四十一話 後日談
アルドニア王国の王城が攻め込まれた事件から、1か月たった。あれから貨幣価値も安定して、コンビニに入ると、きっちり日本紙幣に変換される。
「うーん、やっぱりもう使えないか」
俺はスマホとにらめっこしながら呟いた。
あの日から、通販サイトへアクセスすることができなくなった。
まるでバグがあったゲームがメンテナンスで修正されるかのように。
「まぁ、俺が買って渡すこととかできそうですけどねー」
俺の恩人であり、友人のコンビニ店員の高橋さんが通販サイトに繋がらないスマホを傍目で見ながら言う。
「たしかにそうかもしれませんね」
「今度試してみましょう」
そういって、高橋さんはスマホで通販サイトにアクセスして、何か製品を注文していた。
あれから高橋さんと一緒に異世界に行く方法を二人で考え試していたが、いまだ成功はしていない。
「あ、俺思いついたんですけど、カバンの中に入ると荷物と認識され、異世界に入ることができるんじゃないですか?」
「あ、それいいですね。それも一回試してみましょう」
高橋さんの提案に俺はうなずき、スマホのメモに書き加える。
「あ、もうこんな時間だ。もう行きますね!!」
高橋さんは時計を確認し、焦ったように立ち上がる。高橋さんは大学1年生。比較的ゆとりがあるが、暇というわけではない。
「じゃあ新木さん。お疲れ様です!!」
そういって高橋さんはそう言って走ってコンビニを後にした。
「じゃあ俺も行きますかね」
そういって俺も立ち上がり、コンビニの扉の前に立つ。
自動ドアが開かれる。俺は扉をくぐった。
扉の先は日本ではなく、もう見慣れた風景。異世界の街並みが広がっていた。
「じゃあ行くか」
俺はワインやビールなど酒類とおつまみで重いレジ袋を引きずりながら家に向かって歩き出した。
ずっとお世話になっている宿の扉を開く。
「新木!!もう用意できてるぞ!!」
宿で待ってくれていたのは、時々晩酌に付き合っているこの宿の宿主のおじさんだった。
「すいません。ちょっと野暮用がありまして」
俺はそう言って、ポリポリと頬をかく。ちなみに野暮用というのは高橋さんとの作戦会議のことである。
「まあいいやみんなを待たせるあれだしな」
俺はおじさんに連れられて、食堂のほうに向かう。扉が開かれる。
「すいません遅れました」
俺はそう言って謝る。
「遅いよ新木!!」
元気な声が俺を迎え入れる。そして同時に胸に飛び込んできたピンク色の髪の女の子が一人。
「おーすまんすまん。リーシャ。身長伸びたか?」
「ふふん。わかる?2センチ伸びたんだよ」
そういってリーシャは自慢げな顔を見せる。
「リーシャ危ないよ!!」
焦ったような声がリーシャの後ろから聞こえる。パタパタと走り近寄ってくる青色の長い髪の美少女が一人。
「アドレナも久しぶり」
「新木さんお久しぶりです!!」
そういってアドレナは礼儀よく深々と頭を下げる。めちゃくちゃかわいい。俺がロリコンだったら、やばかった。本当にやばかった・・・
「おー新木殿。やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
渋い声に背筋が自然と伸びる。ゆったりとリラックスして歩いているようようだが、隙はまったく見当たらない。
「お久しぶりです。アレンさん」
自然と頭も下がる。相変わらずの威厳だった。
「あー久しぶりだな。まあ、今日は楽しもう」
アレンさんはそう言って笑った。
そして買ってきた飲み物をグラスに注いでいく。それをアドレナとリーシャが首尾よく配っていく。
そして全員に乾杯の飲み物が行き渡ったところで、静寂がこの一室を包む。
そして高くなっているステージの上に少女が立った。その顔は穏やかで、そしてやわらかい。
『皆さん今日はこのような会にお呼びいただきありがとうございました。私はアルドニア王国第一王女のエメラダ・ナイーグです。乾杯!!』
そういって姫様はグラスをかかげた。俺たちもその音頭を応じてグラスを掲げる
「「「乾杯」」」
パーティー(宴会?)が始まった。
宴会が始まってからすぐに近づいてきた男が一人。リーシュナ商会、店主カインドさんだ。
「いやいや新木さん。こんなところまでお邪魔してすいません。」
カインドさんは温和に話しかける。
