悪役令嬢の生存戦略
ゴウン……ゴウン……
飛行船の窓から産まれ育った都が見える。
「久し振りだろ」
ギイが、お茶を渡してくれる。
「ありがとう。ええ。あっという間の10年だったわ」
私の名は、エリナと言う。
マルセイユ国に渡ったのは、18歳の時だった。
鞄一つ手に持ってかの国に降り立った。
絶望しかくれなかった故郷。
大切な者をくれたマルセイユ。
「所で僕の造った船はどうだい」
私の横で黒髪の魔導師が、笑う。
「ええ。快適よ。10年前とは、比べられないほどの差よ。姫様も喜んでいたわ」
「家族と会うのが楽しみかい?」
「ロイド伯父様と従兄弟に甥っ子は元気かな?」
「母上は子供の時に亡くなって。妹さんが、一人居たんだよね。」
「私の婚約を盗った女よ。腹違いだしね。姉妹仲は最悪だったわ」
知ってるくせに意地悪ね。
私の父と母は政略結婚だ。
二人の間に愛は無い。
オマケに父には愛人がいた。
平民だったから一緒になれなかったと言っていた。
本当に好きなら駆け落ちでもすれば、良かったんだわ。
家督は、父の弟ロバート叔父様に譲って。
父は祖父の金目当てに結婚したのだ。
貴族には、よくある話だ。
母が、湖で水死して直ぐにあの女と娘が来た。
同い年の娘を連れて。
我が物顔で乗り込んで来た。
そして母の持参金を食い荒らす。
可愛らしい妹。
可愛いげの無い私。
卒業パーティーで婚約破棄された。
私は、国を出て海を渡り。
マルセイユ国にたどり着いた。
丁度士官の募集があり、6ヶ国語を話せる私は見事合格した。
この十年バリバリ職業婦人として働いている。
王や王妃や首相の信頼も厚い。
王宮を訪れる外交官やその婦人や子供達の護衛をしている。
私はそっと服の上から、サファイアの首飾りに触れる。
私の祖国クリシャス王国は、婚約の印に男性の髪か瞳の色の髪飾りを贈る風習があるが。
マルセイユ国は首飾りを贈る。
ギイと同じ瞳の色。
飛行船は、飛行場に着いた。
飛行場には皇太子が、マルセイユ国の王女を迎えに来ている。
セライン王女は、クリシャス王国のスタシオン皇太子に嫁ぐ為にやって来た。
私と魔導師と騎士団22名は、姫の護衛だ。
初めて会った時七歳だった姫も今では、立派な淑女だ。
「ロイド伯父様は、帝都にいらっしゃるかしら?従兄弟のレギオンにも会いたいわ」
母方のお祖父様は、二年前に亡くなられた。
祖母は、母を産んで直ぐに亡くなっている。
母の兄のロイド伯父様と従兄弟のレギオンと手紙のやり取りをずっとしている。
「お墓参りに行かないとね」
「そうね。お墓参りにも行きたいわ。時間が、取れるかしら?」
***** ***** ***** *****
「何で彼女を選んだんだろ」
「真実の愛だと仰っていたじゃありませんか?」
本当に何でこのクソ忙しい時に元婚約者と高級ホテルでだべってないといけないんだ?
誰だ?余計な事したの。
それよりテロリストの件どうなった?
