0.屋上
学校の屋上には、俺たちの日常から離れた世界がある。
そこは息の詰まる校舎の中にある唯一の外側で、無限に広がる世界との接点だ。空の高さも風の冷たさも、世間の狭さも世界の広さも、社会の大きさも自分の小ささも、見渡す世の中すべてに詰まっているような気がした。
俺は転落防止用のフェンスを乗り越え、どこまでも広がっている世界に一歩だけ近づく。後ろ手でフェンスを掴み、足元に向かって首を伸ばす。昇降口と水道と、固そうなアスファルトが見えた。ここからあと一歩世の中に向けて踏み出すだけで、俺の世界は終わりを告げる。
思わず生唾を飲み込む。足がすくんで宙に浮いているような感覚を覚える。手汗で滑るフェンスをもう一度掴み直し、俺は視線を右側へと向けた。
俺のすぐ隣では、赤髪の少女が腕を組んでフェンスに寄り掛かっている。ここが四階建ての校舎の屋上であることを一切感じさせない自然さで、少女の大きな瞳は眼下の世界を睨みつけていた。鼻筋の通った美しい顔立ちを嫌悪で彩り、憤怒を込めた眼光で世界を貫く。俺は、夕日色に染まった世界が、赤みを増したような錯覚を覚えた。
俺は一つため息を吐いて、彼女が睨む世界を見据える。
気味が悪いくらいに赤々とした夕日に、血の色に染まった鰯雲。背の低いちんけな民家の群れに交じって、高々とそびえるビル。鬱陶しい掛け声を発しながら散り散りに活動している運動部や、耳障りな不協和音を奏でる吹奏楽部。俺の目に映るのはいつもと変わらない、反吐が出るほど下らない世の中だった。
一週間後、俺たちはここから飛び降りる。