11 母と父
リリアの母と父は、やはり美しい顔をしていた。
リリアの母である、ノア・ストーリアは、大人の余裕を含ませた、どこか色気のある表情で微笑む。男女共に、その笑みに見とれてしまう。
リリアの父は、ダンディなおじさま、という印象が強く、実際はコーヒーなんてものは飲めなくて、ジュースが大好きなのだ、と笑いながら言われた時は、そのギャップに、不覚にもときめいてしまった。
渋い声で、外見もダンディなおじさま。
「……アレン・ストーリア」とだけ言ったのは、ただの人見知りのせいであり、クールなおじさまだからではなかった。
あぁ、いけない。いつまでもこんなこと考えていたら失礼よね。
なんて、お嬢様言葉になってしまうが、とにかくリリアの家族は美しいのだ。
そんな美しい家族と、今日は共に過ごします。つまり、お泊まりをするのです。
リリアの部屋に行き、家族について聞けば、リリアには兄がいて、ルイスという名前であることを教えてもらった。
現在は、日本にいることも教えてもらい、私はルイスお兄さん? に興味がわいた。
しかし、リリアはそれ以上は兄の話を続けず、とある小説を出した。
私とリリアを繋ぐ、1冊の本。
現在も、2巻、3巻、と続く悪女小説。
『あなたも、読んでるのよね? この……悪女は眠る、という本』
私たちが好きな本の題名は、〝悪女は眠る〟というもの。
まだ主人公は眠らないし、全部の男の人を虜にしたわけでもない。
まだまだこの物語は続くのだろう。
『ええ、読んでいるわ。それが……どうしたの?』
私がそう言うと、リリアは私に近寄り、耳元で言った。
『私たち、きっと似ているのね。この小説の主人公に憧れたんでしょう?』
にっこりと笑いながら、リリアはソファに座った。
私も笑い返し、頷いた。
『ねぇ。私ね、日本に行きたいの』
突然、リリアは真剣な表情になって、壁にかけてある家族写真を見ながら言った。
……日本? もしかして?
『ルイス兄さんのところに、行きたくて』
そう話す彼女は、少し辛そうな顔をした。
私は、リリアの肩に手を置いた。
『なにか、あったんだね。ねぇ、私たちは似ているのでしょう? だったら、分かり合えると思うの。話してみない? あなたの悩みや苦しみを、全部』
私が優しく言うと、リリアは涙を一粒落とした。
ありがとう、あなたは本当に……私と似ているのね。
と、皮肉を言いながら、彼女は笑った。
お互いに気づいているのだ。
相手が、嘘をついていることを。