9 全力
「白咲さん、すごいね。もうこんなに英語覚えたんだ」
ノエル騒動から、約一週間がたった。
相変わらず私は、先生に英語を教えてもらっていた。
それだけではなけ、自宅でもほぼ寝ないで勉強していたため、後は実践のみとなった。
まだわからない文法も、単語も多かったが、大体はわかるようになったので、あとは話すだけ。
飲み込みが早いね。とは、昔からよく言われていたので、先生の言葉に特に照れる素振りはせず、お礼を言った。
「これで、あの子とも話せるんじゃないかな」
私は目を見開いて、戸崎先生を見た。
この先生は、何もかも知っている。そんな気がして。
……この先生、笑顔も作り物めいているし、妙に私に絡んでくる。 何が目的なの?
そんな私の心情には気づくはずもなく、戸崎先生は笑顔を見せる。
「ほら、行っておいで」
その言葉に私は頷き、駆け足でリリアの元へと向かった。
リリアの元には、クラスの男子が多く集まっていた。
今は放課後。
この後の予定でも決めようとしているのか。
『……なにをしているの?』
初めて、英語を話した。
発音はまだまだ下手くそだけど、みんなは笑わずに、しっかりと聞いてくれた。
リリアはこちらを向いて、微笑んだ。
『今、みんなで私の家に行こうって話しをしていたの。貴女も、一緒に来ない?』
私は、勢いよく頷いた。
そして、両手を差し出して言った。
『私、英語を覚えたばかりで、あまり話しはできないかもしれない。だから……』
震えた声で言う私の手を、リリアはそっと包み込んだ。
リリアの温かさが、じんわりと伝わる。
『大丈夫よ。私、少しでも貴女と話しがしたいの。だから、ね?』
可愛い、というよりも、美しい、という言葉が似合うリリアの顔に、私は見惚れていた。
……この美貌を生かして、女の私も虜にするつもりなのかしら。
一瞬、そんな考えがよぎったけれど、今はリリアの家のことが先だと感じ、忘れてしまった。
『それじゃあ、行きましょうか』
リリアは私の手を引いて、ゆっくりと歩き出した。