「いやいや、カインドさんがいなければこんな会は開けなかったわけですから。それよりすいません。お礼できてなくて」
俺そう言って頭を下げる。あれから俺はリーシュナ商会に何かするということはできていなかった。
「いえいえ、お気持ちだけで結構ですよ。それに」
カインドさんはアレンさんと姫様のほうをちらりと見る。
「いい縁も築くことができそうですからね」
そういうカインドさんの顔は少し怖かった。俺はそれをあははとと笑って流すことしかできなかった。「では今後ともよろしくお願いいたします」と言って俺の前を去っていった。
「ふぅー」
息を吐いて、近くにあった椅子に腰かける。いくら慈善作業をおこなっている心優しき男であっても、商売人。なかなか食えない男だ。すると裾をくいくいと引っ張られる。その方向を見ると、かつてひったくりを繰り返していた現リーシュナ商会、商人ミラだ。
「ねぇ新木。私めっちゃ場違いな気がするんだけど」
ミラはオドオドと苦笑いを浮かべながら俺の耳元でささやく。
俺も改めて周りを見渡す。たしかにこの場には姫様、筆頭騎士、その他多数のアルドニア王国の重役も見られる。
「気にするな。それを言ったら俺も平民だ」
「いや新木はただの平民というのはね・・・・」
俺の言葉になんと言っていいかわからないのか、曖昧な笑みを浮かべるのみだった。
「新木さん・・・何ですか!!!そんな女の子を口説いて!!!」
その言葉と共に肩に強い衝撃を感じる。
「口説いてないですよ・・・相当酔ってますねリーナさん」
肩を組んでくる女の人はいつもお世話になっているギルドの受付嬢リーナさんだ。いつも凛としている女の人だが、今日は顔を真っ赤にしていて普段しないスキンシップをしてくる。そしてその力加減を間違っている。めっちゃ肩痛い。
「私も相手してください!!」
そういってリーナさんは俺の顔に思いっきり近づけてくる。
「ちょっとあなた新木と近すぎ!!」
引き離そうとするミラ。
「嫌です!!離れません!!」
離れまいとリーナさん抵抗する。
「ははは・・・」
そんな二人を俺は笑って受け流すしかなかった。
そんなじゃれ合ってる俺たちに近づいている者がもう一人。
「新木さん、お久しぶりです」
アルドニア王国第一王女のエメラダ・ナイーグだ。
「あ、お久しぶりです姫様」
俺はそう言って頭を下げる。するとすっと距離を近づく姫様
俺のそばにいた二人はなぜかそんな姫様を鋭い目線で見ていた。
それに対して姫様も二人を見ている。見ているというより威嚇しているようだ。
「ねぇねぇ新木、今度、勉強教えてよ」
ミラはそう言って、上目遣いで俺に言ってくる。いつの間にか俺の右腕をミラの両腕がガッチリホールドしている。
「あーいいぞ。と言っても俺が教えられることなんて少ないけどな」
「うん!!嬉しい!!」
満面の笑みの浮かべるミラ。
「新木さん、今度食事に行きませんか」
リーナさんは耳元で俺を誘ってくる。
「あーいいですね。またどこか行きましょうか」
俺がそう言うと、リーナさんは「やった」と言って、満面の笑みを浮かべた。
「あ、新木さん今度、あの”秘密の場所”でお話ししましょう」
姫様は少し頬を赤らめて、俺を誘う。秘密の場所という言葉にミラとリーナは、少しだけ驚いた顔をした後、少し悔しそうな顔を覗かせる。
「わかりました。ぜひ行きましょう姫様」
「あとできれば、私も姫様ではなくエメラダと呼んで下さい」
「いやそれはさすがに」
俺がそう言うと姫様は頬をぷくーと膨らませる。最初のころの姫様とは表情はだいぶ豊かになった。
「じゃあ、エメラダ姫と」
「・・・まぁ今はそれでいいです」
そういってエメラダ姫は笑った。
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「大変なんです!!新木さん!!」
ギルドに入るとリーナさんが慌てて俺のもとに駆けてやってきた。
「どうしました?」
「ちょっと面倒なことが起こったんですけど、なんとかできませんか!?」
「大丈夫です。とりあえず聞きます」
俺の能力はただコンビニを行き来できるだけ。俺はこの能力だけで、この世界で生きていく。
ここまで読んでくださってありがとうございました。新作の『消えた天才《フッカツノネガイとつけられた競走馬》』というものを書いています。是非読んで頂けると有り難いです。




