三十二話 異変
「王都になにかあったんですか?」
俺はできるだけ冷静に問う。
「中継の魔法道具がある村から急遽連絡がありました」
リーナさんもできるだけ冷静に事実だけ淡々と述べようと尽力する努力が見受けられた。
「どうやら王都から大量に難民、人がこの街にむかっているようです。」
「...どうしてですか?」
「王都の城が奇襲されたそうです。そして包囲されています。」
「どうしてですか?」
そんなことを言っても無駄だとわかってはいるが聞かざるを得ない。
「戦況は正直言って、圧勝でした。新木さんが新聞を刷っている通りの戦果をあげていました。しかし攻勢に出すぎたようです。城の防御が甘いところをやられました」
「戦力が最低限しかないところに、攻めこまれたわけですか」
「幸い囲んでいる人数が少ないため、無理やり入ってこようとはしないようですが、食料がいつまでもつか...」
リーナさんは神妙な面持ちで現状を述べる。
「...援軍は?戻ってくるんですか?」
「戻ってくるはずです。しかし、上手く軍も敵地へ敵地へと誘導されていたらしく敵軍の必死な抵抗により10日間は戻ってこれないと...」
「最低でも10日ですか...」
重い沈黙が広がる。
10日
とても長い期間である。その間攻めこまれるというプレッシャーのなか過ごさなければならないのだ。士気もどんどん下がるだろう。
ふと自分の鞄の中にある青いペンダントを思い出した。
これがあれば包囲された城の中に入ることができる。しかしこれは半径2km範囲内でなければ、発動しない。要するに王都に急いで行く必要がある。
「ここから、王都までどれだけで行けますか?」
「ここから王都ですか?最低6日はかかりますね」
「そんな...アレンさんと一緒に行ったときは2日でつきましたよ?」
「アレン様がもっていた馬は早馬と言って、風魔法をもった馬です。しかしそんな馬もっているところなんて、ほとんどいません」
「ほとんどってことは、もっているところがあるっていうことですよね?」
「そうですけど...早馬は高級なものであるのに加えて、希少性の高いものです。ですから貸してもらえる可能性は...」
リーナさんは言葉を濁しながら伝えてくる。
「そうですか...でも場所だけでも教えてほしいです」
「新木さん...わかりました。うーん、貸してくれそうなのは・・・ここですね」
リーナさんはそう言って、リーシュナ商店を指差した。
リーシュナ商店。この街に住んでいれば聞こえてくる大手商店である。慈善活動もしており、好感度の高い商店であるらしい。とはいっても大きな商店である。好意だけで貴重な早馬を貸してくれるとは思えない。
「ありがとうございます」
浮かび上がるマイナスな思考を振り切って、俺はリーナさんにお礼を言って早速リーシュナ商店にむけて走り出した。
「ここか…」
俺はリーシュナ商店にたどり着いた。門には当たり前のように門番が1人立っていた。
「店主に会いたいんですが」
俺は門番に話しかけた。門番は笑って語りかけた。
「約束はされていますか?」
「いや、していません」
「ではお名前と身元の証明できるもの、目的をお教えください」
門番はマニュアル通りに話を進めていく。
「名前は新木蓮と申します。目的は早馬に関する商談。身分証はこれです」
そう言って俺はアドレナ王国の紋章を差し出す。それを見せると門番も目を見開く。しかしさすが大手の商店お抱えの門番、すぐに笑顔を取り持ちした。
「確認させていただきますね」
そう言って門番は紫色の魔石で照らす。
「確認できました。客間でお待ちください」
そう言って門番は何らかの魔法か。連絡する。1分もかからずメイドがやって来た。
「新木様。どうぞ中へ」
そう言って俺はメイドに続いて中に入っていた。まずは第一段階突破である。
「いやーすいません。すこし情報収集しておりまして、バタバタしておりまして」
そう言って男は入ってきた。見た目は優しそうで、太っても痩せてもいない。そして華美な装飾もつけておらず、清潔感がある。好感の持てる男である。
情報収集というのは十中八九アドレナ王国のことであろう。
「突然の訪問申し訳ありません。私。新木蓮と申します。」
俺は立ち上がって突然の訪問を詫びる。
「ご丁寧にすいません。私リーシュナ商店の店主をさせていただいているカインド リーシュナと申します。どうぞお掛けになってください」
そう言ってカインドさんと俺はソファーに向かい合う形で座った。独特の緊張感が漂う。
カインドさんは紅茶を口に含ませながら本題に入った。
「早速ですが新木様の御用件に入らせていただきますね、門番によると早馬に関してのようですが」
「はい。私実は一刻も早く王都に行く用事がありまして、その際にリーシュナ商店の早馬を貸して頂けたらなと」
「なるほど...御用件はわかりました。そして戦争の渦中である王都に行く理由も、その紋章をもっていることから何となく推測できました」
そう言ってカインドさんは俺に笑いかけてきた。
「では」
「しかしお断りします」
俺の言葉を遮るようにカインドさんは言った。
大丈夫。想定していたことだ。ここからだ。
俺はそう自分にいい聞かせて紅茶を口に含み口を開く。
「理由を伺ってよろしいでしょうか?」
「早馬は貴重です。簡単に渡すことはできないというのが一点。また、私たちリーシュナ商店は今、この国を脱出することを検討しています。今はまだ、検討の段階ですが。そのときに私達の商会が所有している早馬が1頭でも欠けしまえば、私達の店員の何人かをこの国に置いていかなければならなくなってしまうのです」
「なるほど...事情はわかりました。しかし私が行かなければこの国は...」
相手は兵糧攻めをしている。これを助けることができるのは俺だけだ。
「では、あなたが行ったのならこの国は救われるのでしょうか」
「それは...」
救える、と断言することはできなかった。
「それに私は特別のこの国に思い入れはないんですよ。この国は悪国でもなければ良国ともいえない。凡国です。豊かではありますが、浮浪者や浮浪児もいます。」
そう言ってカインドさんは紅茶を口に含んだ。
「そんな国と私たち家族を比較すると、どっちを優先するか、貴方でもわかるでしょ?」
静寂が広がった。俺は何も口を開くことができなかった。
ダメだ。説得できない。
俺はそう悟った。
「わかりました・・・お忙しい中ありがとうございました」
「ご協力できず、申し訳ありません」
そう言って俺は客間を出た。
どうする。どうすればいい。この他に早馬を持っているところを当たるか?
思考がぐるぐると回る。
失意のまま玄関から出ようとした、そのときだった。
「あれ?新木じゃん。どうしたの?」
身に覚えのある声だった。
「ミラ?なんでここに?」
そこにはかつての浮浪の少女がいた




