散、いわゆるバズった成果もあってかここ数年で観光客はうなぎのぼりに増えてるらしいけど、人口減少に歯止めがかかる気配はありません。
平成の大合併から取り残された船月市の人口はすでに3万人を割ってしまった現状、賀内町単独におけるそれはもはや言うまでもありません。かく言う私も高校卒業とともにこの街を離れました。今は都会の郊外に暮らしてて、故郷に戻るのは1年にお盆と正月の2回ぐらいしかありません。
だから賀内町の現状について嘆く資格なんて本来はないんだけど、それでも人生の半分を過ごして魂の片割れを置いてきた土地だからちょっとぐらい悲しんでみせるなら許されてもいいんじゃないかなって、わがままでもいいからそれぐらいはさせてよと願います。
そう言えばこの前の1月に同窓会があって、久々にクラスメイトが集結しました。
「やっほーぴーちゃん久しぶり。無事に生きてた?」
「うん、お陰様でね、カナちゃん」
カナちゃんはイベンターの仕事を頑張ってて、家族の写真を見せると「ナナちゃんとサッちゃんって本当ぴーちゃんとよく似てるわね。ガイくんも目元なんかそっくり」なんて目を細めていました。
前に会った成人式の夜、カナちゃんは私にとても大事な言葉を告白してくれました。私はその時までまるで気付かずにいたけど、でもそれからも電話、メール、SNSとツールこそ変わっていったものの二人は一番大事な友達としてつながり続けています。
だから直接会うのは10年以上ぶりでも昔みたいにさり気なくお話が出来て、それが何よりも嬉しい話でした。
「ぴーちゃんは変わんないねえ。いつまで経っても若いまんまや」
「そんな事ないって。最近はやっぱり体力がねえ。そういうマロンちゃんこそ、倖ちゃん元気してる?」
「もう元気過ぎるくらい。それで去年からスイミングスクール入れたんやけどね、もうすっかり水に慣れたみたいでスイスイ泳いでてかわいかったわ」
マロンちゃんは大学進学以降関西に定着して、今は奈良県で高校の先生をしています。「産休明けからやっと元のリズムを取り戻してきたところや」と笑い飛ばす語尾に色付く関西訛りが充実した日々を物語っているみたいでした。
「ここにいる間は飯尾先生じゃなくて岩滝まろんでいられるのがいいんよ。ねえヒロちゃん」
「そうよねー。私も境さんって言われるのに慣れるまで結構時間かかったしねー」
ヒロちゃんは一昨年、福島県出身の旦那さんと結婚しました。そして今はお腹の中に新たな生命を授かっています。あんなに華奢だったヒロちゃんも今では随分しっかりした体つきに成長して、すっかり母親が板についています。
「それでヒロちゃん、後3ヶ月ぐらいだっけ?」
「うん。それで男の子らしいの」
「へえ、男の子かあ! 頑張ってね!」
「ありがとぴーちゃん。でもちゃんと耐えられるか心配よ。言われた通りに胚芽米とかしっかり食べてるけど」
「要はバランスやからね。タンパク質にカルシウム、それに鉄分も大事」
「それでその子が産まれたら私らと違って次の元号生まれになるわけだからねえ。そういえば名前とか考えてる?」
「まあ、何個かはね。でも次の元号の漢字を入れようってなりそうな雰囲気だからそれもどうよって思ってるんだけど」
「おお、ええやん。今年ならではやし」
「それはそうだけど、でも安易すぎない?」
「いやあ、名前ってやっぱりシンプルイズベストよ。変に凝りすぎても説明するの面倒だし、とぴりかが言ってみる」
「それに同意、とまろんも言ってみる」
「うーん、そっかあ。でも大事なのはここからだからね。しっかり頑張って元気な子を産まなきゃね、と広子は言ってみる。ふふふっ」
「あははっ」
「おーい、せっかく盛り上がってるところ悪いけどそろそろ始まるぜ。テレビつけろよ」
「6番でいいんだっけ」
名前の変わった三人だけがこもる世界に男子陣がズカズカと割り込んできました。サキちゃんは自衛隊とかバーテンダーとか色々やってたみたいだけど今は四国で働いてて、オーバくんは九州のほうで車の仕事をしています。
タンポポの綿毛が風に吹かれて飛び回るように、みんなこの町を出て散り散りに旅立ちました。その途中でみんな色々あったけどそれでもどうにか生き延びて、この星の片隅に自分の居場所を築いています。
何度でも間違いを繰り返し、でもそのたびにまた新たな答えを探し続ける。それが私達にとっての平成という時代でした。そしてそれは令和の世になってもきっと変わらないでしょう。
これからも私達が人間として生きている限りは欲望に負けたり、壁に弾き返されたりで泥に塗れながら、それでも歩み続けていくでしょう。もっとたくさんの喜びと輝きこの手に触れるために。とりとめはないけど、今はそんな事を考えながら次の時代へと向かう最中です。
それとカズくんだけど、誓いを叶えて今も世界各地を飛び回っています。




