三十四話 王都へ
「...よく寝た」
起き、外の空気を入れようと曇っている窓を開ける。
「少し、雨が降りそうだな」
そう言って俺は階段を降りていった。空は曇天が広がっていた。
「新木さん、おはようございます!!」
宿の従業員の女の人が元気に挨拶をしてくれる。
「おはようございます」
そう言って俺は食堂にむかう。おっさんには事情を話して、特別に早めに用意して貰った。いつもと何ら変わらない朝食である。特別ではない朝食が嬉しかった。
「ごちそうさまでした」
そう言って俺はまとめた荷物を持って歩き出す。見送りには珍しく、おっさんが来た。
「用事が終わったら帰ってこい。」
おっさんはそう言って笑った。
「はい。わかりました。じゃあ行ってきます!!」
「おう!行ってこい」
そう言っておっさんは俺の背中を叩く。俺はギルドに向かって歩き出した。
ギルドの扉を開けると、冒険者の服を着ているリーナさんがいた。見るからに高価な防具だと素人目にもわかる。武器もかなり巨大な斧で俺では扱うどころか、持つことすら難しいだろう。
「新木さんおはようございます」
俺に気づいて、リーナさんはいつもの笑顔で挨拶してくる。
「おはようございます。リーナさん」
俺は緊張を隠すように笑って挨拶をした。
「いよいよですね」
「そうですね」
いよいよ王都に向けて行動を開始する。しかし道程はどうなるか全く想像できない。戦時中であるため、イレギュラーはいくらでも考えられる。難民を狙う盗賊がいるかもしれない。魔物がいるかもしれない。敵国と遭遇するかも知れない。
「ご安心ください。道程はわたくし、リーナがしっかりとお守りします」
そう言ってリーナさんは斧を軽々と振るう。振るうたびに轟々と風切音が鳴る。
「頼りにしてます」
「はい!おまかせください!!」
そう言ってリーナさんは笑った。少しだけ気が楽になったような気がする。
5分ほどするとカインドさん、リーシュナ商店の従者、そしてミラが来た。
「新木様、おはようございます」
カインドさんは笑顔で挨拶する。
「カインドさん、おはようございます」
「約束通り、早馬と従者を用意しました」
「よろしくお願いします」
そう言って従者の方は深く頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします」
自分も頭を下げる。
「それと、ミラも見送りにいきたいと言ったので、つれてきました」
そう言ってカインドさんはミラを前に出させる。
「新木...王都に行くんだね」
ミラは心配そうに俺を見る。
「あぁ、ちょっくら行ってくるわ」
俺はわざとおどけたように言う。
「...絶対戻ってきてね」
どうやら、今王都に向かうという意味を理解できているあたり、彼女は想像以上に大人になっているようだ。
「わかってる。すぐ戻ってくる」
誤魔化さず、俺は真剣に応える。真剣な言葉には真剣に返事するべきだろう。
「約束だから」
そう言ってミラは手を差しのべて来た。この世界における商人における握手は指切りと一緒の意味を持つ。
「それでは、これからのことを確認しましょう」
カインドさんは時期を見計らって、そう提案してきた。
リーナさんを護衛として一緒に行くことは、驚かれこそしたが、拒否はされず歓迎された。リーナさんの冒険者としての名は広く広まっているらしい。今の状況で腕利きの冒険者はプラスにしかならないらしい。
最終確認が終わると、ギルドの外に出て、馬車に乗り込んだ。見送りとして、カインドさんとミラがいる。カインドさんは従者さんと握手をしている。
「では、そろそろ行きます。忘れ物などはないですか?」
従者さんはそう言って手綱を持った。リーナさんと俺は「大丈夫です」と返事をする。
「新木様、お気をつけていってらっしゃいませ」
そう言ってカインドさんは頭を下げた。
「何から何までありがとうございます」
そう言って俺は頭を下げる。するとカインドさんの横からミラが出てきて、口を開いた。
「新木、またね」
ミラはそう言って笑顔で手をふった。
「あぁ、またな」
俺も再会を誓って、手を振り返した。
馬車が走り出した。俺はミラが見えなくなるまで、手を振った。
こうして、俺はクルベィード街に別れを告げた。