「本当に馬鹿だった。一時の気の迷いで君を手放すなんて…マルセイユ国では苦労したんだろ。可愛そうに」
『可愛そうに』
とい言うのが妹の口癖だ。
一緒にいた時間が長かったのか、彼もよく口にする。
妹は可愛そうにと言いながら嗤っていた。
私は、マルセイユ国の懐刀と呼ばれている。
実は私には予知能力があるのだ。
母の葬式で私の能力は覚醒し。
王家の暗殺や事故を未然に防いできた。
ここに来たのも姫が、乗る飛行船爆破を未然に防ぐ為だ。
今、私の部下とこの国の王国軍が、動いている。
王太子と姫の結婚反対派の仕業だ。
マルセイユ国とクリシャス国の同盟をよく思っていないテロリスト集団【緋のカラス】。
他にも気掛かりは、あるが…
ちらりと隅に座っている少女を見る。
何度もその力を使って未来を見ても……
元婚約者と私が幸せになる未来は無かった。
一度目の予知では彼と結婚して二年後に毒殺される。
そして妹が、後釜に収まっる。
「可愛そうなお姉様。私達に持参金を残してくれてありがとう」
私の葬式で、必死に笑いを堪えていた。
周りの人間には、泣いているように見えただろう。
二度目の予知では嫉妬に狂い妹を殺そうと野盗を雇ったと、濡れ衣を着せられ獄死した。
牢番に毒を盛られたのだ。
三度目は、初夜の時妹に窓から突き落とされた。
その後、持参金は全て奪われる。
三度も彼との未来を探ったが。
私たちが幸せになる未来は無かった。
あの頃は彼を愛していたのだろう。
愚かな夢見る子供だった。
卒業パーティーで婚約破棄されるのはわかってた。
わざと婚約破棄に持って行くのに苦労したわ。
婚約破棄された時は、うまく逃げ延びれたと皆で祝杯を上げた。
祖父も伯父様も私の予知能力を知っていたから。
本当にお祖父様や叔父様には、感謝している。
「いえ。幸せでした。祖国は、奪われてばかりでしたが。マルセイユは、与えてくれました。仕事もプライドもそして…」
私は、いつの間にか後ろに立っている彼を見てあふれんばかりの笑みを溢す。
「愛する人も…仕事(テロリスト逮捕)は、終わったの?」
あなたね彼と会うようにスケジュール弄ったの。
と目で語りかける。
「ああ……終わった。(ボコボコさ♡)やあ、久しぶりだねハリス。卒業パーティーぶりかな~君には、凄く感謝しているんだ。彼女を手放してくれてありがとう」
彼は、私の横に優雅に座る。
元婚約者は、あんぐりと口を開けている。
誰だ!! お前!! って顔だ。
私は、話題を変えた。
「あの子と結婚したんでしょ。お子さんは、何人いるの?」
何も知らぬ風を装い彼の口から事の顛末を聞く。
意地が悪いとギイが笑う。
「あ…君は、知らないのか」
苦々しく彼は、答えた。
勿論知っている。
チラリと彼の前ハゲ前線を見る。
うん。後退している。
地味だった私は、磨きをかけ今では、誰もが振り返る美人となった。
流石、化粧!!化ける粉だわ‼
私は予知した事を、お祖父様と叔父様に知らせていた。
あの親子が、隣の国のスペルン皇太子に近付くために私の元婚約者に近づいたこと。
そして魅了のスキルを使う事も。
【スペルン皇太子スキャンダル】
当時は、大騒ぎとなった。
スペン国に滅ぼされた、サンダ国の側室と姫が逃げ延び。
スペルン皇太子を害そうとパーティーに紛れ込んだのだ。
騒がれぬはずは無い。
そうニナは父の子では無い。
魅了で父の子だと洗脳していたのだ。
もっとも洗脳されていなくても父の性格の悪さは変わらない。
お似合いの夫婦だわ。
祖父や伯父様は、予めスペルン皇太子に【魅了】を解除する魔道具を持たせた。
周りの人間も床に隠された魔方陣で魅了は解除された。
お爺様と叔父様の働きで王太子暗殺未遂は阻止された。
あの親子は、捕まり広場で晒し首になった。
ニナの目的は、スキル【魅了】で王太子を虜にする事だった。
私は、暗殺するつもりだとお爺様に伝えた。
予知の中であの親子が、お母様を殺した事を笑いながら話していた。
贅沢をする為に二人は母を殺したのだ。
金持ちの王太子を誑し込んでまた贅沢ができると笑っていた。
私は邪魔をした。
父は、爵位を取り上げられて酒場で刺されて死んだ。
愚かな男だ。
死体は、共同墓地に埋められた。
母の隣りで眠ることは許さない。
私は、卒業パーティーでバファロー家の籍を外されていたし。
ロイド叔父様の養女にしてもらっている。
その事件が、起きたときには、マルセイユ国にいたしね。
「君は、美しくなったね」
私は、妖艶に微笑む。
努力したもん。仕事に身だしなみに料理に。
ギイが、第三王子の付き添いでこの国を訪れた時の歓迎パーティーで……
ーーーーーーー私は、彼と結婚するーーーーーーーー
そう予知した。
子供は、三人。男の子二人と女の子一人だ。
「私ギイと結婚したの祝ってくれる?」
元婚約者は驚いた。
まさか!!
