1.浮気相手と会話中
なにも考えずにさらりと読める恋愛小説、を目指しました。どうぞお付き合い下さいませ。
「だから、誤解だ。お前が思っているような事は何もない」
「嘘。だって、思い当たる節がありすぎる。そんなの信じられない」
「……なら勝手にしろ。とにかく、俺は嘘は言ってない」
くるりと後ろを向いて背中を見せる蒼汰。ちょっと待って、話はまだ終わっていない。
「蒼汰! 待ってよ! まだ話し足りないぃ!」
「これ以上、俺と話しても埒が明かないだけだろ。そういう事は、悠犀と話せ」
「正面切ってフラれろっていうの!?」
「だから! 誤解を解けと言っているんだ!」
大学の講義の後、人が少なくなってきた講堂の中。
私と蒼汰は人目も憚らず言い合いをしていた。蒼汰はあまり声を荒げるタイプではないので、近くにいた蒼汰の友達がびっくりしてこちらを見ている。
きみきみ、見世物じゃあないぞと言ってやりたい。そもそも、こんな話聞かれたら私だけじゃなく、蒼汰や悠犀の沽券にも関わる。
私は二人を傷付けたくてやっているわけじゃないんだから。
「……悠犀にはまだ何も聞いてないんだな?」
「聞けるわけないじゃない。そんな事。そんな……」
考えただけで、目がじわりと熱くなる。
考えたくもない、想像もしたくない。でも、そうだったらという可能性を考えるだけで心が痛い。
「絶対、悠犀は蒼汰の事好きなんだから……」
「はぁ……どうしてそうなる」
「だって、この間だってほら。蒼汰、熱出したでしょ?」
それは先々週の日曜日。僭越ながら悠犀とお付き合いをしている私は、その日デートの約束をしていた。悠犀は学校の近くのスイミングクラブでバイトをしている。そのため、デート出来るタイミングも回数も限られていた。
それでも私は構わなかった。水泳が好きな悠犀はバイトをとても楽しそうにしていたし、嬉しそうにその話をする悠犀も私は大好きだった。
おっと、話がずれてしまった。
とにかくその日、私は悠犀とデートの約束をしていたのだ。しかし、その日デートをする事は叶わなかった。
何故なら。
プルルルル。
『もしもし? 悠犀?』
『瑠歌。ごめんね、朝早くに』
『んーん。今日、悠犀とお出かけだから早く起きてたの』
『……』
『悠犀?』
『ごめんっ! 今日行けなくなった!』
『へ……へっ!?』
『本当にごめんっ! 理由は色々あるんだけど、えーと、その……わっ! そうたっ、寝てなきゃダメだって!』
その時の私の心境。頭にタライが落ちてきた、みたいな。
『ごめん、瑠歌! また後で連絡する! 今日は本当にごめん!』
ガチャ、ツーツー……。
これが、私と悠犀が交わした会話。デート直前の私達の電話だ。
「確かにあの日、俺は高熱を出していた。一緒に住んでいる悠犀に迷惑もかけたと思っている」
「悠犀は優しいもの。熱を出した幼馴染みを放っておくなんて出来ない、……ううん、ごめん、違うの」
「違う?」
「蒼汰を責めたいんじゃないの。そういうんじゃなくて……ただ」
やはり、不安なのだ。昔からの友達で幼馴染みで、家賃が安いからって理由で。
大学生で、一緒に住むって……。
「いやああ……! 悠犀が、私の悠犀が……!」
「いきなり叫ぶな。とにかく、俺は悠犀の幼馴染みだし友達だ。それにあいつは……」
「いや! それ以上言わないで。聞くのが怖い」
「はぁ……もう後は悠犀と話せ。この間のデートはじゃまして悪かったとは思っている。じゃあな」
そう言って、蒼汰は講堂から出て行ってしまった。胸の奥につかえるわだかまり。これを解消するには、悠犀と話すしかない。