三十三話 どうやら無駄なことはなかったらしい
「なんでって、私たちこの商店に雇ってもらったの」
ミラはそう言って自慢気に胸を張る。服装も以前より更に身綺麗になっている。
「そうだったんだ。ってミラに商売できるのか?」
そう言うと、ミラは待ってましたばかりに袋のなかを見せてくる。
「これだけ私今日稼いできたのよ」
中には銀貨数枚入っている。
「へーすごいなー」
毎日貰っていた銀貨であるため反応が薄くなってしまう。しかし自力でこれだけ稼げるようになったのなら野垂れ死ぬことはないだろう。
「なにそれ、薄い反応。新木はもっと稼いでるかもしれないけど、私にとってはとても大きな稼ぎなんだから」
そう言ってミラは腕を組ながら、頬を膨らませる。
俺はその怒ったミラの姿を微笑ましく思いながら、賛辞を送る。
「いやーそれにしても、たった数ヶ月でこんなところに勤めているとは、すごいな。」
「いや、カインド店主のおかげだよ。孤児を雇ってくれるところなんて商店ではここだけだから」
「そっかーカインド店主には感謝だな」
「うん。感謝してる...カインド店主にも。そして新木にも。本当にありがとう」
ミラはそう言って俺に頭を下げる。
「いやいや、俺なんて大したことしてないよ」
本当に俺はなにもしていない。ただきまぐれに金貨1枚施しただけで、それを活用し商会に就職したのは、他でもないミラである。
「そんなことないよ。私あのままだったら、今頃どうなったのかわからない。あの時の私に手を差しのべてくれる人なんていなかった。犯罪者はさすがに雇ってくれないからね、流石にカインド店主も。私たちが変わるキッカケは新木が作ったよ」
ミラは頬を赤らめさせ、笑った。その表情はとても充実したものだった。
「そうか...じゃあ俺も頑張らないとな」
ミラも頑張ったんだ。俺もこれぐらいでは挫折してたらいけないな...
「あ、もう行っちゃうんだ」
ミラは少し悲しそうな表情を見せる。
「ごめん、やらなくちゃいけないことがあるんだ」
そう言って俺は歩き始める。
「新木様お待ち下さい」
カインドさんの声がする。どうやら俺とミラの話し声が聞こえていたようだ。
「私はあなたのことを少々見くびっていたようだ」
そしてカインドさんは続けて言った。
「早馬一匹、従者1人、馬車を貸しましょう」
「ありがとうございます」
俺は頭を深々と下げた。
「私はあなたがこの国の有力者だから貸したのではありません。ミラを犯罪を許した挙げ句、手を差しのべてしまうそんな平和ボケした貴方だから貸したのです」
「...」
目頭が熱くなる、しかしなんとか堪える。
「そんな貴方が今度は王都を救う。そんな夢物語に力を貸したくなったのです。」
カインドさんはさっきまでとは違った、笑顔を見せた。恐らく商売用ではない素の笑顔であろう。
「...ありがとうございます」
単純な感謝の言葉しかでない。
「貴方を王都に送ります。しかし絶対に生きて返って来て下さい。そうじゃないとミラが悲しみます」
「わかりました。ありがとうございます」
そう言って俺は頭を深く下げた。
話し合いが終わった。どうやら従者が今居ないらしく、明日早朝に出ることに決まった。3日間の食料はカインドさんが用意してくれるらしい。
リーシュナ商店を出て、すぐに冒険者ギルドに向かった。
「リーナさん!!早馬見つかりました!!」
「本当ですか!いつ王都に向かうんですか?」
「明日の早朝です」
「...わかりました。私も行きます」
その瞬間ギルド内にいた冒険者数名、もう1人の職員がざわついた。
「え!?リーナさんも来るんですか!?」
「実は私って強いんですよ?」
冒険者の話し声に耳を傾ける。
「おいおい...大物喰らいがでるのかよ」
「ドラゴンスレイヤーだろ?あの人」
どうやらリーナさんは実は強かったらしい。
リーナさんがいると魔物が襲いかかってもすぐに倒せる。早く王都に着くことができる。
「すいません。お願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。そうと決まったら、冒険者時代の防具を持ってきます」
そう言ってリーナさんは早退するために、もう1人の職員に頼み込んでいた。
これまでの出会いが王都への道を切り開く鍵になっていた。どうやら、これまでの出会いは何一つ無駄なことはなかったらしい。