自分の事を思って10年間一人だと思っていたのか?
私の元婚約者は、ギイのことを骸骨と笑っていたが。
この十年間私がみっちり食事を与えて肉を付けた。
(誰だ!!餌付けなんて言ったのは!!そうさ♡そのとうりさ♡)
まるで別人だ。
豊な黒髪。サファイアの瞳に日に焼けた健康的な肌。
着やせするが筋肉質の体。
神話に出てくる神の様な彼が私に微笑む。
「ババアの様な髪だ。」
元婚約者とニナが、笑った髪を一房取るとそっと口付ける。
「雪のように白い髪。緑の瞳。まるで雪の中から顔を出す雪割草のようだ」
私は、赤くなる。この天然たらしめ!!
「僕の一番好きな花だ。そして一番に僕に幸せを告げる」
「ギイ・ヨシュア様、エリナ様お時間です」
(戦闘)メイドが、そう告げる。なんかスッキリしている。
どんだけテロリスト集団をボコってきたんだ。
「まあもうこんな時間。ハリス様お会い出来て良かったですわ。私は、とても幸せです。子供も三人おりますのよ。婚約解消してくださってありがとうございます。もう会うことも無いでしょうが、どなたかとお幸せになってくださいませ」
「あ……ああ……」
私は魔導師の手を取り立ち去った。
ポツリと元婚約者は、取り残された。
さあ貴方はこの後パン屋の女将さんに会うわ。
可愛い娘もいるのよ。
その人達とお幸せに。
本当はね。貴方はね。
スペルン皇太子にニナを取られて。
恨んでスペルン皇太子を刺し殺すのよ。
それが原因で第一次世界大戦が起きる。
私はそれを回避した。
「ちょと待ってて」
私は、ホテルの喫茶室を出る前に隅にいる少女に歩み寄る。
その少女は、紅茶を飲むでもなくただ俯いてバックを弄っていた。
「今は、辛いと思う。けどね彼は、貴女が、殺す価値もない男よ」
私は、少女の肩に手を置く。
「貴方の未来は、素晴らしもの」
少女に未来を見せる。
子供を連れて笑いあう親子三人の姿を……
「あ……ああぁぁ…」
少女の膝からバックが、落ちた。
ポロポロと少女の瞳から涙がこぼれる。
「あなたは10年前の私。例え今が地獄でも、必ずあなたは幸せになるわ。だからやけを起こしてはだめ」
彼女も婚約破棄されたのだ。婚約者の心変わりで…
婚約者と女が、ホテルに入って行くのを見て後を付けた。
バックにナイフを忍ばせて。
私は、誰の目にも止まらない早業でバックからナイフを抜き取った。
そしてバックをテーブルの上に置く。
「ライラ!!」
一人の若者が、少女の元に駆け寄る。
私は、笑って立ち去った。未来で少女の夫となる青年だ。
「流石は、先見の巫女だ」
私の夫が手を差し伸べる。
私は笑って彼の手を取る。
私は先見の巫女。
これからテレーゼ大陸は、戦と疫病が、吹き荒れるだろう。
でも私は、それを回避させよう。
どこまでできるかわからない。
でも私には、頼もしい夫と頑丈な友達(部下)がいる。
絶対世界を救って見せる。
~ Fin ~
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2018/3/31 『小説家になろう』 どんC
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★エリナ
主人公。予知能力者。婚約破棄されマルセイユ国に渡り文官になる。
★ハリス
元婚約者。妹に乗り換える。
★ニナ・バッファロー
エリナの妹。血は、繋がって無い。
★ロイド伯爵とレギオン
エリナの母の兄。レギオンは、従兄弟。
★セライン王女
マルセイユ国の第三王女。スタシオン皇太子と結婚する為にクリシャス国に来た。
★スタシオン皇太子
セラインの婚約者。
★ギイ
主人公の夫。
★スペルン皇太子
妹のターゲット。
ただ、婚約破棄されたエリナが、ハゲてきた元婚約者と豚妹にざまあ~する話だったはずが、何故こうなった?
最後までお読みいただきありがとうございます。